頂きへの道は険しく冷たい
天気さえ良ければ楽勝。
なんて、そこまでは楽観視はしてなかったけど、まさかの落とし穴。
穴どころか切り立った崖だよ! 絶壁だよ! いや誰が絶壁やねん!
……一人ボケツッコミしてても現実は変わらない。
「こんな所に吊り橋とかアホでしょ! そもそも誰がどうやって架けたんだ!」
風は強いし、肌を刺すほどに寒い。
その上でこの恐怖…。
ヤバい漏れそう…高すぎる…
下を見ない、絶対見ない。
私はそうつぶやきながら前を見て愕然とした。
「お願いだからこっちきちゃダメ!」
なんでヤギがいるんだよ! いやゲームでも居たわ。覚えてる。吊り橋を器用に渡るのも見たわ。
でもあれはゲームだ! ねぇ、バカなの?なんでわざわざ向かってくるの?
「や、やめっ…揺らすなぁぁ!」
「うぅ…冷たい…あのヤギ許せない」
乙女の尊厳をなんだと思ってんですか…。
震えてロープにしがみつく私の横をあざ笑うかのようにヤギは走り抜けていった。
そして私はギシギシと揺れる吊り橋の恐怖で見事に漏らしてしまった。
渡りきるまでの間に冷気で冷えっ冷え…。
着替えようか悩んだけど、こんな所であられもない姿を晒すよりは登ったほうが早いと判断。
「もう全身寒いし、諦めよう」
幸いにもルディアさんたちのおかげか敵との遭遇はなく…吹雪にも合わずにあと少しで山頂ってところまで来た。
そこでふと思い立つ。
大好きだったドラゴンに会うのに、お漏らししたままのばっちぃ姿でいいのか?と…。
うぅ…でもこんな所で脱いだら変態だよ。
だけど、ばっちぃ姿を晒すなんてもっと恥ずかしい。
こんな事ならテントは持ってくるんだった…。
ーーーーー
(…ロリっこ見つかった…?)
(なぁノク、我は最高神じゃぞ?お前より格上の筈なんじゃが…?)
(…シルビア見失ったの誰のせい?…私もあの子気に入ってたのに…)
(うっ…それはすまんと言ったじゃろうが)
(…ちゃんと見つけて仲直りするまでダメ…)
(わかっておるわ…我が繋がらんとお前達は会話さえできんからな)
(…わかってるなら早く見つける…目で見て探すと屋内や影になってるとこは見えない…)
(そうなんじゃよな。今まで当たり前に繋がっておったから…こんなに不便だとは)
(全てを管理とまでは言いませんが、もう少し見渡せるようにしたほうがいいかもしれませんよ?)
(そこまで我らが干渉して良いものか…)
(もしですよ? 今、見えない状態でシルビアちゃんにもしもがあったら…)
(ダメじゃダメじゃ! そんな事は我が許さんぞ!)
(それが答えじゃないですか…今後同じ事が起きないように)
(そうじゃな…キナ頼めるか?)
(仕方ありません。今、手を付けてるものは後回しにしますよ?)
(あぁ…。頼… 待て! シルビアじゃ!)
(何処ですか!?)
(…いたの?)
(アヤツ何でこんなとこにおるんじゃ…)
(そこって…)
(…ロリっこのお昼寝場所…)
(ち、違うぞ! ここから世界を見守っとるんじゃ!)
(…早く声かけて…)
(じゃが…今更なんと声をかけたらよいか…)
(ロリ神様、あの子何してるんです?)
(ん…? なんでこんなとこで脱いどるんじゃーーー! 凍死するぞ!)
(…着替えてるだけ…)
(いやいや、何でわざわざ山頂で着替える必要があるんじゃ! 寒いなら重ね着すればよいじゃろ!)
(…それより、あの子にも教えてあげないと…)
(そうじゃな…死ぬほど心配しとるし)
ーーーーー
ふぅ…誰にも見られてないよね?
