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後悔と自覚



はぁ…。

何度目か数えるのも馬鹿らしいくらいのため息をついた私は、街道を敢えてそれた場所を歩いてる。

リールーが私の手紙に気がついて追いかけてきたら合わせる顔がないから。

そもそも追いかけてこないかもしれないのに。

違うね…追いかけてこなかったとしても悲しいからだ…。


私はバカだ。

リールーの気持ちを知ってて勝手に出てきたんだから。

なのに、心のどこかで追いかけてきてくれたら嬉しいって思ってる。

はぁ…。


だけど、私がリールーの傍にいていいとも思えない。

未だ心のどこかでゲーム感覚だったんだ。

そこに非情な現実を突きつけられて耐えられなかった…私は弱い。

だから傍に居たらいけない。そう思う。

これが正しいのかはわからないけど…。判断できる程の記憶も経験もないし。

だから感情に任せて動いた。



夜のうちにリバーサイドは通り抜けて、ブラックランとは逆の山沿いの道を歩いてきた。

明るくなってからは道なき道を歩いてる。

途中の山賊がたむろしていたタワーは隠密でやり過ごした。


ミニマップが使えなくなったのはびっくりしたけど、私が嫌いって言ったんだから仕方ないよね。

そこは諦めた。 私が突き放したんだから見捨てられても仕方がないってわかってる。

声も聞こえなくなったし…。


他のスキルとか、鞄は使えるから、基準がわからないけど…。

真っ暗な中で、何度か狼に不意討ちされて怪我をしたけど、治癒魔法は普通に使えたし。



私が向かってるのはこの世界で一番高い山、そこへの登山口でもある村。

確認したいことがあったから…。

今まであまり気にしてなかったけど、元のゲームだと根幹とも言える“シャウト“それがどうなってるのか…。

山の上にドラゴンはまだいるのか。タイトルでもあるスクロールは?

自分の目で違いを確認したら…もしかしたらゲーム感覚が抜けるかもしれない。

それに、あの山を登るのは試練みたいな物だから、今の私にはちょうどいい。

弱い自分を見つめ直す為にも。



そう思って、獣道のような道なき道を歩いて、急な斜面を登り、あと少しでイヴァルステッ…。

突っ込みがないんだった。大丈夫かなコレ。


本当にあと少しで村ってところでトロールに襲われた。

油断していたというか、完全に忘れてた…。

直前のサーベルキャットをなんとかやり過ごして、気が緩んでいたのかもしれない。


ゲームでも正にここで不意討ちされて死んだことがあったのに。

吠える声に気がついた時には手遅れで、追いかけ回されて殴り飛ばされた。

殴られた勢いで川にはまって流され、追撃されなかったのは運が良かったのか悪かったのか…。

身体中が痛い…。水が冷たい…。私このまま死ぬのかな。

このままだと多分時間が戻らないって確信がある。マップでさえ使えなくなったのだから。

自業自得、そんな言葉が頭をよぎる。



「おい! 大丈夫か?ひどい怪我だな…」

「何でこんなところにいるのよ! 早く宿屋へ運ぶわよ」

「あぁ!」

聞いたことあるような声…?

なんだか安心した私はそこで意識を手放した。




ーーーーーー


(ダメじゃ…さらに弱くなった…もう方角さえわからん)

どういう事?

(シルビアの心がさらに我から離れたか…或いは…)

或いは?

(命の危険…)

……最後に感じた方向は?

(変わっておらん。今お前がおるところから南、山の向こうじゃ)

くそっ…山を迂回しなきゃいけなくて無駄に時間がかかる!


それにしても、本当にここを通ったの?タワーに山賊も居たけど…。

(一人じゃ倒せんから隠れてやり過ごしたんじゃろ…あやつ隠密スキルは高いからな)

本気で隠れられたらボクも見つけられないんじゃない?

(そうじゃな…。そこまで避けられておらん事を願うしかない)

嫌われてはないはず…手紙にもそんな事は書いてなかった。

でも…傍に居たくないって思われてるならわかんないか…。

あぁもう!!




ーーーーーー



「…あれ…私、死んだんじゃ…」

ここは何処?


