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小話1. おしゃべりマミー

 ダニエルの母は人に何かしてもらう、やってもらうということが苦になる性分であった。そのため、料理や洗濯、掃除など家の諸々のことをメイドと一緒にやり、明るく元気に過ごしている。そして、おしゃべり好きで、今日はメイド長のマイヤーさんがどうした、執事のセバスチャンが何したとよくダニエルに話をしていた。自分が話すだけではなく、ダニエルの話も楽しそうに聞いていた。母のおかげで家は明るく和やかであたたかい雰囲気だとダニエルは感じている。

 そんな明るく元気な母だが、ダニエルは一度だけ彼女が寝込んでいたことを覚えている。八つ下の弟、ジョージがお腹にいた時のことだ。悪阻に苦しんで、横になっている日が多かった。仕事で家にあまりいなかった父に代わって、ダニエルは母のそばにいた。本を読んだり、今日あったことを話したりして、母の様子を見守った。

「お母様、だいじょうぶ?」

「ええ、……うっ」

「だいじょうぶ?誰か呼ばないと……!」

「大丈夫よ、大丈夫。赤ちゃんにちょっと蹴られたみたい。本当に元気ね」

 ダニエルは幼心にそのようなことを母にするなんてひどいなと思った。

「ふふふ、あなたもこんな感じだったのよ」

 母はいつも以上に明るくにこにこ笑っていた。体調が悪く、苦しいはずなのに、嬉しそうだった。

 それから、しばらく日数が経ち、もう時期産まれるという段階に入った。母は一日中、けったいな叫び声あげて、辛そうだった。ダニエルはとてもではないが、そばで母の苦しむ姿が見ていられず、部屋の外で待つことになった。弟妹ができると聞かされた時は嬉しかったが、母にこんな苦しい思いをさせる存在を少し疎ましく感じた。

 おぎゃあと元気な声が聞こえると、メイド長のマイヤーさんがダニエルに弟がお産まれになりましたと呼びにきた。母のそばに向かうと、母は満面の笑みで赤ん坊を抱いていた。

「お母様、だいじょうぶですか?」

「ええ。ダニエル、ちょっと抱っこしてみて」

 ダニエルはぎこちない動作で何とか弟を抱っこした。とても小さく頼りない存在だった。自分も生まれたばかりの時はこのような感じだったのだろうかと不思議に思った。

「ちっちゃい」

「ふふふ、この子のお兄様になるのよ~」

 実際に生まれて、おぎゃあおぎゃあと泣いている姿を見ると、ダニエルに弟ができたという実感が湧いてきた。

「お兄様、そっか、うん。おにいさまだよ~」

 ダニエルは母の動作を真似して、ふにゃふにゃした身体を宝物のように優しく触れた。母は兄弟二人をあたたかい眼差しで見つめていた。

 その後、母は体調を崩すことなく、順調に元気になり、以前のようにメイドたちと一緒に家事をバタバタとするようになった。弟ができたことをきっかけに、ダニエルは何か自分でできることを増やそうと思い立ち、母から料理や掃除の仕方などを教わるようになった。弟はすくすく育ち、今では兄に生意気な口を聞くようになり、ダニエルはあんなちっちゃかったのに随分大きくなったなぁと日々成長を感じている。

 母は、ちゃんと勉強しなさいだの、真面目に仕事はやりなさいだの、結婚する時はちゃんと相手の方を紹介しなさいよだの言ってきて、しばしば口うるさく感じる。しかし、そうは言っても、ダニエルは母を愛しているし、愛されているとわかっている。

 今も昔も元気で明るくおしゃべりで、つい頼ってしまう存在だが、ダニエルが大きくなったからだろうか、時折母の背中が小さく見える時がある。

 今まであの小さな背中に支えられてきたのだろう。

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