第1食 ナツ男さんの1日
「ん...おや、もう朝ですか」
ナツ男は起きた。
平日でも休日でも変わらず朝7時に起床する。
「さてと、朝の用意をしないとですね。」
少し体を重そうにナツ男はベッドから起き上がる
そのまま洗面台へと向かう
顔を洗い、歯磨きをし、キッチンに向かった
「今日は何を食べましょうかね...」
冷蔵庫を開き、その中を3周ほど見渡す。
少々悩んだ顔でナツ男は中から食材を取り出す。
「今日はこれにしましょう。」
取り出したのは卵、そして棚からパン。
慣れた手つきでパンをトースターに入れ、卵でスクランブルエッグを作る。
いい具合に焼けたトーストにスクランブルエッグを乗せる。完成だ。
飲み物はオレンジジュース。
「いただきます。」
あまり時間をかけず、それでもしっかりと朝食を味わい、食べ終わる。
ササっと食器を洗い、出勤の準備だ。
スーツを着て、帽子をかぶりカバンも持ち、家を出る。
「......」
出勤時は大体無言だ。
公共の場であることを踏まえ、あまり独り言は喋らない。
しかし、毎朝あることが起こる。
「......はぁ...」
ナツ男の背後からどたどたと走ってくるような音が聞こえ、それも段々大きくなってくる。
「ナーーーツーーー男ーーーさーーーん!!!」
あっという間にナツ男のすぐそばにやってくる。
ポリ子だ。
「ポリ子さん、おはようございます。」
「ナツ男さん!おはようございます!!」
「朝から元気なのはいいことですね。」
「えへへ~~~♪」
明らかに機嫌をよくした顔でポリ子は照れる。
それに対して何も触れることなくナツ男は歩き続ける。
「今日もお仕事ですか?」
「はい。その通りです。」
「いつも頑張っててすごいですね!!」
「ポリ子さんも来年にはこうなっていますよ。」
ポリ子は現在高校生。
そして何事もなければ今年度に卒業だ。
この星に大学という制度は......無い。
「私もナツ男さんと同じところで働きたいなぁ...」
「どぉなつさんにお話してくださいね。」
「お兄ちゃんに早く帰ってきてもらわなければっ!」
「どぉなつさんはいつ帰ってくるのやら。」
そんなこんなしているとポリ子の学校に近づいて行く。
寂しそうな顔でポリ子はまた口を開く。
「それじゃあ私はこっちなので...」
「はい。お気をつけて。」
「また会いましょーねー!」
元気よく手を振ってから学校の方へと走り出していく。
少しそれを見送った後、ナツ男は再び歩き始める。
数十分歩くと会社に到着だ。
自分の席に着くと、コーヒーを1杯だけ入れ、仕事を始める。
「さて、始めますか。」
落ち着いた様子でパソコンで作業を始める。
何時間か経ってお昼休みに。
「おや、お昼ですか。」
「ナツ男さん!一緒にお昼どうですか?」
「これはこれは、ワァナツくん。」
ワァナツがお昼になった途端ナツ男に話しかける。
ご飯の誘いだ。
その誘いにナツ男は嫌な顔一つせずに了承する。
ナツ男はお弁当、ワァナツは適当に買ってきたものだ。
「いただきます!」
「いただきます。」
「ナツ男さん何食べるんですか?」
「ん、私は卵を乗せたトーストを持ってまいりましたので。」
まさかの朝と同じものをお弁当として会社に持ってきている。
意外も意外、水筒の中もオレンジジュースだ。
「へーいいですね!僕はおにぎり二つとサンドイッチ買ってきました!」
「その組み合わせにしようというイメージがあまり私にはわかりませんね。」
「結構おいしいですよ?」
他愛もない談笑をしつつ、ワァナツとナツ男は食べ進めていく。
量のわりにナツ男は食べるのがゆっくりなので少し時間がかかる。
ワァナツは食べ終わってもちょっとの間残り、ある程度話し終えるとその場を離れる。
