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王都での初仕事



王都の門を出て坂を下る。

今朝はすでに客を乗せて移動したのか馬車はいない。


馬屋が見える三叉路を左へ曲がると大きな船と港が見えてきた。

カモメの鳴き声も聞こえる。

「配達相手はベットリアウィキって人らしいんだけど、どこだろ」

「あぁ…その人なら多分、港の建物だと思う」

「何で知ってるの?」

「あ…いや皇帝の従姉妹って有名じゃん?」

私の思ってる通りの人なら、だけど。


リールーがジト目を向けてくるけど、それ以上答えようがない。

港への階段を下り、桟橋を歩く。

建物の中で荷物のチェックをしている女性に話しかける。

「結婚式の準備で忙しいのよ」

いや知らんし。こちとら鍛冶屋の配達で短剣を持ってきただけだ。

料金と受け取り票を貰い、港を後にする。

忙しいみたいだし。


暗殺ギルドが無くなってるなら、あの人は消されたりしないんだろうけど、結婚式さえ始まらない気がする。

(それはどういうことじゃ!?)

フラグが立たないから?

(あぁもう…ややこしいのじゃ!)

でも結婚式が始まる=あの人は暗殺されちゃうって事なんだけど。

(なるほどのぅ。これからもそういう類のは気がついたら教えてくれると助かるのじゃ)

はーい。神様も大変だ。

(全くじゃ…)


港から街道を少し戻り細い横道へ入る。

製材所はこっちだったはず。

どこの製材所も水車の力を利用して材木を切ってるから、必ず水辺にある。

丁度切り終わった材木がものすごい音を立てて落下してきた。

リアルだとこんな大きな音がするのか。

ビクってした私を心配したのかリールーが手をつないできた。

「大丈夫だよ。ボクがいるから」

何これ照れくさい…。リールーってこんなだった?

(朝から見せつけてくれるのじゃ)

別にそういうのじゃないし!


配達相手はボルンっていう製材所の責任者。

「入ってこい。今からちょうど休憩するところだ」

「荷物を届けに来ました」

「助かるよ」

柵にもたれてぼーってしてたけど、それでいいのか責任者。

配達したのは斧。木を伐るのに使うんだろう。


「これで配達は終わりだね! 後はクマを探さないと」

「決まった場所にいるのを倒しに行くんじゃないの?」

「毛皮を二枚っていう依頼だからどこのでもいいよ」

「それならここから南の湿地にでもいく?」

「確かにあっちなら人がいなさそうだしいるかも」

ロリ神様が言ってた、蜘蛛がクマとか動物に変わってるなら湿地にいるでしょ。

(そうじゃな)


ゲームならザブザブと水の中を泳いでいくところだけど、今それをしたら凍死しかねない。

渡れそうなところはないかとウロウロしてたら製材所の東に使われてなさそうなボートを見つけた。

リールーはまたボートに乗れるのが嬉しいのかすぐに乗り込んだ。

私も手を借りて乗り込む。

「いくよ−!」

元気にボート漕ぎ出したリールーは楽しそう。

ただ対岸が見えてるくらいだし、あっという間に渡りきった。

「ほらシルビア、手」

先に下りたリールーはまた手を貸してくれる。

「ありがと…」

「ボクは紳士だからね」

その見た目で?って言いそうになったけど飲み込んだ。


湿地だからか少し進んだだけで凄い霧。

「はぐれるといけないからすぐ後ろにいてね」

「うん」

ミニマップで見えてるとは言えない。

”ぐぉぉーーっ”てクマらしき唸り声が遠くから…

「リールー! 斜め右前からクマ!」

ミニマップのギリギリにある赤い光点がそうだろう。

「了解!」

私も弓を構えるけど霧が濃すぎて目視できない。

剣を構えて警戒してるリールーのが的確に位置を把握してそうな感じだ。


ドドッドドッっていうクマの足音で相当近くにまで来たのがわかる。

薄っすら影が見えたところで矢を放つ。

”グガァァ”と悲鳴を上げるクマ。ちゃんとあたったらしい。

走り出したリールーが霧の中でシルエットしか見えなくなり慌てて追いかける。

「仕留めたよー!」

「早い!」

「それはそうだよ、シルビアの射った矢が目に刺さってたし」

確かにクマの左目には深々と矢が穿たれてる。

「この霧の中でよく当てたね」

「薄っすら影が見えたから射ったけど、目にあたったのはたまたまだよ」

皮を回収しようとしたら、蜘蛛の毒持ってるのはなんでだよ!

