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鉱山都市①

読んでいただいてありがとうございます。

 旅はとても順調だった。

 確かに中央の道よりは狭いし、場所によってはすぐ横を川が流れていたりしたので、普段とは違う景色にルーチェリエは目を輝かせていた。

 当然、途中の村にも寄って、蜂蜜の仕入れとこれからも継続的にエウロペー商会に卸してもらえるように交渉した。最後は村の代表とがっちり握手を交わすことが出来たので、どちらも満足のいく取引きだった。

 旅は順調、取引きも順調、おかげでルーチェリエの機嫌はとても良かった。


「お嬢、もうすぐここら辺で一番大きい街に着くぜ。鉱山都市ネクリードだ」

「ネクリード、話を聞いたことはあるけど、来るのは初めてね」

「へぇー、珍しいな。お嬢なら絶対に来たことあると思ってたけど」

「鉱山系の担当は叔父様なのよ。叔父様、若い頃から鉱山に出入りしていたからものすごく詳しくて。だから鉱山系は叔父様に任せて、その分、私は他の仕入れに力を入れてるの。ある程度の目利きは出来るけど、叔父様にはかなわないのよね。私の知識不足や目利き不十分で貴重な鉱石を見逃したくはないし」

「へぇー、お嬢の叔父さんか」

「そう。今はちょっと他国の鉱山に行っているけど、ネクリードには叔父様の友人がたくさんいるんですって」

「うちの国では一番でかい鉱山都市だからなぁ」

「ネクリードの治安はいいぜ。国境に近いから騎士団が常駐してるからな」


 鉱山都市ネクリードは隣国との国境に近い場所にあり、いざという時にこの地が奪われないように騎士団が常駐している。

 普段から騎士や兵士が街に出ているので、気性の荒い者たちが暴れてもすぐに取り押さえられる。

 それにネクリードには、この辺りを治めている子爵家の屋敷もあり、子爵は自分の領地の生命線である鉱山やそこで働いている者たちについて、常に目を光らせているらしい。


「ネクリードは、質の良い鉄やミスリルが出ることで有名よね。うちもネクリード産の鉱石を使って作られた武器を扱っているけど、値段はそれなりに高いわよ。でも、欲しい人は多いのよねぇ」

「噂じゃあ、大昔にはオリハルコンも出たって聞いたことがあるぜ」

「オリハルコン!夢があるわよねー。オリハルコンが出る場所ってほとんどないから、稀少だもの」

「だよなー、そういう武器持つのは俺たちの夢だよなー」

「あっはっは、俺たちじゃあ、似合わないって」

「間違いねー。やっぱ騎士団長とかS級の冒険者とかだよな、似合うの」

「うちだったら、王弟殿下が似合うだろ」

「なー」


 オリハルコンの話から急に王弟殿下という単語が出てきて、ルーチェリエはドキリとした。

 冒険者たちは、ルーチェリエとランディオールとのやり取りは知らないから単純に一般論としてその単語が出てきただけなのだが、ちょっとだけ逃げ出したという自覚のあるルーチェリエには刺さるものがあった。


「ほら、お嬢、見えてきたぜ」


 冒険者が指す方向を見ると、岩肌が向きだしの巨大な山の裾に広がるように、立派な城壁で守られた都市が見えてきた。

 街のあちらこちらから煙が上がっているのが見える。

 岩の茶色と煙の灰色に彩られた、これぞ鉱山都市といった感じの街にルーチェリエは感動を覚えていた。


「……すごい……」

「あんだけ煙が上がっているのはこっち側だけだ。住民の多くは向こう側に住んでいるから、あっちはもうちょっと普通だぜ」


 都市は鉱山側と居住地で別れていて、鉱山側には工房などが並び、居住地側はごく普通の街だ。

 さすがに商店にはネクリード産の鉱石から作られた武器が多く並んでいて、それを買い求める冒険者たちの姿も多いが、それ以外はごく普通の街だった。

 出入り出来る門の中には、鉱山関係者だけしか通ることが出来ない門があるので、ルーチェリエたちは一般人が出入りする門に並んだ。

 

「あれ?何か、今日は厳しいな」

「そうなの?」

「あぁ、普段ならわりとすいすい通過出来るんだけど……」


 よく見ると、門番たちが細かく荷物のチェックをしている。

 確かに、ここまで厳重なチェックも珍しい。

 

「何かが盗まれた、とかか?」

「にしては、入る人間の方も厳しくチェックしてるぞ」

「本当だな」


 冒険者たちの一人が、何があったのか聞いてくると言って、先頭の方に走って行った。


「どうだった?」


 しばらくして戻ってきた冒険者は、肩をすくめた。


「俺たちの運がいいのか悪いのか微妙なとこだな。王都の騎士が視察に来ているらしいぞ。けっこう上の方の人らしくて、警戒が厳重になったんだとさ。そのおかげで数日前から街道の方もきっちり確認したらしいから、ここまで順調に来られたってのもあるし、ネクリードの中もいつもより厳重警戒されてるからお嬢に絡む変なやつらもいないだろうよ」

「絡まれる前提なのは嫌だけど、平和なら別にいいわよ」

「だな。お嬢、一応子爵令嬢だろう?挨拶とか行かなくていいのか?」

「行かないわよ。今の私はあくまでもエウロペー商会の仕入れ担当者。貴族として来たわけじゃないわ。それにここに来たのは思い付きだったから、先触れも出していないしね」


 だから門だって貴族専用の門ではなく、一般の門から入ろうとしているのだ。

 通常、ここまで大きな都市なら貴族専用の門が存在する。当然、待ち時間なしで荷物検査も簡単にさっと終わる。ルーチェリエもその気になればそこを使えるのだが、使ったら領主に連絡が行く。さすがに挨拶に行かないといけないし、その他にも貴族ならではのあれこれがあるので時間を無駄にしてしまう。

 もちろん、必要ならちゃんと挨拶に行くが、今回はたまたま道を変えたから来ただけだし、それに相手も王都から人が来ているのならそちらの相手で忙しいだろう。


「大人しく並んでいましょう。無用な騒ぎは遠慮したいわ」

「おう。そうだな」


 ルーチェリエに慣れている冒険者たちは、これでこそいつものお嬢だよな、と思いながら列に並んだのだった。

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