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たまたま助けた人が聖女なわけないだろう 1章-2

「兵士さん?兵士さん!大丈夫ですか?(バシバシッ)返事してください!私のことが分かりますか?見えてますか?お願いですから何か言ってください!(ガクガクッ)ああどうしよう?どうしよう!誰かいませんか!彼を助けてください!誰か!傷が深くて!・・・・・傷?そうだ、毒だ!毒のせいで意識が無いのですね!毒の対処は・・・・・口で吸い出す。よし。兵士さん!ちょっと傷口の方を失礼しま」


 この辺りで我に返った。そう、確か深夜の森に出現した魔物を思わぬ形で退治したのだった。緊張の糸が切れてしまったのか座り込んでいた。

 女性は右肩の傷に何かしようとしている。毒とか吸い出すとか言ってたような・・・・・。


「待て待て!」女性の肩を掴んで傷から離す。

「兵士さん!よかった。意識が戻ったのですね!大丈夫ですか?手足が動かないとか痺れるとかそういったものはありませんか?」

「別に毒を喰らったわけではない、大丈夫だ。ただ・・・・・疲労と出血のせいで頭が回らなかった。」


 正しくはつい先ほど起こったことを理解するのに時間が掛かっていたのだが。


「そうだ、傷の手当てをしないと。でもどうすれば?」


 頭を抱えて右往左往する女性の姿を見ながら、ポケットから白い布を引っ張り出し圧迫止血をする。布に血がしみこんでいくのが感覚で伝わる。

 森の奥からほのかに灯りが見えてくる。そろそろこちらも動き出したい所だがその前に、


「聞きたいことがある。」

「あっはっはい!」


 何故かワンピースの端をちぎろうとしている女性に話しかける。


「一体何をした?」

「・・・・・何がですか?」


 声のトーンが変わる。


「魔物を倒しただろう?弱らせたとはいえヤツはまだまともに動ける状態だった。力技でも一瞬で消滅させるのは無理だ。あなたはヤツに何をした?」

「はて?一体何のことなのか・・・・・よ・・・・・よよよよく分からないです・・・・・ね。」


 平静を保とうとしていたようだが思っていたより早く瓦解した。段々ガタガタと震え始めている。


「それだけではない。あのような強力な魔物が怯えるなんて。お前は何者だ?」

「わわ、私はただの庶民です!こんな小娘が魔物を倒すなんてああありえないですよね!そ、そう!きっと弱いパンチでも耐えられないくらい弱っていたんですよ!流石兵士さん!お強いです!」


 視線が右に左に泳ぎ身振り手振りも声も大きくなる。あまりにもあからさまに動揺するから1周回って演技には見えない。

 身分についてはどうも隠したがっているようだ。もし単なるご令嬢様とかなら別に用はない。一般人でも同様だ。だが『魔力持ち』なら話は別だ。さっき彼女が魔物と対峙したときに霧状のものが立ち込めていたが、あれは魔法を使うときに確認できる魔力の反応だ。魔法を扱える一般人、あるいはご令嬢か?いずれにしろ要監視対象だ。


「隊長!!!そこにいますか!!!」


 カンテラの光が強くなり茂みが踏まれる音が大きくなっていく。


「はーい!!!ここにいまーす!!!兵士さんがケガしてるので急いで来てくださーい!!!」


 彼女が大声を上げ、カンテラの光に向かって手を大きく振る。彼女の声に兵士たちが集まってきたためこの場は無理やり切り上げられた。


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 あの後森の入り口に戻ってきた。自身を含め負傷者が出てしまったが、魔物を取り逃がす、街に侵入を許すような事を免れただけ良しとしよう。