(無くなると困るじゃろ)

あまり毒をつかった記憶がないからなぁ。

回収してたら少し霧が張れてきた。


「後一匹分だね」

「また霧がでるかもだから、ボクから離れすぎないでね」

「わかった」

慎重にすすんでいると明らかな人工物が。

リールーがしゃがむように、ジェスチャーで指示を出す。

隠密姿勢で近づくと簡易のテントと、焚き火の後。それに…

「こんなところでキャンプするから…」

さっきのクマにでもやられたのかも。霧の中から不意打ちでもされたのか焚き火の傍に食い荒らされた跡が。

弔おうかと思ったけどリールーに止められた。

「魔法使うとおびき寄せるかも知れない」

それは確かにそうだ。何匹も来たら私達もこの人達と同じ末路を辿ることになる。


キャンプを中心にウロウロしてネズミとクマを更に二匹仕留めて、依頼も無事達成。

探索中に怪しい遺跡を見つけたけど、中に入ったらいくつものゾンビが倒れてて、これはヤバいって感じて即撤収した。

(それくらい慎重なほうが長生きするのじゃ)

ですよね。これはもうゲームじゃないから…。


行きに乗ったボートで製材所近くまで戻って、また王都への長い坂を登る。

ほんとこの坂のせいで王都が嫌いになりそうだわ。



鍛冶屋に配達の報告と、クマの皮を納品して今日のお仕事は終わり。

お城を見たいっていうリールー。

疲れてるけどそれくらいならいっか。

鍛冶屋の裏手は広場になってて、兵士の訓練場になってる。

広場を抜けてまっすぐ行けばお城だ。

「また坂かよ…」

「がんばれシルビア!」

ため息をついてお城への道を行く。



「あんた! 人助けをしてるんだろう?」

「いや?別に。ボクはお金になんないことはしないよ」

リールーのあんまりな返事に固まったおじさんを放置してさらに進む。

あの人って…狂気の神様クエストだっけ。

(あーあれどうしたんじゃったか…)

誰かに統合されたんじゃないのです?

(いや…知らんのじゃ)

なんて無責任な! あんなヤバい神様放置とか…。

(ちとキナに確認してくるのじゃ)

丸投げしてる弊害だな…。



大きなお城を見上げられる場所まできた。

さすがに入るわけにいかないし…。

「これが王様のいる城かー。贅沢してるんだろうな。ムカつく…」

誰かに聞かれたら不敬罪で捕まりそうなことを…。

盛大に舌打ちしたリールーは回れ右。

「なんかもうういや。見てたら腹立ってきた」

じゃーなんで来た!?長い坂をわざわざ歩いたのに!

(王都の城 レッドパレスじゃ。屋根が赤いじゃろ?)

元は青かったもんなぁ…。安直な改変がお城にまで影響を与えてるのか。

(わかりやすくていいじゃろ?)

まぁそうですね…。


宿への帰り道で走り回る子供に鬼ごっこに誘われたけど、流石にそんな元気はもうない。

相変わらず話し方はイラッとするけど、顔が芋っ子じゃなくなってた。

それなりに美形なのがまたはらたつな。

(どないせーというんじゃ)

このままでいですよ。見た目は…。

(性格まで矯正したら負荷がヤバいことになるんじゃ)

じゃーそのままでいいや。絶対養子はとらないけど!

(その前に家じゃろ)

それも夢のまた夢だなぁ。







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