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始動

チョロチョロと水の音が聞こえる。ちゅんちゅんと鳥の囀りも聞こえることからここが外であることは間違いないだろう。

目の前は真っ暗。

真っ暗なのは目を閉じているから、そんなことは分かっていた。

ただ、目を開けるのが怖かった。

最後に見た金髪女の笑った表情を思い出す。

(あいつ、笑えるのか・・・)

目を閉じた状態でそんなことを考える。

この目を開けると目の前には中世ヨーロッパの世界が広がっているのだろう。

「あのぉ〜、大丈夫ですか?」

突如声をかけられ目を見開く。

目の前に現れたのは赤い山の壁画だった。

その下には浴槽があり、まるで日本の銭湯だった。

予想していた情景とのギャップの大きさに唖然としていると

「あのぉ〜、生きてますか〜?」

俺の呆然とした顔を覗き込むようにして大きな白シャツ一枚の黒髪ボブカット少女が質問をしてきた。

「なんとか生きてます」

咄嗟にそう答える。

「良かった〜」

そう言いながら微笑み安堵している少女。

「えっと、突然の質問で悪いんだが、今って何年?」

まずは自分が過去に飛んでいるのかどうか確認する必要がある。

「え?今は・・・」

人差し指を顎に置きながら考えている。

「おーい、セント!」

突如後ろから野太い声が聞こえた。

「あ、センチョー!ちょっとこっち来てください!」

少女がその声の主を呼ぶ。

(センチョー?時代のことを考えると漁師か海賊といったところか?)

そんなことを考えているとセンチョーと思わしき人物が現れた。

赤髪で額には大きな傷跡、白シャツの両袖を肩まで捲っていて、超ゴツイ。海賊の船長だとしても違和感は一切感じない。

「なんだぁ〜おめぇは」

不審な目で俺のことを見てくる。

「お、俺は旅人だ」

実質タイムトラベラーだから嘘は言ってない。

「ほぉ〜、旅人かぁ〜」

怪しさしかないが、納得したようで少し安堵する。

「で、なんで旅人が開店前の銭湯の中にいるんだ?」

目つきが不審者を見るそれになった。

「いや、えっと・・・」

なんとか見逃してもらえるよう言い訳を考えるが、この状況を見逃してもらえる嘘など咄嗟につけるわけがない。

「まさか銭湯を無銭で利用するつもりだったんじゃないだろうな」

ただでさえ怖い顔がさらに怖くなる。

(まずい、これはいきなりゲームオーバーかも)

そう思い諦めかけた時。

「待ってくださいセンチョー!」

右手のつま先を天に突き上げながら少女が言った。

「銭湯を無銭で利用するなら、なぜこの人は衣類を身につけているのでしょうか!!」

「ん・・・?確かに、なぜ服を・・・っておい!!よく見たらお前土足じゃねーか!!!」

「汚いです〜!!!」

二人に詰められる俺。

(結局怒られるのか・・・)


数分後


ゴシゴシ。

俺はブラシを使って銭湯の床を磨いている。

二人に詰められたあと、解放してもらえず銭湯の掃除をすることになった。

一人で黙々と掃除をしていると頭の中が整理され、疑問に思うことが沸々と出てきた。

ここはヨーロッパのはずなのになぜ日本語が通じるのかということや中世ヨーロッパでは異質に見えるはずのスーツ姿なのに二人は怪訝に思う素振りも見せなかったことなど。

(早いとこ解放してもらって、外の様子を見に行こう)

