沼地で待ち合わせ
竜橋の村から、フードを目深にかぶった魔術師風な見た目の女の人が乗り込んだ以外は特に何事もなく馬車は進み、ムーサルに到着。
魔術師の人は領主邸の向かいにある錬金術師のお店へ向かった。
私達はパリオンって人を探す。
記憶どおりなら町の外れに家があって、幼い女の子と住んでたはず。
「鍵かかってるね」
ノックをしたけど返事はなく、扉に手をかけたリールーはそう言う。
「出かけてるのかもしれないね。真っ昼間だし」
ただ、あの人って町でもあまり歓迎されてなくて変な噂を囁かれてたから、人付き合いはあまりなかったと思うんだけどな。
仕方なく町の中を探して回る。
しばらくウロウロして、北側の橋の上でようやく発見。
「おかしな噂話で俺を批判するつもりならよそへ行ってくれ」
「違います! 吸血鬼に詳しいと聞いて…」
「…物知りなだけだ。 ふむ、そういう事か。治したいのなら満たされたブラックソウルストーンをもってこい。用意するには誰かを殺めるしかないが…」
「拾ったのを持ってます」
「それなら、明け方に沼地のサークルへ来い」
それだけ言うとパリオンは行ってしまった。
「リールー、持ってるよね?」
「うん。明け方か…それまでどうしよう?」
「依頼掲示板でも見てみる?」
「簡単にできそうなのがあったら受けようか」
宿の傍にある掲示板を確認するも、遠出になりそうなものばかり。
リールーは、曇ってるとはいえ日中の屋外はツライらしく、早めに宿を取ることにした。
「肌が雪のように白いわね…」
宿の店主にリールーがそう言われて、慌てる。
「この子もともと色白なんです!」
言い訳みたいになってしまった…。
宿の部屋で夜中すぎまで時間を潰し、パリオンって人が言ってた沼地のサークルへ向かう。
真っ暗な上に足場が悪い…。
ランタンを付けてるけど、照らされる範囲なんてたかがしれてる。
しかもミニマップに敵反応。
「リールー、敵! 右斜め前方」
「了解! というかスキル使うよ」
リールーは吸血鬼の暗視を使ったらしく的確に敵へ向かっていった。
でっかいカニがいたらしい。
「シルビアの鞄に入れといて。塩ゆでにしよう」
そう言って渡されたカニの脚を受け取る。
「吸血鬼を治したらカニパーティするんだ」
(これはふらぐというやつじゃな?)
縁起でもないからやめてくんねぇですか!?
(言ったのはリールーじゃろ)
そうですけど!
サークル迄の道中が沼地のせいで下半身はずぶ濡れ。
クマまで現れた時はもうダメかと思った。
だけど、私が手を出す間もなくリールーが斬り伏せていった。
「リールー強くなってる…?」
「かも…昼間みたいによく見えるし、力が強くなってる気がする」
吸血鬼にそんな効果あったっけ…。
(…夜だけ…3割増し…。角があれば3倍…)
角…?
(気にするな。それよりもじゃ、身体を温めたほうがよいぞ)
そうですね…。
サークルってパリオンは言ってたけど…、これは遺跡でしょ。
その遺跡の周りはある程度の広さがあるから、乾いた枝を集めて火炎の魔法で火をつける。
「リールーも身体温めたほうがいいよ」
「そうだね。濡れたスカートが脚に張り付いて動きにくい」
本当ならテントも組み立てて、着替えたいところだけど。いつパリオンが来るかわからないのにそんな事もしてられない。
「いつ来るんだろう…」
「明るくなるまでには来るでしょ」
そう思ってたのだけど…日が昇り、リールーがツラそうにしだしてもパリオンが来ることはなかった。
「場所あってるよね?」
「間違いないよ。クエストマーカーでてたし」
リールーの受けた依頼になるから、私には確認できない。
「何かあったのかな?」
「さぁ?苦労してここまで来たのに! 見つけてぶん殴ってやる」
この子かわいい顔して言動は過激なんだよなぁ。
仕方なくムーサルの街へ戻ると、何やら騒がしい。
衛兵を捕まえて事情を聞く。
「夜中に魔術師がクマに襲われたらしい。子供が大騒ぎして町中が寝不足さ」
この衛兵…人がクマに襲われて、その子供が心配してるのにそんな言い方あるか?