「起きたのね? 大丈夫、ひどい怪我だったけどちゃんと生きてるわよ」

「ルディアさん…?」

「そうよ。大怪我してて、まる1日寝たままだったのよ?」

「そう…ですか。ご迷惑おかけしてすみません…」

「どうしてあんな所に一人でいたの?」

「ちょっと、確かめたい事がありまして…」

「話したくない事?」

「…はい」

ゲームじゃない事を自分の目で確かめたかった、なんて言えるわけがない。


「そう。無理には聞かないけど…。リールーちゃんはどうしたの?」

「…別れました」

「仲良さそうだったのに…ケンカでもした?」

「そんな感じです」

「シルビアちゃんは…わざと死のうとして無茶してた、とか言ったら叱るつもりだったけど、違うのね?」

「違います! 本当に確かめたい事があって…イヴァルステッドに向かってたんです」

「イヴァルステッド…?イースタンテッドじゃなく?」

「えっと…それかもしれません」

名前…。相変わらずのセンス。


「それならココよ。イースタンテッドの宿屋よ、ココ」

「そうでしたか…。私行かないと。宿代いくらですか?」

「待ちなさい! そんな身体でどこへ行く気なのよ…」

「7千階段を登ります」

「7千?7百じゃなくて?」

「そっちかもしれません…」

ややこしいな、ホントに。


「ダメよ。許可できないわ。自分が今どんな状態かわかってる?」

確か、トロールに襲われて…。

身体を確認するとあちこち包帯が巻かれて、まるでミイラ。

「治癒が使えますから大丈夫です」

「あのね? それだけの怪我をしてたら治癒をしても身体は思うように動かないの。なにをそんなに焦ってるの?」

焦ってるのかな私。

そもそも山を登って確認して…それでどうしたかったんだろう。

ゲームじゃないのなんて、さんざん見てきた筈なのに。

この痛みだって現実なのに…。


…あぁ。 私は、ただ逃げたんだ。

辛い過去のあるリールーの想いを受け止めてあげられる自信がなくて、共に並んで歩む自信もなくて…。

それを全部神様達のせいにして、自分では何もせずに。

だから、自分が納得できる理由を無理矢理こじつけて…それで、逃げてきたんだ。

それで山を登ろうとして、辿り着くことさえもできなくて…こんな怪我をして、また迷惑かけて助けられて。

何してんだろ私…。


「シルビアちゃんが話したくないのなら、少し私の話を聞いてくれる?」

「はい?」

そういえば、ルディアさんは何でこんな所にいたんだろう。


「私はダンナとちょうど7百階段を登って上まで行って、戻ってきたところだったのよ」

「山へですか?」

「そうよ。丁度村へ戻ってきたところでトロールに襲われてる声が聞こえたから見に来て、ダンナが弓でズドンってね。助けようと近くへ行ったらシルビアちゃんだったからどれだけ驚いたか…」

「ごめんなさい…」

「ええ。それはもういいのよ。 話の続きね? これはナイショなんだけど…山の頂きにはおばあちゃんのドラゴンが隠居してるのよ?」

「やっぱりいたんだ…」 

「やっぱり!?どういう事?」

「いえ…ヤバい、いたんだ。って言ったんです。ドラゴンって勇者様が倒したって聞いていたので」

「まぁいいわ。 勇者様と私達はそのドラゴンに助けてもらったのよ」

「いいドラゴンもいるんですね」

「ええ。いつも言っていたわ。 …生まれながらに良い心を持って産まれてくるか、そうなろうと努力するのとどちらが幸せなんだろうな…って。元々は終末のドラゴンと一緒に暴れまわっていたらしいから」

そうだった…。優しいドラゴンで大好きだったの覚えてる。記憶とは少し違う、そのセリフも聞き覚えがある。

だからこそ殺せって言ってきたアイツらが許せなくて、大っ嫌いだった。


「そのドラゴンを狙ってる勢力がいてね?」

コッチでもか! 

「ブレイドって言う、良い悪い関係なしにドラゴンを狩ろうとする奴らよ。そいつらから少し手を借りたのが未だに悔やまれるわ。人の話なんて聞きもしないんだもの」

似たような名前しやがって…。そして相変わらずの自分勝手。

…いや私もか。人のこと言えないや。


「おばあちゃんドラゴンは無事なんですか!?」

「ええ。私とダンナでブレイドは返り討ちにしたわ」

「良かったです…」

「本当にね。勇者様に終末のドラゴンと戦う力を授けてくれた恩人…いえ、恩ドラゴンだから」

「それ、どんな力か聞いてもいいですか?」

ゲームだと、シャウトだった。


「飛んでるドラゴンを叩き落とせる魔法ね。勇者様しか使えないから詳細はわからないけど…」

やっぱり違う…。

「あの…そのドラゴンに会いたいです」

「会ってどうするの?」

「聞きたいことがあるだけです。危害を加えるつもりはありません!」

「その心配はしてないけど…過酷な道よ?」

「…はい」

「いいわ。途中に自称ドラゴンを守ってる人達がいるけど、そこを通過できるようにしてあげる」

「ありがとうございます!」

「その代わり! ちゃんと身体を治しなさい。いいわね?」

「わかりました」

「ほら、もう少し寝てなさい」

ルディアさんに、無理やり寝かされて布団をかけられた。


早く会いに行きたい。会わなきゃいけない気がするから…









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