そう思いブラシでタイルを懸命に擦る。


「ふわぁ〜!すんごいピカピカですぅ〜!」

少女が目をキラキラさせ俺が掃除した浴槽を見ていた。

「だろぉ〜、俺はこう見えて掃除が得意なんだ」

へへんと胸を張る。

「意外ですぅ〜!社不ニートみたいな顔してるのに〜!」

「だ、誰が社不ニートだ!!」

フワフワした妖精のような少女からは想像もつかない発言が飛び出し動揺しながらツッコミを入れる。

俺のツッコミが面白かったのか、フフフと口に手を当てて笑っている。

「なぁ、ちびっ子よ、これで俺は解放してもらえるんだよな?」

「ちびっ子じゃないです!セントです!」

ちびっ子呼ばわりされてぷんぷん怒っている。

「あー、すまん、セントちゃんね」

素直に謝るとセントはすぐ機嫌を取り戻した。

「そういえば〜、なんでこんなところにいたんですか〜?」

「無賃利用だと決めつけてタダ働きさせたのはどこのどいつだよ」

「実はですね、この国の男の人達の多くが軍に参加してて、お客さんが減ってこの銭湯はピンチなんです〜!」

両手で頭をかかえるセント。

「だから従業員もいなくて、掃除がめんどくさいなぁ〜と思ってたところに、あいたっ」

バシッとセントにチョップする。

「面倒だからって俺に仕事押しつけんなよ!」

「ごめんなさい〜」

素直に謝るセント。

「で、なんでこんなとこにいたんですか〜?」

「なんでって、気づいたらここにいたというか・・・ってかここってどこなんだ?」

タダ働きさせられたが、この時代の人に詳しいことを聞けるチャンスだ。

「質問に質問で返すとは、やはり社不・・・」

「うるせーな、俺がここにいる理由は正直分からん、気づいたらここにいた、答えられるのはそれだけだ」

未来から来たなんて言ったら社不どころか頭のおかしいやつだと思われる。

「ふ〜ん、まぁいいです〜」

(いいのかよ・・・)

「さっきここはどこって聞いたと思うんですが、ここはオパーイ王国です」

「は?オパーイ?」

「そうです!オパーイです!」

そう言うセントの目は嘘をついてるようには見えなかった。

「なんつーか、卑猥な名前だな」

「卑猥〜?どこが〜?」

「いや、オパーイってもうおっぱいじゃん」

冗談混じりにそう言う。

「そうなんです!おっぱいなんです!!」

(こいつは何を言ってるんだ・・・)

俺は怪訝な表情を浮かべる。

「オパーイ王国はおっぱいを崇拝する者達の国なのです〜」

えっへんと腰に手を当てドヤ顔をするセント。

「ははっ、冗談だろ、そんな国聞いたことねぇよ」

「聞いたことがないって、ニートさん本当に何者なんですか〜?」

心底不思議そうに聞くセント。

「誰がニートだ、俺の名前はコノエだ」

「名前あったんですね〜」

(こいつ、一回ぶん殴ってやろうかな・・・)

などと思っていたその時。

ピロピロピロピロ

どこからか電子音のような音が聞こえる。

「あ、ちょっと失礼」

セントがシャツの中から四角いなにかを取り出した。

「あ、もしもしセンチョー」

(もしもし?)

「あ、これからですか?わかりました!じゃ、またあとで〜」

画面を指で触ると同時にピッと音が鳴り、またシャツの中へ四角い何かをしまうセント。

「失礼しました〜、で、なんでしたっけ」

「ちょっとまて、今のなんだ」

(おかしい、中世ヨーロッパだよな?中世だよな?)

「何ってスマフォンですけど、あ、ニートさんは知らないんですね(笑)」

そう言いながら四角いスマフォンと呼ばれる物を俺に見せつけてきた。

「セント、今何年だ」

「6083年です〜」

「ここはなんていう星だ」

「ジレマンです〜って、どこ行くんですか!」

俺は走り出していた。

洗い場、脱衣所を裸足で駆け抜け男湯と描かれた暖簾を潜り、番台の先にある扉へ全力で走る。

木製の横開き扉の取手に手をかけ勢いよく開けた。

俺の目の前に飛び込んできたもの、それは、オレンジ色の空と十字架の部分がおっぱいの教会だった。

どうやら俺は地球の過去ではなく、異世界に飛ばされたらしい。

「あんの金髪バカおんなぁぁぁぁ!!!!!!」

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