初めての狩り
早朝だからか、聖堂にもほとんど人が居ない。
ぐったりした患者らしき衛兵さんが放置されてるけどいいのかな…。
控室みたいなところで治癒師の人も休んでる。魔力切れかな?
キナエル様の像に触れ、疲労回復と祝福を貰って聖堂を出てきた。
依頼をちゃんと達成できたら、また何かお礼をしに来よう。
依頼掲示板を眺める。
昨日と変わらない依頼もあるな…。
吸血鬼や魔獣退治は無理、後は…山賊かぁ。昨日捕まってた人数を思い出すと、無理だよね。
一人、二人ならまだしも、何人いるかもわからないのに危なすぎる。
となると…鹿肉の確保。これならなんとかなりそう。
ただ、剣じゃ無理だよね。弓がほしいな…。
(それなら良いものがあるのじゃ!)
本当に良いものですか?
(うむ、とりあえず、薪をいくつか用意するのじゃ!)
わかりましたよー。
確か街の中にも薪割り台があった筈。
おっさん兄に雇われてた人が毎日薪割りさせられてたから…って知らないはずの記憶が、体感したようにあるのは気持ち悪いなぁ。
ちょうど良く薪割り台の横には斧があったから借りて…
「重っ!」
ゲームだと簡単に振ってたのに。
よたよたとしながらも、なんとか3つ程薪を割ってギブアップ。
(情けないのぉ。まぁそれだけあれば良い。次は鍛冶屋へ行くのじゃ!)
はーい…。
街の入り口にある鍛冶屋ワルキューレ。
(そこの女店主に、薪と、昨日手に入れた狼の毛皮を渡して、弓を作ってもらうのじゃ!)
自分で作るんじゃないの?
(できると思っとるのか?)
無理ですね。薪割りさえやっとだったのに。
(鍛冶スキルを上げたいのなら、最初は刃物を研いで、手入れするくらいから始めるのじゃな)
わかりました。鍛冶スキルは誰の管轄なんですか?
(戦神じゃな)
なるほど…。だいぶ統合されてるんですね。
革をなめしてる店主に声をかける。この人名前なんだっけ…
(エビドリアンじゃな)
ひっどいな! まぁ名前を呼ぶことなんてないしいっか。
「すみません、材料持ち込みで弓を作ってもらう事はできますか?」
「ええ。いいわ。 薪と毛皮? 足らないものはこっちで用意もできるけど、何がほしいのかしら」
ロリ神様、何を頼んだらいいの?
(コンポジットボウじゃな、色が何色かあるんじゃが…)
隠れながら使うので、目立たない色がいいです。
(ならダークカラーじゃな)
わかりました。
「コンポジットボウをダークカラーでお願いします」
「わかったわ。金属はこっちで用意するわね。制作費含めて200ゴールドだけど大丈夫?」
昨日の稼ぎも手持ちにあった小銭もぜーんぶなくなる…。
(弓は必要じゃから買っておいて損はせんぞ。金はまた稼げばよいではないか)
それもそっか…。
「それでお願いします」
前払いだったから先に払う。
「少し時間がかかるからどこかで時間を潰してくるといいわ」
「見ててもいいですか?」
「もちろんよ」
許可も貰えたので、少し離れて作業の見学。
ごぉーごぉーっとふいごで風を送り込む音が響く。
熱そう…。
間近で見ると迫力がすごい。
作業風景に見とれていたら呼ばれたから鍛冶場へ。めっちゃ暑い…
「ちょっといいかしら。貴女、小さいから体型に合わせないと…」
私ってそんなちっちゃい?
(その世界の平均を10としたなら7ってとこじゃな。子供が5か6じゃ)
それは確かにちっちゃい。お子ちゃまだわ。
扱いやすいサイズに調整してもらって、あっという間に完成。
「革を鞣してる時間がないからうちにある革紐を巻いて滑り止めにするわね。調整するからまずは握ってみてくれる?」
「はい。 すごく…握りやすいです…」 ”ピロン”
なんでっ!?
「そう?それは良かったわ。ただ、長く構えていて、汗をかいいたりして濡れると滑るのよ」
「それで革紐…」
「そうよ。貴女、手もちっちゃいわね…。弓は軽く引けるようにしておくわ。ただ、当たり前だけど威力が落ちるから」
「わかりました。引けなかったら意味がないのでそれでお願いします」
グリップに革紐を巻き、私が引ける強さに調整してもらう。
「矢はサービスしておくわ」
「ありがとうございます!」
20本ほどの矢も貰って、腰に装備。弓も背負う。
(その弓はな?お前と一緒に成長するのじゃ)
それってどういう…?
(弓のスキル、つまり戦神のいいねポイントが増えれば色々と”あたっちめんと”を付けて強化が可能って事じゃ!)
すごい…。頑張って上げよう。
依頼掲示板から鹿狩りの依頼書を剥がして、街を出る。
肉が取れてから届ければいいみたいだし。
さてと…鹿って割とそこら辺にいたよね。
まずは街の西側の平原へ向かう。
見晴らしのいい丘に登り、見渡すと…いた!
