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見慣れたような知らない人



「すみません。ヤマトの大釜からお薬をお届けにきました」

「あら…ありがとうございます。私はセナ、魔術師をしております」

あれ?魔術師?

「治癒師じゃなくて?」

「ええ、魔術師です。治癒はお薬があればいいじゃないですか。必要ありませんよ」

もうコレ違う人だ! 改悪だよ…。どおりで髪も紫色な訳だ。わがままボディは健在だけど…。

(なんじゃ…お前は文句ばっかりじゃな)

ごめんなさい、もういいです。突っ込んでたら疲れる…。


セナさんにお薬を渡し、受け取り票と配達料金をもらう。

お礼を言ってさっさと宿を出る。

序盤に仲間になってもらい、回復要員としてすごくお世話になった。

治癒師の優しいお姉さんが…私の覚えてる少ない思い出が…。


はぁ、言ってても仕方ないか。切り替えよ…。

まだお昼にもなってない時間だから、勇者様の展示でも覗いてこよう。


宿の向かいにある大きな家。

昼間だからか扉は開放されてて、そのまま入る事ができた。

「あのー誰かいますかー?」

「お客様ですの?」

「すみません…展示を見てみたくて」

「構いませわ。ですが…展示物には手を触れないようにお願い致しますわ」

「はい…」

暗い室内にようやく目が慣れてきて、目の前の声の主がハッキリと見えてくる。



黒い髪に、怪しく光る目…

「ヴァンパイア…」

「あら…よくおわかりですわね。でも…他言無用でお願い致しますわ。貴女も無事に家に帰りたいでしょう?」

ひいっ…ナチュラルに脅してきたよ! 勇者様がなんでヴァンパイアのお姫様とパーティ組んでんだよ!

(封印されておったのを助けたとか言っておったが…)

そこは知ってるよ! 嫌ってほど知ってる!

(ヴァンパイアは夜に限ってなら有能じゃからの、夜目も効くしな。まぁ姫さんに限っては何でもありじゃったが…)

そうですか…。確かにこの方がここの管理してたら誰も手を出せないし、歳も取らないからずっと残るわ。


それより、展示を色々みてみよう。すっごい武器とかあるかもだし!

ちょっとワクワクする。


そう意気込んでたのに……勇者様の使ったフォーク?いや、普通飾るなら剣とかでしょ!

(武器の類は自前で持っておったから、こっちには残していっておらんのじゃ)

何者だよ勇者様…。


ーーー

ーー


一通り見て回ったけど、殆どが食器や鍋などの生活用品。

唯一あった武器は白銀に輝く大きな弓。

(我の加護のある弓じゃな。ほれ、その隣の盾もそうじゃ)

こっちも白銀に輝く盾。ロリ神様のアーティファクト…。

(うむ…ダルが弓、盾はルディアが使っておったから残されておる)

勇者様じゃないんかい!

(我が渡したのは勇者じゃからの。ただ、二人とも弓も盾も使わんかったから…)

それで、ダルさんとルディアさんが…。

(そういう事じゃ)


後はいくつか衣類もあったけど、サイズは大きくなかった。

私より少し大きいくらい?

(そうじゃな…歳も似たようなものじゃったから)

マジで何者だよ勇者様…。

(勇者の事が気になる人は、〜召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない〜を読むのじゃ!)

露骨な宣伝やめてもろて…。



「どうだったかしら?勇者の活躍を実感できましたかしら」

付かず離れず背後から目を光らせていた吸血鬼のお姫様にそう言われて…

「…はい。勉強になりました。ありがとうございます」

そう答えるしかない。

私が展示物から知ることができたのは、こっちの食事が口に合わなくて、それを改善するべく、勇者様が色々な食事を考案してレシピを残してくれた! って事。

後は、書かれていた情報で、一人は有能な剣士の勇者様、もう一人は強力な魔法を使う勇者様だったという事だけ。

(倒した獲物やドラゴンの素材は殆ど持ち帰ってしまったからのぅ…まぁ、各地に骨となったドラゴンの骸は残されておって、観光地になっておるぞ)

そうなんだ…。消えないのね。

(ゲームじゃないからの)


ヴァンパイアのお姫様にお礼を言って勇者博物館を出る。



帰ろう…。ヤマトの大釜で待ってるおばちゃんに報告しないと。



帰り道は大きな鹿とうさぎが道を横切ったのと、道沿いの草むらでお酒を飲んでる三人組のおじさんを見かけたくらいで、特に何事もなくブラックランへ戻ってきた。

出発時と違ったのは街の入り口に何人かの衛兵さんと、すごい数の捕縛者が転がってた事かな。

「おっ、シルビアちゃん、どこか行ってたのかい?」

多分ダルさんだよね。衛兵姿だと兜でホント見分けがつかない。


「リバーサイド村へお届け物のお仕事で…」

「そうか! 道中危険はなかったか?」

「はい!」

「ならばいいんだ。 俺はまだコレの始末があるから遅くなるとルディアに伝えてくれるか?」

「わかりました! お疲れ様です」

ダルさんに挨拶をして街の門をくぐる。


あれって山賊とかなんかかなぁ。

(そうじゃな、昨日我が助けなんだら、お前をオモチャにする予定だったやつらじゃ)

…あの数に?十数人はいたよ? ありがとうございました、ロリ神様。

(うむ、神託でアジトを教えて向かわせたからな、あれでやつらは壊滅じゃ!)