 彼女を逃した軍医にはとりあえず拳を下した。ちょっと目を放したら居なくなったとのことだが言い訳になってない。

 彼女については一旦軍で保護することにした。諸々報告すべきだったのだが途中から記憶がない。

 そして現在、騒がしい声によって起こされる。

 俺は医務室のベッドの上にいた。あの後眠ってしまったのか。


「隊長、おはようございます。肩のケガは大丈夫ですか?」


 別のベッドには昨晩の負傷者二人が起き上がっていた。もう一人の負傷者は比較的軽傷だったか歩き回っていた。


「ああ、いや、まだ痛むな。お前たちの方こそ大丈夫か?」


 噛みつかれた右肩に包帯が巻かれ、腕は三角巾で吊り下げられている。変に動かすと痛みが走る。


「ところで外が騒がしいが何かあったのか?」

「それがですね、昨日の女の人が」


 部下が答えようとしたところで扉が開く。軍医が戻ってきた。


「隊長、起きましたか。肩はどうでしょう?」軍医は肩を触診しようとする。


「その前に確認なのだが、ウーファー。」

 軍医ことウーファーはニコニコとしている。


「あの女性は今どこにいる?」

 顔を逸らすウーファーの頭の上に拳を下した。


「昨日の今日で何してんだ。」

「今回は僕のせいじゃないですよ!ってどこに行くんですか!?」


 上着を羽織って外に向かう。ウーファーは追いかけてくる。


「今手が空いている人たちに探させてます。ケガ人なんですから安静にしててください。」


 声を小さくして言った。


「『魔力持ち』だ。もし何かあれば対応できるのは私だけだ。」


 魔法の使える彼女を放置しているのは凶器を持った人間を放置しているのと変わりはない。ひとたび暴れだせは死傷者が出てしまう、そのくらい魔法は脅威である。

 ウーファーは少し考え、


「分かりました。ただあの様子だと敵の可能性は限りなく低いと思いますね。余計な混乱を起こしかねないですし、あの子もあまりそのことを知られたくないと思いますので情報共有は保留にします。無理をしないでくださいね。」

「分かった。」


 ウーファーは戻っていく。

 一先ず城下町に向かうものの探す当てはない。更にタイミングの悪いことに市場の日と被っている。人が多くて探し出すのは難しい。そもそも露店の並ぶ通りは巡回済みだろう。他を探そう。

 露店をざっと見渡しつつ考えていると一人だけ浮いている人がいる。白いワンピースの女性。


「わぁー、おいしそー。」


 ふらふらと歩き回って露店の串焼きに釘付けになっている。その姿は露店回りを楽しむ子どものようだ。俺はこの女性は逃走していると思っていたが間違っていたか?邪魔をするようで悪いが、


「おい、何をしている。」

「あっ、兵士さん!おはようございます。兵士さんも遊びに来たのですか?」


 この人は立場を分かっているのか?何から話せばいいか頭を抱えると露店の店員が話しかけた。


「どうも兵士さん!・・・・・おや、お嬢さんも居ましたか!今日はデートですかぁ?」

「いや、そういうわけでは。」

「いやぁ冗談ですよ。道案内お疲れ様です。よければこれ買ってってくださいよ。おまけするんで。」


 店員は串焼きを2本差し出す。ソースの香ばしい香りが漂う。

俺が何か言い出す前に腹の虫が答える。彼女は赤くなり店員は笑い出す。


「・・・・・じゃあもらおうか。」懐から小銭入れを取り出した。


 彼女に連れられて広場のベンチに座らされる。


「んー!おいひいでふ!」

「あー、それはよかった。」


 俺もお腹が空いていたから無意識にかじりついていた。確かにおいしい。スパイスを利かせているのか香りも味も良いし肉も上等なものを使っているようだ。

 じゃなくてだな。


「これを食べたら城に戻るぞ。」


 彼女は手を止めた。


「今あなたが居なくなって騒ぎになっていたんだ。」

「えっあっそうだったんですか!?申し訳ないことをしてしまいました。」


 慌てたような反応をしたものの表情が暗くなっていく。

 そういえばこの人は『捨て人』だ。恐らくだがこの人は行く当てがない。もとの国に戻ったところで帰る所がないのだろう。昨日の魔物騒動と関係ないとはいえ負傷者だったため保護してはいるが、歩き回れるくらいにケガが治っている以上無関係者は城から出てってもらわなければならない。

 ただしそれはこの人が普通の人だった場合の話だ。

 昨日の魔物と対峙したあの時に何をしたのか?聞き出すために口を開く。


「泥棒だ!誰かそいつを捕まろ!」


 誰かが叫んだかと思ったら何かが横切り、その後を追いかける人の姿が見えた。泥棒は追手や捕まえてくる人たちを振り払い走っていく。


「軍人の前を通っていくとは良い度胸している。」


 お前反応できてなかったじゃんとか思ってても口に出すなよ。


 右腕はまともに動かせないが別に問題はない。食べかけの串焼きを口にくわえて、左手に魔力を込める。追手や一般人に当たらないように上に向けて赤色の魔弾を放つ。弾が遠くに逃げていく泥棒の頭上に来たタイミングで・・・・・下す!

 向こうの方に人がどんどん集まっていく。無事に泥棒に当たったようだ。


「すごい魔法が使えるんですね。」


 彼女の表情が明るさが戻ったようだ。しかし、申し訳ないが一旦水を差させてもらう。


「あなたからしたらそれほど珍しくもないでしょう?」

「へ?」

「魔法、あなたも使えるだろう?」

「いやいや!私はあんなのはできないですよ!」


この期に及んでまだとぼけるのか。あるいは聞き方が遠回しすぎか?


「昨日の魔物の件、まだ納得できる話を聞いてないぞ。」


 彼女は黙る。どうしても知られたくない何かがあるのか?