「んー...いつもどこに向かってるんですかね。まあ、私には到底関係ないことです。」
そういいながらまた食べ進める。
すると時間が経ち、もうすぐ昼休みが終わる。
「時間ですね。そろそろ戻りましょうか。」
何もためらうことなくナツ男は自分の席へと戻り、定時まで仕事を続ける。
ちなみにこの「ドォーナッツ・ツクール」は、超が付くほどのホワイト企業であり、残業などは一つもない。
余程のことがなければ減給やクビになることはない。
ワァナツもその危機に陥ったことはあるが実際になったことはゼロだ。
「おや、もう定時ですか。」
黙々と仕事を続けているといつの間にか定時になっていた。
そそくさと帰る用意をし、会社を出る。
「...」
少し考え事をしながら歩く。
考え事と言ってもそれほど大したものでもなく、
「......」
今日の夜ご飯についてだ。
同じものを食べてもいいが、それではせっかくの今日の夜ご飯に個性がなくなる。
「ナーーーツーーー男ーーーさーーーん!!!」
「学校はもう終わりましたか?」
「うん!終わったよ!」
「そうですか。それはそれは非常に良いことですな。」
いつものようにポリ子がナツ男に話しかける。
もう違和感も何も覚えなくなった。
歩いているとポリ子のスマホの通知が鳴る。
「あっ!お兄ちゃんだ!」
「どぉなつさんから連絡ですか。」
『ポリ子宛 スカイツリーで輪投げなう。 どぉなつより』
「もーーー!お兄ちゃん何やってんの!!」
「ほほほっ、あれがどぉなつさんの良さではありませんか。」
「まあ、ナツ男さんがそういうなら...」
「『早く帰ってきてね』っと、」
連絡を返してからポリ子はスマホをしまって、またナツ男に話しかける。
「明日もお仕事ですか?」
「ええ、もちろん。」
「私も学校です!」
「それはそうでしょう。」
朝よりも一緒に歩く時間が自然に増えるので積もる話もあるにはある。
が、そんな時間もポリ子の家が近づくとおしまいだ。
「あーもうすぐ着いちゃうー」
「また明日きっとポリ子さんの方からやってくるでしょう。」
「もっちろん!!じゃあね!ナツ男さん!」
「はい、また。」
ポリ子は自分の家の方向に向かって走っていく。
その姿を見たナツ男は少し呼び止める。
「そういえばポリ子さん。」
「はっ、はい!」
「今日はいつもと違うリボンでしたね。似合っていましたよ。」
「......へっ...?」
そう言うとナツ男は再び歩き出す。
ポリ子はというと...
「ぁ...あわわ......」
フリーズしていた。
どうやら数分ずっとこのままだったみたいだ。
そしてナツ男は自分の家に着く。
「ふぅ...今日も疲れましたな。」
少しテレビを見てから今日の夜ご飯をまた考える。
悩むような表情を顔に出してから、やはりこれだという風に思い、冷蔵庫へと向かう。
取り出したのは卵、そして棚からパン。
すごく見覚えがある。うん、めっちゃある。
「やはりこれが1番ですね。しかし、まったく変わらないというのも...」
そう言いながら追加でヨーグルトを取り出す。
飲み物はもちろんオレンジジュース。
慣れすぎてもう作業となっているように作り出す。
完成したものをテーブルへと持っていき、テレビを見ながら食事する。
「ニュースでも見ますかな。」
『どぉなつ星パウダー町2丁目にて連続空き巣事件の被害が再び...』
「ふむ、物騒ですな。」
一通り食べ終わると、食器を持っていき、洗う。
お風呂に入り、歯磨きをし、軽く運動をすると、あっという間に就寝時間だ。
現在時刻23時。
「そろそろ寝ますかな。」
ナツ男は部屋の電気を消し、眠りについた。