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パンツパラダイス

 結構暑くなってきたなぁ。

 朝のHRが始まる前の時間、俺は席に座ってぼんやりと教室の中を眺めていた。

 みんな思い思いにおしゃべりをしたり、授業の準備をしたりしている。宿題をやっているやつもいる。

 加藤は机に突っ伏して寝ている。昨日徹夜でエロゲでもしたのだろう。

 豪徳寺さんは友達の話を微笑んで聞いている。あまり積極的に発言はしないが、うまく相槌を入れたり話を広げたりして、会話に参加している感じだ。

 ふと何気なく一人の女子のスカートを見ていた。かなりの短さだ、これではちょっとした風でもパンツが丸見えになるだろう。だが不思議なものだ、実際にはほとんど目にする機会はない。超常的な、何らかの力が働いてしっかりとガードされているのだろうか、まさに世界の神秘である。

 と、突然そのスカートが激しく上へと舞い上げられ、赤とピンクに彩られた、ややはき込みの浅いタイプの下着が完全に露になったのである。

 それは三秒ほどの出来事だった。

 なるほど、彼女は結構活発なタイプだし、あんなに短いスカートをはくだけあって見られることを意識しているのだろう。色柄もイメージ通りだし、これは順当なところだ。きっと小学生のときから服と一緒に下着も自分で選んで買っているに違いない、そう思った。

 しかし風か? でも窓からは距離があるし、風が吹き込んできている様子はない。もちろん誰かが手でめくったのでもない。それができる位置にいる人は誰もいなかった。

 最初本人は気がついていなかったが、周りが指摘し、恥ずかしがっている。周囲を見回し、見た人がいるかどうかを確認し始めたので、何気ないしぐさで目を逸らした。ばれてない、ばれてない。

 一体なんだったんだ、こうやってスカートを見ていたら、と別の女子のスカートを見ていると。

 今度は、白地に水色の柄のノーマルなタイプのパンツが露になった。スカートは激しくはためき、抑えられないほどの勢いでその役割を放棄している。これも三秒ほどだ。

 ふむ、彼女は結構おとなしいタイプだし、あまり下着に気を配っていないのではないだろうか。一応自分で買ってはいるが、あまり深く考えてはいないのだろう。あくまで無難なところを選んでいるだけ、そう思った。

「何? 風? 勘弁してよもう」

 今度は窓の近くだったが、窓から吹き込んだにしては妙な角度だった。不思議だ。これは何かあるのかも。

 そうこうしているうちに古文の先生が入ってきて授業が始まった。

 古文の先生は五十過ぎのおばさんだ。独身だという話である、まあどうでもいいことだが。

 別に中を見たいなんてことは微塵も思わないが、授業が退屈なのでなんとなくスカートのあたりに目が行っていた。

 すごい勢いで紫の派手なフリルのついた下着が露になった。おいおいおい、それは望んでないだろ、誰も。しかし露になってしまった。還暦手前の独身女性の本来露になるはずのない部分が、四十人の生徒の注目する中、はっきりと晒されてしまったのだ。またもや三秒ほど。

 まあ、これはノーコメントで。

 教室中騒然としている。先生はかなり動揺していたが、そこは教職のプロ、

「静かに。授業を続けます」

 と何事もなかったように授業を再開した。

 だがこれで俺は確信した。俺だ。原因というわけではないが、きっかけは俺に違いない。おそらくまたカオーソの仕業なのだ。こんなうれし……いや、やっかいなことはそれしかありえない。

 俺はそれからスカートに目が行かないように気を使いながら、なんとかスカートをめくり上げることなく午前の授業を乗り切った。いくら俺でもそんなにむやみにめくりまくったりはしない。こういうものは偶然見れてラッキー的な部分がいいんじゃないか。必ずめくれるなんてそんなことは俺の主義に反している。そう言い聞かせながらも、やっぱりちょっと見たいという素直な気持ちも確かに感じているのだった。だが我慢した、その程度の理性は保っている。


「でもさっきは驚いたな、あんな派手なパンツはいてたなんて」

 食堂で加藤が話し始めた。いや、たしかにそこも驚いたが、そもそもめくれたことに驚かなくていいのだろうか。そんな気がした。

「うん、いい年してね。いやむしろだからこそ?」

 どうやら加藤は最初の二人は見てなかったらしい。ずっと寝ていたからな。

「はは、年取ったら隠れたおしゃれってわけかよ。かもな」

「あ、相良来た」

「お」

 無意識だった。俺は無意識にスカートを見る男。そう思われるとしたら、それは甘んじて受け入れるしかないだろう。なぜなられっきとした事実だからだ。

 相良のスカートは激しく重力に逆らい、中にあった真っ白なパンツを公衆の面前にさらしたのだった。生地は綿で厚手のはき込みの深いものだ、商品名を言えばわかりやすいが、あえて伏せておく。時間はもちろん三秒ほど。

 ちなみに出会ってから今までの間、相良のスカートの中を見たことは三回しかない。一度目、二度目は小学生のとき、三度目は中学のときだ。だがその全てで同じパンツであった。もうそろそろ卒業してもよいのではないか、そんな気もしてしまう。