「隊長!ここにいましたか!」


 部下のルーポがこちらに走ってきた。彼女もいることに気付き、


「あれ?君どこに行ってたんだよ。」

「ご、ごめんなさい。」

「まあ特に何もなさそうだしいいけど。」


 ルーポは視線をこちらの方に、正しくは左手の方に移しながら、


「隊長も何やってんすか。」

「真面目な話をしていたと言いたいところだが。」手に持っている串焼きのせいで説得力がない。


「ところで何かあったか?」

「そうです。来客ですので戻ってください。」

「・・・・・まさか?」


 ルーポの後ろからひょっこり人影が現れた。


「うわっ!」

「へ?あっわぁっ!?」


 老婦人がニコニコと手を振りこちらに近づく。


「怪我をしているじゃない。大丈夫?」

「マダム。お願いですからこっちには来ないでください。せめて事前連絡だけでもお願いします。」

「マダム呼びなんてまるで他人行儀ね。ひどいわぁ。」


 今はそれどころではないのだが。


「レーヴェさん、ちょっと待っててって言ったじゃないですか。」

「あら、ごめんなさい。でもあっちの用事はもう終わっちゃったの。」


 レーヴェと呼ばれた老婦人は視線を俺の横にずらす。目線の合った彼女は会釈をする。


「ところでそちらのお嬢さんは?」

「昨晩の魔物捜索の時に保護しまして。」


 老婦人は彼女をじーっと見る。


「失礼だけど、あなたは戻る当てはあるのかしら?」

「えっえーっと・・・・・その・・・・・。」

「あら、やっぱり。」


 嫌な予感がする。


「マダム。一旦立ち話はここまでで。これから私達は城に戻りますので。」

「もうっ。女性同士の会話を邪魔しちゃ駄目よ。」


 老婦人に肩を叩かれる。それもケガをしている方に。痛みに悶えている間に会話は進む。


「あなた、もし良かったら私達の屋敷に来ない?」

「レーヴェさんの屋敷ですか?」


 少しの沈黙の後、老婦人は笑い出す。


「ごめんなさい。こんな言い方したらそうなるよね。」


 この次に続く言葉は概ね予想がついた。


「レオニーの屋敷に来ない?」

「レオニーってどちら様ですか?」


 視線がこちらに向く。


「・・・・・何か反応しても良いじゃない、レオニー。」

「勝手に決めないでください、あとその呼び方はやめてください、母上。」


 思わず呼んでしまった。ああそうだ、この人は俺の母だ。

 あとレオニー呼びに反応して笑いを堪えてるそこのルーポ。覚えておけよ。


「良いじゃない。あなた普段は屋敷にいないんだし、使用人も最低限だから部屋も余っているでしょ。ああ、ただ飯喰らいは嫌ってこと?なら使用人として働いてもらえばいいでしょう。」

「だから勝手に決めないでください。それに俺の所じゃなくて」

 

 母の右手が俺の左肩に触れる。出かかった言葉を飲み込んでしまったが、せめてもの抵抗として話を続ける。


「彼女の意見は尊重しましょう?一方的に話を進められても困るでしょうし。」

「確かにそうね。あなたはどうしたい?」


 話を振られた彼女は少し考えた後、意を決した顔でこちらを見た。


「ご迷惑でなければ、行き先が決まる間だけでも私を置いてもらえませんか?もちろん私にできることなら何でもやります。」


 その言葉に母は嬉しそうにする。

 正直断って欲しかったのだが、この流れでそうするのは難しいか。保護にしろ拘束にしろどんな形であれ『魔力持ち』を監視下に置くべきだとは考えていたが、あくまでそれは秩序を守る軍とかの役目であって俺個人の義務ではない。それに仮に彼女自身に害が無くても、素性を隠したがっている以上その内容次第ではトラブルの原因になりかねない。あまり帰らない屋敷にとはいえ匿いたくないというのが本音である。

 しかし真剣な顔つきの彼女にやっぱり無理だなんて言えるはずもない。というか言ったらそこにいる部下と母が何を言ってくるか分かったもんじゃない。


「・・・・・分かった。」

「ありがとうございます!」


 彼女の表情が明るくなる。


「私、まだ名前を言ってませんでした。セ、セイラって言います。」


 セイラは頭を深々と下げる。


「セイラ、まだ俺も名乗ってなかったな。レオンハルトだ。」

「よろしくお願いします、レオンハルトさん。」


 諦めた。もうどうとでもなれ。


「じゃあセイラちゃんのことは私の方から言っておくわ。」


 また後でと手を振り、母はそう言って立ち去る。


「じゃあ俺も捜索に出てる人たちを呼び戻してくるので、隊長もそれを食べたら戻ってくださいね。」


 ルーポも走って行く。串焼きについてはもう触れないでくれ。

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