ひみつの信号
「ピンポ~ン」
アパートのチャイムが鳴り響いた。
玄関を出ると、そこには髪の短い若い女性が立っていた。
「こんにちは、上の部屋に引っ越してきた兼村と言います」
「どうも、高宮といいます」
「宜しくお願いします。これ、つまらないものですが」
そう言うと、彼女は手に持っていた紙袋を差し出してきた。
「どうも、ありがとうございます。こちらこそ宜しくお願いします」
上の部屋に若く可愛い子が引っ越してくるとは!!
これからは、ドラマのような出来事が起こるのか?
「これ、作り過ぎちゃったんで」と料理を持ってきてくれたり…
「パソコンの配線がわからなくて」と助けを求めてきたり…
「ゴキブリが!!」と抱きついてきたり…
そして、2人は親密な関係になり…
おいおい、もう結婚式には大家まで呼んじゃおうか?
ベッドに寝転がり天井を見上げると、上の部屋に住む彼女のことが気になる。
今は何をやっているのだろう。
目を閉じて、耳を澄ませてみる。
すると、かすかに音が聞こえてきた。
「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」
音が5回鳴った。
まさか、これは!!
「ア、イ、シ、テ、ル」
のサインか?!
「ドン、ドン、ドン」=「ス、キ、ヨ」
「ドン、ドン、ドン、ドン」=「ダ、イ、ス、キ」
上の部屋から送られてくる雑音にこんなメッセージが込められていたとは。
上下に接した部屋にしか伝わらない、秘密の信号。
「ドン、ドン…」
「キ、テ…」
毎日おくられる悩ましい誘惑。
いつまで俺の理性は耐えられるだろうか。