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ボロ屋と大工



隠密姿勢でゆっくりと奥の建物へ向かう。

遠目だと無事に見えた建物も扉が壊れてる。

私に目配せした後、リールーは刀を抜いて建物へ踏み込む。

「や、やめてくれ!」

「どうせ山賊だろ!」

「違う! 武器も持ってない!」

私がコソッと覗くと、両手を挙げたおっさんが二人。片方は肌が赤い…。はじめて見るんだけど。

(オーガじゃな。因みにオークじゃないぞ?)

あっ、はい。 先に言われてしまった…。


二人から話を聞いて大凡は把握。

この二人は大工で、ここの修理を依頼されて来たらしいんだけど、依頼主がいなくて困っていたと。

「雇われた時に前金貰っちまってるから、どうしようか悩んでたんでさ。依頼人ってもしかしてアンタ達なのか?」

「そうだよ!」

言い切りやがったよリールー!

(それでよいのじゃ。あとは頑張ってそこの権利書を見つける事じゃな?そうしたら晴れてお前たちの物じゃ!)

あー…なるほど?


「権利書を持ってきますね。リールーついてきて」

「わかった」

大工二人を残して建物を出る。


「神託って聞いてたから、あれで良かったよね?」

あ、そういう事ね?実際それで合ってたから何も言えないわ。

「うん。権利書を見つければいいって言われた」

「そんなのどこにあるかわかるの?そっちは教えてくれなかったんだよね?」

「うん。でも多分見つけられる」

「マジかー」


橋の近くにある崩れかけの建物へ入る。

「こんなとこにあっても雨とかでめちゃくちゃでしょ」

「…リールー。手伝って」

建物の奥にある、床に敷かれたままの絨毯を二人で捲る。

その下には隠し扉。やっぱりあった!

「嘘だろ…」

「今回は私が先に降りるから!」

「わかったってば」

落とし戸を持ち上げると梯子があるからそれを降りる。


手持ちのランタンを点けると、中は意外にも快適空間。

ゲームだと前オーナーがここで亡くなってたけど、さすがにないと思ったんだよね。

(我の優しい配慮じゃな!)

ありがとうございます。残ってたら悲惨だったよ…。


壁際のテーブルに何冊かの本と一緒に置かれた書類と、前オーナーの手紙か…。

「見せて!」

「いいよ。こっちは権利書ね」

「えーっと…、これを見つけた人にここの権利をあげるーってさ。ここを買ったはいいけど、修理するほどのお金もなくて、余命も少ないからあとは任せるって」

「そう。じゃあ権利書にサインして」

「ボクが?」

「…ほら、こういうのは旦那さ…じゃなくて! 男の人のが安心でしょ?」

「今なんて?もっかい言って!」

「男の人のが…」

「もっと前!」

「知らないっ! リールーのバカ!」

「ふへへ…旦那様ねぇ。いいなぁ…」

聞こえてんじゃねぇですか!

(もう嫁気取りか?)

ひどっ!

(せいぜい他の女に寝取られんようにな?)

腹立つわー…。

(冗談じゃ)


リールーはササッとサインをすると大工さんに見せに行った。

私は今のうちにこの地下を確認。

ランタンがあったから天井からぶら下げて点けておく。

奥にもう一部屋あって、一人用のベッドと、椅子にテーブル。

小さいけどタンスもある。


当面暮らすには充分な感じだ。雨風もしのげるし。

ベッドが小さいのだけがマズい。非常にマズい…。

私達なら一緒に寝れなくはないけど、まだ心の準備が…。

(発情しとるのか?)

しとらんわ! 

変な約束をしてしまった手前、困ってるだけです!

(家は手に入れたな?ベッドもあるな?)

イヤーー! まだ無理! 無理無理無理。

(女は度胸じゃ!)

なんか違うよ、それ!

「シルビアー、ちょっと上がってきてー」

「わ、わかった!」


(見ものじゃなぁ! くっくっくっ)

(ロリ神様、そんな事ばかりしてたら嫌われますよ?デリケートな事ですのに)

(キナは良い子ちゃんじゃな?喪女になるぞ?)

(…少しお話しましょうかアリエル様?)

(な、なんじゃ…目が怖いんじゃが?)

(ふふっ…お話するだけですから)

(ぎゃーーーー……)

ロリ神様の叫び声がフェードアウトしていったな。

今回ばかりは私もかばう気にはなれない。


梯子を登ると、リールーが手を貸してくれて地上へ。

私を片手で引っ張り上げるだけの力がこの華奢な身体のどこにあるんだこの子…。

「大工達が話があるって」

「わかった」

奥の建物、どうやら事務所って事になるみたいだけど、そこで大工の二人と話をした。


とりあえず、前払いの料金でこの事務所は直してくれると。

それ以外は、別にお金がかかる。

もしくは素材を集めて、私達が自分で直してもいいらしい。


リールーはやる気満々なんだけど、そのやる気がどこから来てるのか、それがわからない。

地下室のあったボロい建物を見下ろせる場所に作業台があって、そこで修理ができると教えてくれた。


大工の人達は、少し離れた橋の傍にテントを張って、明日から作業をしてくれる。

「ボクは何が出来るか見てみる」

作業台を確認するリールー。

「あー…薪は直ぐそこで割ればいいけど、鉄鉱石かぁ…」

「あ、それなら私知ってる」

「そうなの?」

「でも、山賊退治しなきゃだけどね…」

「鉱山が占拠されてるってこと?」

「そうそう。リバーサイドの近くだから場所としては便利なんだけどね」

「そんな近くなら、ここに住むにも危険だし、排除するかー」

あの鉱山はチュートリアルみたいなものだったから難易度も高くないはず。


活動は明日からにして、私達はしばらく地下室を拠点にする。

地下室…狭いベット…うぅ…。

「シルビア、頑張ってここを直して、一緒に住もうね」

「う、うん!」

「どうした?イヤなの?」

「そうじゃないよ! あの…ね?」

「あぁ…。 ボクはここをちゃんと直して、胸を張って家だって言えるようになるまでシルビアに手は出さないよ」

「いいの…?」

「だって、ここもシルビアの聞いた神託のお陰でタダで手に入れたのに、それで約束守って! なんて格好悪すぎる! ボクがきっちり直すから。シルビアと安心して暮らせるようにね」

「ヤバっ…リールーがカッコいい。見た目可愛いのにカッコいいこと言ってる!」

「一言余計だよ!」

「ふふっ…」

「あははっ」

よしっ! 私も頑張ろう。リールーの相棒として恥ずかしくないように!

(いい話じゃなー)

うわっ、戻ってきた!

(うわっ、てなんじゃ! キナの説教なら逃げてきたのじゃ!)

後で大丈夫なんですか?それ…

(我は今に生きるんじゃ)

駄目神様じゃん…。






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