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4. 物といえど名前をつけたら愛着が倍増⤴︎⤴︎

 ダニエルは今日も今日とてアナスタシアに会いに行った。先程厨房で作った卵とトマトのサンドウィッチを持って、ウキウキで向かった。

「アナスタシアさーん!」

 返事がない。今日は不在のようだ。もしかしたらいるかもしれないと、一縷の望みをかけて、ソファと机と犬の置物しかない客室の奥にある扉を開けた。研究室の鍵は掛かっていなかった。

「おぉ~」

 アナスタシアはいなかったが、たくさんの物が雑多に置かれている部屋があった。本が床に平積みにされ、書類が申し訳ない程度にまとめられ、書き物用の机や床の上に散乱していた。木材や液体 (恐らく海水) などが丈夫だけが取り柄の白いテーブルの上に無造作に置かれており、部屋の隅には使っていない椅子や棚、箱が寄せられていた。

「……片付けようかな」

 アナスタシアも片付けようかな、ダニエルが片付けてもいいよ的なことを言っていたと思い出し、掃除の時間を始めることにした。

 使われていなかった棚を綺麗に拭いて、本を並べた。そして、書類は内容に関連がありそうなものごとに分別し、隅に積み重なっていた箱に入れ、何が入っているかわかるようにラベル付けをした。白いテーブルを磨き上げ、木材や謎の液体はそのまま元の場所に戻した。

「結構埃が溜まっているなぁ」

 床を掃いて、雑巾掛けをした。面倒になってきたため、魔術を使ってピカピカに磨き上げた。満足がいくまで床や壁を磨き終わると、避けていた棚や机などを戻した。かなり綺麗になったなと満足して、ダニエルはひと段落ついて、一人寂しくサンドウィッチ食べた。

「私物が一つもなさそうだ」

 書類や本をはじめ仕事の用のものしかなかった。研究室であるため、当然といえるかもしれないが、プライベートがあまり感じられない部屋である。家族の写真やお土産の類もなく、仕事以外の物は客室の犬の置物のくらいだ。

 ダニエルは一時期噂になっていたドーロン伯爵家のことを思い出していた。何でも姉が妹に婚約者を盗られたという醜聞にあたるものだ。本当は姉が妹に譲ったという穏便な流れだったらしいが、幼い頃から婚約を交わしていた二人でもあったことに加えて、妹のきゃるんとしたかわいらしい容姿から、盗られたなどとひねくれた見方をする者もいたのだ。何にせよ、その姉というのがアナスタシアだ。

「それじゃあ、続きをやろうかな」

 ダニエルは立ち上がり、まだ掃除をしていない仮眠室とトイレ、簡易的なシャワールームに向かった。仮眠室は大変簡素であり、整えられてはいたが、空気の通りが悪かったため、しばらく換気を行った。普段からよく使っている風情のベッドだ。プライベート空間のようなものと感じたため、長居は避けた。トイレとシャワールームは魔術によって清潔さが保たれるように設定されており、不足した物があれば自動的に補充するようになっていた。とても便利だと感じ、教えてもらう魔術が増えたと思った。ダニエルはアナスタシアの魔術の応用の仕方に舌を巻いていた。この掃除の際に、ダニエルは床や壁を磨くといった多少手荒く扱っても平気そうなところにしか魔術を使っていない。もし、アナスタシアがここにいたらどのような魔術を駆使し、掃除をしていたか、気になった。

 ダニエルは客室の机やソファを軽く拭き、床をさっと掃いて、掃除の時間を終えた。ふと、ずっと気になっていた犬の置物を手に取った。眉毛がはっきりとした独特な顔立ちで、長いこと見つめていると愛嬌がわいてくる。

「……名前はコージーにしようかな」

 ダニエルはコージーを重しにして、メモを残した。勝手に掃除してごめんなさい、本は棚に並べました、書類はラベル付けした箱に入っていますという内容だ。

 ダニエルは一つの仕事をやり切った爽快感に満ち溢れて、職場に帰って行った。次はアナスタシアに会えるといいなぁとぼんやりと思った。

 そして、かなりの時間を研究室の掃除に費やしたダニエルは職場の上司に怒られた。







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