あんなのに捕まってたらと思うと、怖くて寒気がした。

どうなるんだろあの人達。

(数日以内には永遠に頭が身体とおさらばしておるじゃろうな)

聞くんじゃなかった…。 じゃあ、おっさん兄も…。

(うむ。 なんじゃ仮初の兄でも悲しくなったか? 墓参りでもしてやるのか?)

しませんけど…。ちなみにどこに埋葬されたのです?

(罪人じゃからなぁ…)

あっ、もう大丈夫です! それ以上は聞きたくないです!

(ちゃんと街の共同墓地に弔われておるわ)

そうなんですか?よかった…外へポイッとかされてるのかと。

(そんな事したら病気が蔓延する上に、アンデッドになるわ!)

それは確かに…。でもこの世界、当たり前にアンデッドいるじゃないですか。

(まぁの…じゃがそれも遺跡やらに限った話じゃろ?)

そうですね。入らなければよっぽど大丈夫。



広場でムカつくウゼー厶のおっさんにまた絡まれたけど無視した。

ヤマトの大釜でおばちゃんに受け取り票を渡したら、オマケっていっていくつかお薬をくれた。

ピロンってハートが出たのは多分、銭神様かな。取引が完了したから。

あと、おばちゃん。何度も言うけど私、病気じゃないからね!?


大釜を出るとちょうどルディアさんが広場にある市場でお買い物をしてた。

「ルディアさん、ただ今戻りました」

「あら、シルビアちゃん。お仕事はうまくいったの?」

「はい! あの、ダルさんから伝言で、捕まえた人達の後始末があるから遅くなるそうです」

「そう…仕方ないわね。一緒に買い物して帰りましょう」

「わかりました! あのこれ…」

「うん? …これはなんのつもり?」

「お世話になってる滞在費です…」

「はぁ…もう…。仕事するって言った時から予想はしてたけど。気にしなくていいの! それは今後の為に貯金しておきなさい」

「でも…」

「でもじゃないの。私達は、元勇者パーティのメンバーよ?生活に困ってると思う?」

「いえ…そんなつもりじゃ…」

私の目線になるようにしゃがんだルディアさんはぎゅっと抱きしめてくれて…

「これから、いくらでもお金は必要になるわ。だから貯めておきなさい。うちには好きなだけいていいから」

「ありがとうございます…」

ルディアさんの優しさにちょっと泣きそうになってしまった。


「今夜は勇者様考案のおいしい料理を作ってあげるわ!」

そう言って市場でいろいろな買い物をするルディアさんについて回った。

ロリ神様、もしかしてルディアさん達にも何かしました?

(ん?)

私の面倒見るよう神託をしたとか…。

(しておらん。そやつらのお人好しは元々じゃ。というか勇者の影響じゃな…)

勇者様の?

(うむ…それはもうお人好しでな?行く街、行く村で困ってる者がいたら手を貸しおったからなぁ…)

本物の勇者様だ!

(おかげでドラゴン退治は随分遅れてしまったがの…)

駄目じゃん! 本末転倒!

(そう言うてやるな。旅の道中でもあちこちでドラゴンを倒してくれたから、お前達は安全に街道を歩けるんじゃぞ?)

そうですか…それはありがとうございます。勇者様。


市場での買い出しが終わったタイミングでルディアさんに話を切り出す。

「聖堂へ寄りたいのですけど良いですか?」

「いいわよ。私もたまには寄っていこうかしら…あの子にも会えるし」

確か市場から階段を上がってすぐだったよね?ゲームよりも体感的に街が広いからか少し感覚が狂う。

ここの聖堂はおそらく光神様を祀ってるはず…。


市場のある広場から階段を上り高いエリアへ。

ここには神聖な樹が植えられてて…ちょっとした公園になってた筈。

「わぁ…すごい…」

「そうよね。この樹が復活してるのも勇者様のおかげなのよ?」

見上げると桜色の葉っぱがヒラヒラと舞っていてそれはもうキレイだった。


記憶通りならその公園に併設するように聖堂があったはず。

見渡すと演説してるおっさんが見えた。相変わらずだなぁ…。うるさいから近寄らないでおこう。

あっ…やっぱりあった。変わってないなぁ。公園の樹もこの聖堂が管理してたものね。


中へ入ると怪我をしたらしき戦士みたいな厳つい人が治癒師から魔法を受けてた。

神様の祠は奥にあったはずだから、治癒をしている人の邪魔にならないように避けて最奥へ。

ルディアさんは戦士の人と知り合いなのか話をしてるから一人で向かう。 

ん……?

(なんじゃ?)

いえ…私の知ってる祠じゃなかったから。

スタイルのいいお姉さん風な石像と、ロリ神様の石像まで置かれていた。

(我の石像があったら不満か!?)

いえ、決してそのような事は。むしろロリ神様に御礼を言いたくて来たんだし、よかったです。

(ほぅ…殊勝な心がけじゃな!)

今日の稼ぎを使い、市場で買ってきた甘々ロールをそれぞれの石像の前に供えて膝まづく。


ピロンピロンと、鳴ってるのはお二人からのいいねかな?

(うむ。うまいの! 甘くて美味じゃ…)

顔を上げると供えたはずのお菓子は消えていた。


「お供え物を受け取っていただけたようですね」

え…だれ!?







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