残したモノ
エビドリアンさんの作業もしばらくかかるし、鍛冶屋の近くでリールーとのんびりしながらルディアさんからの手紙を読む。
「なんて?」
「ブラックランの領主様からの依頼で、ご夫婦で遠出することになったって。その間、家は好きに使っていいって書いてある」
「依頼の内容は?」
「詳しいことは何も。遠出とだけ」
「そっか。でも元勇者パーティのメンバーなら滅多な事はないよね」
「そうだろうね」
私達より遥かに強いだろうし。
聖堂にノイラさんもいなかったけど関係してるのかな…。
手紙への興味がなくなったリールーはエビドリアンさんの作業を眺めだす。
「おーボクの刀が研がれてる!」
「そういえば、リールーはあの珍しい武器をどこで手に入れたの?」
「ネコキャラバンにいた時に、買い取ったんだよ。若い兄弟の二人組で、兄の方が作ったらしいんだけど、失敗作だーって言ってて、欲しいっていったら安く売ってくれたんだ」
「へぇー。あんな武器見たことないから」
「でしょ?失敗作って言うけど、ボクには充分すぎる性能だし、大きさの割に軽くて振り回しやすいんだよね」
「たしかに軽々と振り回してるよね…馬鹿力かと思ってたけど違ったのか」
「シルビアよりは力あると思うけど、バカってひどいな」
「言葉のアヤだって。一点物なら大切にしなきゃだね」
「うん! 一番の宝物だったから」
「過去形なの?」
「今は、もっと大切なもの見つけたからね」
「そうなんだ?」
「…シルビアだよ?」
「私!?」
「うん、ボクの一番大切なのはシルビアだよ」
「…ありがと」
なにこれ恥ずかしい!! この子、時々こういう事を面と向かって言うから油断できねぇです。
「仕事してるそばで見せつけてくれるわね?」
「ごめんなさい」
「いいわよ。初々しくて微笑ましいわ」
エビドリアンさんにも聞こえてたらしい。
今度はリールーが真っ赤になって照れてる。
「出来たわ、確認してもらえる?」
エビドリアンさんから装備一式を受け取り確認。
さすがプロ。自分でも手入れはしてたつもりだけど、全然違う…。
「おぉー、輝きが違う!」
「アナタの武器は初めて見たけど、良いものねソレ。真似したいけど、製法がわからないわ。研ぐにも硬くて…」
「そんな特殊なんですか?」
「ええ。刀身は勿論、細かい装飾品も、とてもじゃないけど再現は不可能ね」
「そこまでですか…」
リールーは誇らしげに刀を背負う。
(作ったのは勇者じゃし、元々あちらの世界のものじゃからなぁ…)
マジで!?勇者博物館には勇者の武器無かったのに、こんな所で出会うとは…
(因みにお前も勇者と同じ世界出身じゃぞ?)
はぁぁぁぁ!?
(記憶がないから知らんじゃろうけどな?)
じゃあ私も勇者…
(それはないのじゃ。こんなポンコツ勇者、嫌じゃろ)
ですよねぇーー! 知ってた!
別にへこんでねぇですし…。
装備を整えてブラックランをでる。
今回は依頼掲示板にめぼしいものが無かったから、このままイリタマゴ湖へ向かう。
リバーサイドへ向かう途中の川で、前に私が話したのを思い出したのかリールーが遡上中のシャケを狙ってとってた。
相変わらずあの子は…クマかなんかなの?
川から弾き飛ばされてくるシャケを回収するとちゃんとイクラが。
「イクラとれたよ!」
「やった。今夜は豪華なツマミだー」
そういえばカニも調理してあげないとな…。
カニとかシャケと一緒に、私の服も一緒くたに鞄に入ってるんだけど、気分的に心配になる。
(大丈夫じゃぞ?魔法的なアレでアレしとるからな)
全く安心できねぇです。でも実際に生臭くなったりはしてないから信じるしかない。
(我を信じるがいいのじゃ!)
一番不安だけど!?
(なんじゃと!)
身に覚えがないとは言わせませんからね。
(…まぁそれこはほれ。それはそれ、じゃ)
完璧すぎて近づき難い神様より、親しみがあって私は好きですけどね。
(ついにシルビアがデレたのじゃ!)
ついにってなんだ!
リバーサイドには特に用事はないから素通り。
犬を連れた生意気なガ…お子様が、芋じゃなくなってた。
性格は相変わらず腹立つけど…。
後ろから私のスカートを捲ろうとして、ブチギレたリールーに殴られててちょっとスッキリ。
「見逃してよ!」じゃねぇんですよ…。
「あのクソガキ、次ボクのシルビアにエロい事したらひん剥いて川に晒してやる!」
「それ寒さで死んじゃう!」
頭を抑えてうずくまってたけど、リールーのそのセリフが聞こえたのか真っ青になって逃げていった。
「アイツ、バカでごめんなさい!」っていつも一緒に遊んでる、鍛冶屋の娘さんが謝ってくれて、逃げた男の子を追いかけて宿屋の裏の方へ行ってしまう。
「あ、これアレだ。宿屋でチーズを盗み食いしたリールーの事を謝って、お金払った私みたいじゃない?」
「……ほら早くいくよ」
言い返せなかったのかさっさと歩き出してしまうリールーを追う。
「もうやらないから…」
「うん。約束だもんね」
例の壊れたままになってる石塔の傍を通り、狩人のキャンプへの坂を下る。
(色々あってソレの修復はまだじゃ…)
特に不便もないからいいですけど。
狩人のテントがあるすぐ傍に橋がかかってる。
そう言えばこれも追加したからあるやつか。前にここを通った時は当たり前になり過ぎてて気にしてなかった。
橋を渡るとボロボロになった家と、止まってる風車、無事な建物は一つだけ。
「まさかここ!?」
「うん…。だけど待って、誰かいる!」
「敵?」
「わかんないから慎重に。風車の向こうの建物に二人」
「おーけー」
山賊でも住み着いたのかな…。何処にでも湧くなぁアイツら。




