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19. 誓約

 アナスタシアが気がつくと、目の前には馴染みのある仕置き部屋が広がっていた。

「思いっきり殴られたなぁ」

 自分の頭を触ると血が滲んでいる。アナスタシアは両親に殺されそうになってショックを感じていた。何をするかわからないとは思っていたが、頭をぶん殴るとは想定外であった。親はそんなことをしないと知らないうちに勘定していたのだろう。

「ちょっと油断したなぁ」

 アナスタシアはこの部屋に誰も入ってこないようにバリアを張った。学校に入り、魔術を学んでからは、家にいる時、欠かさずバリアを張って誰も近づかないようにしていた。両親や娘にぐちぐち言われることを避けるために防音も兼ねている。今回もバリアをしておけばよかったとアナスタシアは反省した。

 ちょっとした反省会を終えると、アナスタシアはこれからのことに目を向けた。

 両親から逃げるためにドーロン伯爵邸から脱出することは可能だ。できればここにはもう来たくはないし、両親にはアナスタシアを制限するだけの強さはない。では、その後はどうしようか。研究室に戻ったとしてもまた同じことになるかもしれない。全く違うところに、両親や妹の知らないところに行こうか。今までの生活を捨てて新天地を探そうかとアナスタシアは思案した。

 しかし、それは無理だと腕輪が目に入った瞬間に悟った。ダニエルと別れの言葉を言わずに離れることは耐えられないとアナスタシアはひしひしと感じた。いや、もしかしたら、顔を見ると名残り惜しくなるかもしれない。ダニエルとの日々は明るくて、楽しくて、それに、ご飯が美味しくて、快適で、空がきれいで……。アナスタシアには、彼と離れて生きている意味が見出せるか自信が微塵もなかった。

 アナスタシアが悶々と悩んでいると、張っていたバリアが、がしゃんと音を立てて壊された。警戒してドアの方を見ていると、鍵が開き、人が入ってきた。

「ごめんね。壊しちゃった」

 バリア解除スマートにできなかったとダニエルは照れくさそうに頭を掻いた。

「……ダニエルさん」

 ダニエルはアナスタシアの顔を見ると、神妙な顔をし出した。そして、ゆっくりと近づくと、ギュッと大切な人を抱きしめた。

「なんで、ここに……」

「ここに行ったまま帰ってこないって聞いたから、心配になって迎えに来たんだ」

「そうですか……」

 アランの母が何かしてくれたのだろうとアナスタシアは気づいた。

「頭に怪我してる。応急処置だけしとくね」

「ありがとうございます……」

「あとでドクターに診てもらわないと」

 ダニエルはアナスタシアを慰めるように頭を優しく撫でた。

「もう大丈夫だよ」

 ダニエルの腕の中はあったかくて、アナスタシアにとって安心できる場所だった。

「さっき、ドーロン伯爵夫妻にあなたには絶対に近づかないよう、誓わせたから」

「ごめんなさい」

「んー?」

「ありがとう、ございます……」

 アナスタシアはダニエルの言葉を信頼した。もう両親と関わらなくて済むと知って、張り詰めていた気が抜けていった。

「うん、もう大丈夫だからね。だから、泣かないで」

「……泣いてます?」

「うん、ずっと」

 アナスタシアが自分の頬を触ると確かに濡れていると手をまじまじと見た。今まで気づかないでいた自分にに驚いていた。余程動揺しているのだろう。

「ごめんなさい、服濡れましたよね」

「へーきだよ。もしかして、泣いた方がすっきりするかな。じゃあ、もうひと泣きしようか」

 赤ん坊じゃないんだからと思いつつも、今までずっと我慢してた分まで流れ出ているようで、なかなかアナスタシアの涙は止まらなかった。とうとう、泣き疲れて寝てしまった。

「アナスタシアさん?」

 腕の中で目を閉じて脱力しているアナスタシアを見てダニエルはちょっと焦った。声をかけたり、手をかざしたりして安全を確かめた。

「寝てる……」

 ダニエルは安心して寝ているアナスタシアを抱えて、ドーロン伯爵家から出た。

 もうアナスタシアはここには来させないとダニエルは心の中で誓った。

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