新商品を探す旅
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ルーチェリエの今回の旅の目的地は、いつもの機織りの村と鍛冶の村、それに港街だ。
機織りの村と鍛冶の村は山の方にあるが、二つの村は実は隣同士だったりする。
お互いが得意分野で物々交換をしているのだ。
ルーチェリエは最初、機織りの村の人間と縁が出来た。
たまたま王都の市で織物を見かけて、その美しい色使いとデザインに惚れ込んだのだ。
市には村人の一人が売りに来ていたのだが中々売れずに困っていたところ、いかにもご令嬢という感じの女性がものすごい勢いで質問しまくって、あげくの果てに拉致同然で商品も含めてまとめて商会に連れて行かれてさらに質問攻めにあって……。
酷い目にあったと、村に帰った彼は疲れた様子で言っていた。
だが、その後はトントン拍子に物事が進み、いつの間にか村を挙げてルーチェリエの持つエウロペー商会との取引きを初めていた。
おかげでそれまでの出来た物をどこかの街に持って行って適当な値段で売るという不安定な収入方法から、商会が常時その時の適正価格で買い取るという安定した収入源を得ることが出来るようになり、村人たちは織物を織ることに集中出来るようになった。
しかもルーチェリエは商品の開発にもお金を出してくれるので、村人たちはアイディアを出し合って常に新商品の開発をしている。
そして、その機織りの村から紹介されたのが鍛冶の村だった。
鍛冶の村は、どちらかというとこだわりの逸品を作っている者が多く、日常使いの商品は収入のために仕方なく作っている者がほとんどだった。
だが、村の中で競っていたせいか、間違いなく腕は良く、ルーチェリエは投資を決めた。
もちろん、ちゃんと一般に売れる物を作ってもらってはいるが、今までは作っても売れずに残っていたこだわりの逸品もルーチェリエの手によって販売されていった。
おかげでこちらも村全体が潤うことになり、腕に覚えのある鍛冶士たちはますますこだわりを持って商品を作るようになっていった。
ルーチェリエにとって両方の村との取引きは、誰もが得をするとても良い関係なのだ。
港街は、当然、異国からの商品が入ってくる街でもあるので、定期的に確認に行っている。
だいたいいつも、機織りの村と鍛冶の村、それから港街はセットで回っていた。
「回遊する魚みたいなものね」
「回遊する魚?なんだ、それ?」
「あら、知らない?季節や水の温度によって住む場所を変えている魚がいるんですって。毎年同じ道を通ってぐるぐる回ってるから、回遊魚って言うらしいわ。私たちも毎回、同じルートばかり通っているじゃない」
「あーそうだな。何なら、別の道を通ってもいいんだが……」
安全で行き慣れた道は、村に着くまでの日数も予測しやすいのだが、その分、目新しい物には出会えない。
街道は一つではないので別の道を選んでもいいのだが、そうなると村に着くのが何時になるのかは確実には言えない。
「そうよねぇ。でも、今回は時間があるのよね」
仕入れがギリギリになっているわけでもないし、村にはこれくらいの頃に行くねと伝えてあるだけなので、急ぐわけでもない。
「ならお嬢、今回は山の方からぐるっと回るか?いつもは平坦な中央の道から行って途中で山の方に向かうが、最初っから山に沿って行く道もある。中央より多少道は狭いが、通る人間も多いから整備はされてるぞ」
「途中の街とかはどう?」
「案外、面白い商品があるぞ。一番大っきい街で、確かもうすぐ市が開かれるはずだから、お嬢好みの品物があるかもな」
「いいわね。そうしようかしら」
実のところ、ランディオールがいる王都から少々離れたかったルーチェリエは、冒険者のその提案に乗った。
ルーチェリエとの仕入れの旅に毎回同行している彼らは、自然とルーチェリエが喜びそうな商品のことも理解しており、時々他国に行った時などは珍しい品をお土産でくれるくらいだ。
「うふふふふ、楽しみになってきたわね」
「おぅ、お嬢の目が輝き出したぞ」
「それでこそ、我らのお嬢だ」
「お嬢、安全な道だが、いつもと違う道だからちゃんと警戒だけはしておいてくれよ」
「あ、そういえば、途中の村で蜂蜜をもらった覚えが……」
「それを早く言ってよ。蜂蜜、最高じゃない。急いで行きましょう!」
「だから、お嬢、時間があるからじっくり行くんだろうが!他にも見所はあるはずだぞ」
何となくいつもより元気がなさそうに見えたルーチェリエが元気を取り戻したことに、冒険者たちはほっとしていたのだった。