まぁこんな山の上だし。大丈夫。
(大丈夫なわけあるかー! 何しとんじゃお前は! そんな破廉恥に育てた覚えはないぞ我は!)
ぎゃーーーー! なんで見てるんですか! さては変態ですか?覗きですか?
あれ?ロリ神様?
(うむ…久しぶりじゃな?)
…はい。 あの…ごめんなさい。
(我、なんでいきなり謝られとるん?まさか…“ごめんなさい、ウザいんで話しかけないでもらえます?”ってことか!?)
違いますよ! そんなこと一言もいってません!
私が謝ったのは神様達の都合や、大変さなんて何もわからないのに、生意気言って困らせたことです…。
(…それは本心か?)
はい…。確かに納得できない部分はあるんです。でも…だからって、私が神様を責める資格なんてないんです。
(資格か…お前はリールーにもそんな手紙を残しておったな?)
はい…。
(ならば聞くが、誰になら資格があるんじゃ?どうしたらその資格は手に入るんじゃ?)
……わかりません。神様に意見するのなら、同じ神様ならあるんじゃないですか?
(バカ者が!)
ひっ!
(お前はバカじゃ…。よいか?確かに我らには我らのルールがある。だからといってお前が意見する事を聞き入れんほど狭量じゃないぞ?これでも聞く耳はもっておると自負しておる)
でも立場も違えば、身分?そういうのも違うから…。
(それは当然じゃろ…お前とリールーだって別の人じゃ。考え方や意見、生い立ち何もかも違って当たり前じゃ)
……。
(よいか?お前が何を考え、何を想っておるか、相手に話さなんだら伝わらん。これはわかるか?)
はい…。
(その上で聞くぞ?お前は今回なにを間違えた?)
全部?
(ひとつずつ、ちゃんと考えるんじゃ。お前は記憶がない。それはつまり色々な経験が乏しく、精神的に幼いという事じゃ。そこを配慮せなんだ我にも責任はある。じゃからな?これから共に学んでいけばいい。間違いなら指摘してやるし、相談にも乗る)
一人で抱え込んで結論を出さずに、相談する…って事ですか?
(そうじゃ! それが第一歩じゃな)
なんだかお母さんみたいです…。
(まぁ似たようなものじゃな。頼っていいんじゃよ。な?)
はい…ありがとうございます。
(ほれ、もう少しで山頂じゃ。せっかくじゃから寄っていけ)
はい! 大好きだったドラゴンに会いたいんです!
(ん?我にか?)
はい! ちょっと話は長いけど、優しくて…はぁ??
(じゃから、そのドラゴン我の分身。地上に顕現する時用の仮初のぼでーというやつじゃ)
そんな…私はなんの為に…漏らしてまで登ってきたのに。
(なんじゃ。それで着替えとったんか)
イヤーーーーーー!
やっぱりロリ神様嫌い!
(なっ…それは無いじゃろ…な?ほれ、お前の好きだったドラゴンじゃぞ?)
ふんだっ! 私が好きだったのはおじいちゃんドラ…
おばあちゃんドラゴンって聞いた時点で怪しむべきだった!
(誰がおばあちゃんじゃ!)
元々は暴れまわっていたドラゴンだったんですか…?
(あーそういう設定というやつじゃな)
ひどい…そう聞くとあの重みのあるセリフがペラッペラになっちゃうよ!
(しょうがないじゃろ…元にした世界観というものもあるんじゃから)
えー…じゃあ勇者様を呼んで、改心したドラゴンのフリして、対ドラゴン用の魔法を教えたんですか?
(う、うむ…)
うわぁ………。
(我らには我らのルールがな? じゃからそんな呆れた顔をするな!)
私のお母さんは世界のマッチポンプ…。
(余計なもの足さんでよいわ! それより…そろそろ迎えが来る頃じゃな)
迎え? まさかこれは走馬灯的なアレで、お迎えが?
(違うわ!!)




