ドラゴンファン
シルビア、本当にどこに行っちゃったんだよ…。
(すまん…もう手がかりがないんじゃ)
心配そうなのは伝わってくるから責めないけど。
だけど早く見つけたい! 何か、何かない…?些細なことでもいいから!
(我らの神託が聞こえるものが接触すればわかるんじゃが…今のアヤツが聖堂に行くとも思えん)
それは確かに。
イースタンテッドの宿屋にもいなかったし、聞き込みしたけどシルビアみたいな風体の若い女の子は見かけてないって言ってた。
大怪我をした人が二階に運び込まれて大変とかで、宿屋の人もあまり相手をしてくれなかったし。
街道を通ってたって野生動物に襲われて怪我はするし、山賊に襲われて人が死ぬ事も日常茶飯事なのに。
そんな騒ぐって事は、何処かの偉いさんとか、余程立場のある人だろう。
ボクには関係ない。 ボクが探してるのはシルビアだけだから。
(本当に大切なんじゃな…)
当たり前! あんな事があって、キャラバンを抜けて…
行くあてもなく、つまらない毎日を過ごしてたボクに、また新しい未来を見せてくれたんだよ。
(全くアイツは自覚しとらんようじゃが…)
それでも良かったんだけど。変に意識しないで楽しくいられたから。
なのに、ボクが余計な話をしたせいで…。
(それは違うのじゃ。いずれ話さねばならん事、お前も黙ったままであやつと本気で向き合えるのか?)
なんで正論ぶちかますかなぁ…。わかってるよ!
黙ったままでいたら、ボクはシルビアがいいよって言っても、抱けなかったと思うし。
(律儀なやつじゃ)
何にしても見つけないことには話にもならないけどね。
(そうじゃな…)
ーーーーーー
自己治癒をかけて、傷も完治したけど、もう一日ベッドで休んで、ようやくルディアさんから外出の許可がもらえた。
防寒具もあるし、山へ行く準備は大丈夫。
「よし、じゃあ行くわよ!」
「え?どういう事ですか?」
「通過できるようにしてあげるって言ったでしょう?私が一緒に行くわ」
「いいんですか…?ダルさんは…」
「あの人ならシルビアちゃんの体調が峠を超えて、落ち着いた後に直ぐブラックランへ戻ったわ。報告しなきゃいけないからね」
「私のせいでごめんなさい…」
「またそうやって自分を責めないの! 無事だったのだから良いじゃない」
そうは言っても。お世話になってばかりだし。
「ほら行くわよ。あの頭の固いジジィ共を説得しなきゃいけないんだから」
シャウトを教えてくれるおじいちゃん達かな?
「グレイビーアートって言う、ドラゴンを愛でる変態よ」
……扱いがひどい!
シャウトがなくなると役目がなくなるから、ただのドラゴン好きみたいになっとる…!
などとツッコミを入れてても山を登るしかないわけで…
ルディアさんも一緒だからか、心強くてスムーズに山を登ることができる。
リールーとだったら…もっと楽しかった…?
…自分から別れておいて今更何を考えてるんだ私は。
もう私には守ってくれる神様も、相棒もいない。
自分の力で生きていかなきゃ。
それを選んだのは他ならぬ私なんだから。
「まだ私達が登って時間が空いてないから野生動物も無害なのしかいないわね」
「色々いたんですか?」
「クマにトロールってとこかしら」
「私一人じゃ餌になってました」
「そうかもしれないわね…。ねぇ、どうしてリールーちゃんと別れたの?そんなにウマが合わなかった?」
「……私のわがままと言うか。 いえ…逃げたんです」
「ふーん。まぁそういう事もあるわね。また新しい仲間を見つければいいじゃない」
新しい仲間?ありえない…。
他の人となんて組みたくない。リールーしかヤダ…
「悪いことしたって思ってるのなら、自分から謝らなきゃだめよ。これは年長者からのアドバイス」
「…はい」
会えるのかな…この広い世界で。神様の力も借りられ…
だめ! なんで私はまた頼ろうとしてるんだ。
自分の力で生きて行くって決めたのに。
なのに…なんでこんな心細くて悲しいの?
「泣くほど大切に思ってるのなら、取り返しがつかないことになる前にちゃんと話をして仲直りしなさい」
「そうですね…」
力は借りなくなったとしても、神様に謝らなきゃ…。
ーーーーー
(リールーストップじゃ!)
なに!?
(戻るんじゃ! 微かじゃがシルビアを感じた!)
どっち!?
(イースタンテッドの方向じゃな…)
動いてないの?でも宿屋には来てなかったよ?
(うーん…近くの洞窟に隠れとるとか)
お風呂大好きなシルビアが洞窟に?
(隠れとるなら、あり得んこともないじゃろ…)
なんで隠れるんだよ…そんなにボクの事嫌いなの?
(それはないな…アヤツお前にベタ惚れしとるから。じゃからこそ拗らせたんじゃし…)
厄介な性格してるよ本当に。
(嫌いになったか?)
まさか。益々離れたらダメだって確信した!
(まずはイースタンテッドでもう一度聞き込みじゃ)
わかった!
ーーーーー
ここがおじいちゃん達の引きこもってるお城…。
「ハイフスロダーっていう城よ。中にいるのはドラゴン変態だから気をつけてね」
「は、はい!」
ドラゴンが好きすぎて、近くに住みだしたヤバい人扱いなのはあんまりにもあんまりだ…。
そして毎度のごとく城の名前が…。吹っ飛びそうじゃん。
しかも何故かルディアさんの敵意がすごいの…。何があったか聞きたいけど聞きたくない。
「また来たわよー。通してもらうわ」
「…なんだ、またお前か。用は済んだのだろ。アーリーエックス様に歌を捧げる時間なんだ」
「あら、私達がいなかったらこの城さえ守れなかったくせに随分な態度じゃない。しかもまたあの変な歌を歌うの?迷惑そうだったわよ?」
「…。 それで今度は何用だ」
歌うの!?叫ぶんじゃなくて?
「この子。私の娘なんだけど、会わせてあげたいの」
「娘…?お前ら子供なんておらんだろうが。どこから攫ってきた」
「人聞きの悪いこと言わないでくれる!?」
「あの…お願いします! 偉大なドラゴン様に会わせてください。お願いします」
「ふんっ。お前より、よほど見どころがあるじゃないか…」
「うるさいわね。ならとっとと扉を開けなさいよ」
「一つ条件がある」
「何でもします! だからお願いします」
「いま何でもするっていったか?」
「シルビア! こいつらにそんな言い方したらだめよ! 何されるか…」
「黙れ! …まぁいい。条件はお前一人で行く事だ」
「わかりました」
元より一人で来るつもりだったんだ。問題はない。
「馬鹿言わないで! こんな小さな子に!」
「お前は帰れ。うるさくてかなわん」
大声を世界に響かせてた人にうるさいって言われるとか…。
「私なら大丈夫です、一人で行かせてください!」
「はぁ…シルビアちゃん。いい?気をつけるのよ。私達が一度通ってるから道は安全だけど、山の天気は変わりやすいわ」
「はい。行ってきます」
ルディアさんは追い出されるようにイースタンテッドへ戻っていった。
宿で待っててくれるって…
恭しく扉を開けてくれたおじいちゃんにお礼を言って、先へ進む。
ゲームでなら何度も通った道だ。しかも敵がいないのなら、警戒するのは天気くらい。
「よしっ!」