「シルビア、気持ちはわかるけどここで手を出したらダメ」
「流石にそんな事しないよ。ムカついたけどね…」
だるそうに歩き去る衛兵の後ろ姿を睨みつける。
「それより、襲われた魔術師って誰だろ」
魔術師…まさか…! この町でそう呼ばれてたのは一人だけ。
急いで町外れのパリオンの家に向かう。
「来なかったのってそういう事?」
鍵のかかってないドアを開けて中へ飛び込む。
「うぁぁぁん…」
ベッドに横たわってるのは間違いなくパリオン。
女の子がすがりついて泣いてて、それをあやしてる女の人。
「…どなたですか?まだ師匠を貶めるつもりですか!」
この人馬車で一緒だった人だ。
「そんなつもりはありません…」
「貴女は…。そういう事ですか。こちらへ…」
泣いてる女の子から離れて部屋の隅へ。
「治療希望の方ですよね?」
「はい…待ってたんですけど、来なくて。戻ってきたらこの騒ぎで…」
「すみません。私は彼が大学で教師をしていた時の教え子で、リナといいます」
「何があったの?あんたも吸血鬼だよな?」
リールーがそう言うけどフードで顔が見えないから私にはわかんない。
「同族には隠せませんか…」
そう言ってフードを外した女の人は、確かに目は真っ赤で、肌が雪のように白い。
「馬車の時はシルビアの太ももを堪能してたから見逃してあげただけだよ」
おい、今なんていった?
「見逃す?同族のくせにおかしな事を言いますね」
「心まで吸血鬼に染まってないし」
私の血を飲んでえっろい顔してたくせに!?
「…私も旅の途中で感染させられて、師匠を頼ってきたのです。昨夜、サークルへ師匠と向かう途中、クマに襲われた私を庇って師匠は…」
なんてことだ…。
そうなるとどうしよう…。
私の知る限り、吸血鬼を治せるのはあの人だけだ。その人が死んでしまったら…。
リールーはこのまま吸血鬼として生きていくしかなくなる…。
こんな時こそロリ神様の知恵を借りたいのに昨夜焚き火をしてた時くらいから全く声が聞こえない。
(すまぬ…。そやつが襲われてからその後の対策に追われておってな…)
なんとかなるんですか?
(当たり前じゃ。しかしすぐにとはいかぬ…すまんな)
そんな!
(我らの力を使い、急激な変化を起こすと世界が歪む。そうなると何が起こるか予想ができんのじゃ)
……。
(しばらくお前の相手ができんから気をつけるんじゃぞ)
はい…。
「私も吸血鬼の治療はしたい、しかし師匠はあの通りで…。私もある程度の方法は教わっているのですが、成功する保証はありません」
「てことはボクはもうこのままシルビアの美味しい血を飲みながら生きていくしかないのかー」
「諦めんなよ! というか私から飲む気満々かよ!」
「シルビアはボクが他の女の子の血を飲んでても気にしないんだ?」
「うっ…、おっさんでもいいじゃん!」
「ヤダよ気色悪い!」
「あの…」
「「何!?」」
「ひっ…協力していただければ、なんとかなるかもしれません…」
リナさんの話を纏めると…
私達は実験用の吸血鬼を生きたまま捕獲。
リナさんは元々召喚術師らしく、死霊術でパリオンを起こして、吸血鬼の治療法をしっかりと学ぶ。
どちらも非人道的な行動になるから、秘密裏に行う必要がある。と…。
今は泣いてる女の子も弟子らしく、落ち着けば手伝ってくれるらしい。
あんな小さな子に、そんな事の手伝いをさせるの!?
ロリ神様、これが正しい方法なの?
答えてよ!!




