鉱山での出会い
女の人の向かった先から剣戟と叫び声が聞こえてくる。
手を貸さなくていいのかと思ったけど、リールーは動かない。
わたしがそわそわしてたら…
「シルビア、行ったらだめだよ」
あまりにも真剣な声で言われるから反論もできなかった。
戦闘の音がしばらく続いたあと、静かになる。
大丈夫かな…。
「おーい! もう大丈夫よ」
女の人の声だ。無事に倒したらしい。
リールーはその声を聞いた瞬間に走り出したから、私も追いかける。
くねくねした坑道を進むと途中に二人の山賊が倒れてて、更に進むと開けた場所に出て、吊り橋がかかってた。
ここにも滝があって、下はまた池になってる。
「こっちこっち!」
声のする方へ行くと…池のそばで倒れた二人の山賊の側に立つ血まみれの女の人が!
「怪我してるなら治癒しますよ!」
「これは返り血だから平気よ」
私達も池のそばへ降りる。
「手を出さないでくれてありがとね。スッキリしたわ」
なるほどね、リールーはわかってたのか。
山賊を弔ってから、女の人の身の上を聞いた。
名前はミジェルというらしい。
「私は仲間とここへ山賊退治に来たのだけどね…仲間だと思ってたヤツが山賊だったのよ」
「騙されておびき寄せられたの?」
「そういう事になるわね」
「…その裏切り者は?」
「私を仲間に突き出した後、ここを出ていくって言ってたからもう居ないでしょうね。私はそいつを探しに行くわ。貴女達にはお礼しないとね」
リールーとミジェルさんのやり取りをただ眺めてた私は話についていけなかった。
混乱していたのかもしれない。
仲間に裏切られた、それが信じられなくて…。
ミジェルさんは助けてくれたお礼だと言って、倒した山賊の持ち物を譲ってくれた。
遠慮しようかと思ったけど、リールーはあっさり受け取った。
こういうのは受け取らないほうが失礼らしい。
そういうものなんだ…。
「本当にありがとね。私は普段リルタンの街を拠点にしてるから、もし寄る事があったら声をかけてね」
リルタン…?どこだそれ。
(盗賊ギルドのあった街じゃ)
あぁ。リフテ…
(リルタンじゃ!)
あ、はい…。
ミジェルさんはすぐに出発すると言うからそこでそのまま別れた。
私とリールーは譲ってもらった物をマジックバッグにいれて、安全になった鉱山内を隅々まで見て回り、またいくつかの鉱脈から鉄を集めることができた。
「シルビア?」
「…………」
「ねぇ、シルビア!」
「…なに?」
「怒ってるの?」
「…別に」
「嘘ばっかり!」
「見に覚えがあるならそうなんじゃない?」
「あれは別に裸に見惚れてた訳じゃないよ!」
「ふーん…」
確かにそれにもイラッとしたけど、仲間のフリをした山賊に裏切られたっていう事実に困惑してる。
それに…売られる所だったなんて。かつての自分の境遇を思い出してしまう。
私はロリ神様のおかげで助かったけど、あの人は私達が来なかったら?
他にも同じような目にあってる人がいるの?
そんなことを考えてたら、イライラして。
それを放置してる神様達も信じられなくなるよ…。
(…我らが干渉し過ぎる訳にいかんのじゃ)
私には普通に話しかけてくれるのに!
(お前は特別なんじゃ。数人の神でこの世界すべてを把握できると思うか?仮に出来たとして、それをして人は幸せになるか?)
ひどい目に合うよりはマシです…。
(それは違うぞ。確かに我らが完全に管理すれば悲劇は防げるかもしれん…。じゃが、そんな管理された世界で自由もなく生きて意味があるか?)
……ロリ神様の話は難しいです。私はただ、可哀想な目に合う人がいなくなる方がいい。
(言いたいことはわかるがな。我らはそれを是とはせん)
そうですか…。
「シルビア、話を聞いてよ」
「…なに?」
「ボク、前にネコキャラバンにいたって言ったでしょ」
「うん」
「その頃に、仲の良かった姉みたいな人が攫われたことがあったんだ」
またそういう話…辛くなるからやめてよ…。
「その人は…助けられなかったんだ…」
「……」
「みんなで探して見つけた時には…」
リールーはそれを思い出してたんだ。だからあの時固まってた…。
そしてミジェルさんの悔しさも、復讐したい気持ちもわかるから…。
「ごめん…リールーの気持ちも考えずに」
「いいよ。あの人は助けられたんだから。それに自分の手で復讐もできたし」
「リールーは…、ネコキャラバンの人達は復讐したの…?」
「当たり前だよ!」
「そっか…それでスッキリしたの?」
「…ううん。虚しかった。そんな事をしても姉さんは帰ってこないもん」
「……」
「それがあったからボクはキャラバンを離れたんだ。ツラくてね…一番可愛がってくれてた人だったから」
リールーはどんなものを背負ってるの?
私はリールーの隣にいていいのかな…。
(何をバカなことを言っとるんじゃ! お前は信頼されて愛されておるんじゃぞ?)
でも、リールーの悲しみや辛さなんて何一つわかってあげられない! そんな私が傍にいていい訳がないよ…。
(お前も大概めんどくさいやつじゃな?)
…神様達のせいじゃない! ひどい目に合う人を無くしてくれればいいのに! それだけの力があるのに!
(そうもしれんな…)
……もう話しかけないで! 神様なんて嫌い!
(そうか…)
その日、拠点に帰ってリールーが寝た後、私はリールーの元を去った。
服以外のマジックバックの中身全部と、置き手紙だけ残して…。