「おいおい、おいおい」

 加藤のパンツへの執着は胸に比べて強くないが、そうは言っても嫌いでもないはずだった。

 ごめん相良、俺はちょっとした自責の念に駆られながらも、光景はしっかりと記憶に刻み込んだ。

 相良は周囲に睨みを利かせつつ、何事もなかったかのように食券の販売機に並んだ。

「なんなんだ? 今日」

 加藤はかなり疑問に感じているようだ。そりゃあそうだろう、常識的に考えてめくれるはずのない状況なんだ。古文の先生も、相良も。

「風が……強いとか?」

「いや、風とか吹かないだろう。窓もドアも閉まってたし」

「だよな」

 とにかく不思議だよな。なんでだろうな。で通した。そうするしかないだろう。

「でもお前的には願ったり叶ったりみたいな? ひょっとしてお前の仕業だったりして」

「いやいや、そんな能力あっても先生には使わないだろ。どう考えても」

「それもそうか、はは」

 だが実際には使っているのだった。気がついていなかったとはいえ。そんな俺って。

 ともかくカオーソにやめさせなければならない。学校が終わったら豪徳寺さんの家に行くか。だが豪徳寺さんに会うわけにはいかない。もしやってしまったら、嬉しさより後悔が先立つだろう。最後のHRが終わり次第直行だ。


 最後のHRが終わった瞬間、俺は全力疾走で脇目もふらず学校を飛び出した。

「カオーソ!」

 校門を出たところにカオーソがいた。お迎え? いつもは来ていないが。

「どうだった? 僕のプレゼント。気に入ってもらえたかな」

「いや、もう勘弁してほしいんだけど」

「えーっ、おかしいなぁ。キミの望みを叶えたはずなんだけど。だっていつもキミはパンツのことで頭がいっぱいでしょ。喜んでくれると思ったんだけどなぁ」

 それは事実ではあるが、それとこれとは話が別であった。

「とにかく、もうめくらなくていいから」

「そんなぁ、まだ三百人くらいめくれるんだよ。ぜんぜん使ってないじゃん、もったいないなあ」

 人数制限があるのか? だがそんなにめくったらありがたみも何もないだろう。

「いいんだよ、早く」

「あ、カオーソ、来てくれたの」

 振り返ると豪徳寺さんがいた。

 でもなんでだろう、こんな状況で、俺の視線はなぜそこへ向かうんだろう。それは理屈じゃあないんだ、本能であり反射神経であり生まれもった性質なのだろう。人類が長い歴史の中で獲得した、脳内情報処理の特性なのかもしれない。だが俺にはまだ理性がわずかに残っている、すばやく視線を逸らしまくった、とにかく他のところを、他のところを見るんだ。

 次の瞬間、すべてがめくれあがった。

 放課後の校門前で、家路に向かう多勢の女子高生のスカートがいっせいにはためき、そしてまるで色とりどりの草花が咲き誇る春の草原のように、色とりどりの下着が次から次に乱れ咲いたのであった。今回は大盤振る舞いで十秒の長きにわたってである。その間世界は光に満ち溢れ、この世に極楽浄土というものがあるのなら、それはここなのではないか、そうに違いない、俺にはそう実感するに十分な光景であった。

 もちろん、その中には豪徳寺さんの薄いグリーンにワンポイントのリボンがついた下着も含まれている。

 やはりあまり派手な色や柄の下着は好みではないのだろう。だが白というのも子供っぽくて恥ずかしい。そういった観点から選択されたものと思われる。

「おー、こりゃあすごいや」

 カオーソはご満悦だった。まあある意味豪徳寺さん一人がめくれるよりは被害が少なかったと言えなくもない。大勢の中に紛れたという意味で。俺的にはさほど紛れてもいない、こともない、こともないんだが。ごめん、そうとしか言えない。

「カスミが近くに来たから、一気に使っちゃったよ。はーすっきり」

 確か、近くにいると力が強まるんだったな。それでこの大出力ってわけか。

「なにすんの! カオーソ! あ、須磨くん……今……」

「いや、みっ見てなかったよ。うん」

「そ、そう。なら、いいけど……」

 ああ、ごめん豪徳寺さん。十秒中九秒は見ていたよ。そして残りの一秒は他の女子のパンツを百人分くらい見たよ、電光石火のスピードで。

「じゃあ、俺帰るね、また明日」

「うん、またね」

 とにかく居づらい気持ちになった俺は、早足で自宅に向かったのだった。


「いやあ、大変だったよ」

「今日は早いのだな。学校とやらを追い出されたか? 変態め。全身がこんにゃくになって死ぬがいい」

 追い出されていはいないが、当たらずとも遠からずとも言えた。

「そういえばカオーソが貴様に礼をするというのでな、貴様の好みを教えておいてやったぞ。ありがたく思うんだな」

「え、好みって」

「パンツに決まっているだろう、貴様の一番好きなものだ。言わせるな、バカが」

 そういうことね。

 でも、お礼はありがたくいただいたよ。ちょっともらい過ぎたくらいだな。


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