第5話 静かな不安 ~ラディウス視点~
その報告は、突然だった。
「ルルリお嬢様が、魔法を――」
父は手元の書類を置き、顔を上げた。
「……何だって?」
使用人たちの表情は一瞬で硬くなる。誰も言葉を失い、ただ目を見合わせるだけだった。
「図書館で、本が落ちかけ……それを、水で受け止めたそうです」
水――?
父の胸が跳ねた。
セレスティア家は光属性の家系だ。水属性なんて生まれたことがない。ルルリが何属性だろうと、べつに問題はない。だが一歳の子どもが、魔法を?
思わず声が漏れた。
「……本当に…水……!?」
母も息をのむ。顔色が少し変わった。
「ルルリ……そんなこと、できるの……?」
二人の目が、互いに何度も行き来する。魔法が使えるようになるのは普通、三歳くらい。それなのに、一歳。しかも水属性。父は唇をかみ、息を整える。
「信じられん……一歳で、しかも水……」
母は眉をひそめ、静かに続ける。
「倒れたの……? でも大事はないのね?」
医師は、
「ええ、意識は戻っています。でも、少し熱があります」
父はゆっくりと頷き、しばらく黙って考える。一歳。まだ言葉もままならない年齢。
それなのに魔法を――
使った魔法は水――
しかも倒れた――
考えれば考えるほど、驚きが大きくなる。母は深呼吸をひとつして、ルルリの寝顔を見下ろす。
「でも……驚くことばかりじゃないわ。まだ一歳。倒れるのは無理もないわ。魔法も、体の成長も、ゆっくり見守ればいいのよ」
父は静かに頷き、そっと小さな手に触れる。ひんやりとしていて冷たい。こんなにも小さな体から、水が生まれた――。
それを考えると、恐ろしくもあり、誇らしくもある。
「一歳で発現する魔力としては特別だ……これは普通じゃない」
父は小声で呟き、母も同じように頷く。
「でも、無理はさせない。倒れるほどではなかったし、様子を見ながら少しずつ……」
「そうだな……無理はさせぬ。じっくりと見守ろう。焦ることはない」
母が目を細め、少し笑みを浮かべる。
「でも……一歳で水の魔法だなんて、ツッコミどころ満載すぎるわね、ほんとに……」
父も笑いながら肩をすくめる。
「いや、ほんとに。もう……驚くしかないな……」
二人は、静かに寝ているルルリの小さな体を交互に見つめる。小さな胸が、ゆっくり上下している。
何も知らない寝顔。自分の中にある力の大きさを、まだ理解していない。
父は思う。
――ただ体が弱いだけならよかったかもしれない。けれどこの水の力が特別なら……
その代償は、何だろう。
母はそっとルルリの額に手を置く。
「でも大丈夫。ちゃんと守るから。焦らずに、ゆっくり、ね」
父も、静かに頷く。
「まずは様子を見て、無理をさせず、しっかり育てることだ」
窓の外で、夜風が揺れる。
星の光が屋敷の庭に降り注ぐ。その光は、水の力の粒子のようにも見えて、父と母は小さく息を飲む。
静かな不安と少しの誇らしさ。そして未来への期待と、慎重な心配。
小さな一歳の子どもが、この先どんな力を持つのか――
二人の心は揺れ、胸は高鳴った
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