姿勢を低くして、そっと近づく。弓の威力が低いからなるべく近くに行かないと…。
もう少し……あぁっ…バレちゃった。
すごい速さで走り去ってしまった。追いかけるなんて現実的じゃない。
立ち上がって次の獲物を探す。
見つけては近づいてバレて逃げられて…そんな事を何度か繰り返してるうちに”ピロン”と”いいね”が飛んできた。
(見かねて隠密を上げてくれたようじゃな…)
お手数おかけします…。
(隠密姿勢をしているだけでも気まぐれで”いいね”がもらえるし、いいねポイントが貯まるだけでも見つかりにくさは上昇するのじゃ)
わかりました。
そういう事なら…。
時々立ち上がって、獲物の位置を確認したら直ぐにしゃがんで隠密姿勢。
そのまま移動。 ”ピロンピロンピロン”
え?ロリ神様ー ”ピロンピロンピロン”
(なんじゃ?お茶しようと思っとったのに…)
また”いいね”がピロンピロンって来てて、ハートで前が見えないです。 ”ピロンピロンピロン”
(なに!?)
あっ…止まった。
隠密系って確か闇神様?
(まったく! 姉妹揃って何を考えとるんじゃお前らは!)
(…制限されてない。好きにしただけ…)
(言い訳も一緒か! はぁ…ヤレヤレじゃ)
ロリ神様?
(あー気にするな。お前は狩りを続けるのじゃ)
はーい。
(ロリ神様…良いあだ名)
(やかましいわ! お前も体型は似たようなものじゃろうが!)
キナエル様と姉妹って事らしいけど、すごくおとなしい感じだなぁ。
声も抑揚があんまりなくて感情がわかりにくい。
(妹はうるさすぎ…胸もでかすぎ…)
闇神様がお姉さんなんですね。
(そう。司るものも多い…)
それは…何というかご苦労さまです。
(貴女いい子。頑張れ…)
ありがとうございます。
闇神様の”いいね”のおかげか見つかりにくくなって、鹿を仕留めることができた。
肉と毛皮、角を取り、前のように火炎魔法で処理をする。
獲物を仕留めた時、処理をした時にもらえた”いいね”は戦神様と魔神様、それと食神様のだよね。
(そうじゃな。あやつらはバカなことをせんから安心じゃ)
(…私が抜け道教えてくる)
(やめんか! アホな事をするのはお前たち姉妹だけで充分じゃ!)
(むー…)
また喧嘩してる…。
指定の数になるまで鹿を仕留めてはアイテムの回収と処理をして、街へ戻ってこれたのは夕方だった。
思ったほど疲れてないのはキナエル様のくれたスキルのおかげかなぁ。
今日のお供え物は何にしよう…。
鹿肉の納品が市場にあるお肉屋さんだったから、渡して代金をもらう。
全部で200ゴールドかぁ。お手紙配達のが楽だったなぁ。
まぁでも弓の代金は回収できたからよしとするか。
ちょうど市場にいるし、お供えを買う。ベリータルトがあったからそれにした。
依頼の達成や、買い物で銭神様のいいねがもらえた。
ロリ神様ー。闇神様にもお供えしたいんですけど、どうしたらいいですか?
(あぁ…あやつの像は特定の場所にしか無い。しかも、特定の派閥に所属せんと入れない場所ばかりなのじゃ)
それだとスキルとかに交換して貰うのにも大変じゃないですか…。
(ちゃんと救済処置はしてあるのじゃ! 我の像がある所ならどの神にもアクセスできる)
ちょー便利。
(じゃろ?渡したい物も我の像に備えてくれればよい)
わかりました。ちゃんと闇神様に渡してくださいね?
(う、うむ…)
絶対ですよ?
(わかっておるわ!)
今日は3人分のお供えを持って街の聖堂へ。
ベリータルトをお供えしてお礼を伝える。
闇神様のおかげで依頼を終えることができました。ありがとうございます…。
(…むぐむぐ…美味しい…ありがとう。私はノクエル。好きに呼んでいい)
わかりました。ノクエル様、いいねポイントを交換ってしてもらえますか?
(むぐ…わかった。……はい)
ふぇ?もう終わった?
(相変わらず適当というか、言葉足らずじゃの…。魔導書を確認してみるとよいのじゃ)
あっ、そうですね!
魔導書を取り出すとペラペラとめくられて、隠密系統のページで止まる。スキルが貰えてるのが確認できた。
隠密姿勢での見つかりにくさや、隠密状態からの攻撃にプラス効果がついてて、ありがたい。
(…ごちそうさま。隠密には魔法はない…でも罠ははれる…)
このトラップワイヤーってやつですか?
(そう…。 逃げる時に仕掛ければ相手は…)
相手は?
(…コケる…)
私も今コケたけど!
(逃げる時間を稼げるから使い方によっては有用じゃぞ?)
そうですね。ありがとうございます。
(…そのうちトラバサミとかも使える…だからがんばれ…)
わかりました!
あれ?キナエル様は?
(し、しらんのじゃ。なぁ?ノク)
(うん…。 妹のお供えは私達が分けた…)
(それは言うなといったじゃろ!)
ここ、キナエル様の聖堂なのに…。お供えの着服はダメだと思います!
(…わかった。今度からはしない。リロっ子も謝る…)
(誰がロリっ子じゃ! いや、まぁ、すまん…今回だけじゃ。だからキナには内緒じゃ)
(何が私に内緒なんですか?)
(ひいっ!)
(…おー、妹ー お供え食べちゃった…ごめん…)
(はい? ノクエル姉様には借りがあるので仕方ありません。でも…ロリ神様?)
(なんじゃなんじゃ! ノクはよくて我はダメなのか!)
なんか神様の喧嘩が長引きそうだったから、そのまま聖堂を出て帰宅した。
賑やかな神様達だなぁ。退屈しなくて済みそう。