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始まりの清算



潮の香りがしてきたってことはそろそろ港かな。

坂の上には王都の門が見える。

「うわっ…またあいつだ」

また賞金稼ぎかと思ったら、客待ちをしてる馬車だった。

リールーに睨まれた御者の人がちょっと可哀想になる。

早くなんとかして欲しい…。


「この坂、長すぎるよね」

「キャラバンの時に何度か来てたけど、確かにね。急勾配だし」

かなりの距離を旅し、山賊退治までしてきて、最後にこの坂はキツイ。

(若いんじゃからがんばれ)

他人事だと思って…

「はぁ…はぁ…」

「大丈夫?シルビアって意外と体力ない?」

「そう…かも」


ようやく門までたどり着き振り返る。

おかしいだろこの坂。ここ王都やぞ?

不便が過ぎる。


リールーと門を抜けると何やら人だかりが。

見覚えのある光景…でもおかしいな?

ドラゴンも倒し終わってるのにこの処刑イベントが今起こるの?

(別件じゃな)

そうなんだ…。


興味津々で見に行っちゃったリールーに仕方なくついていく。

「俺は従者だぞ! 何かの間違いだ!」

「ブーー!」

「神託に間違いがあるわけないじゃない!」

「とっととやれ!」

見物人からの罵倒がすごいな…。

神託ってことはロリ神様?

(…うむ、まぁ重罪人じゃな)

こういう光景見たくないんだけどな…。


「ロリクール、お前は人身売買に手を染めた! 何か言いたいことはあるか?」

「俺は犯人じゃない! やめてくれ!」

人身売買…まさか!

(…間違いなくソイツが親玉じゃ。シルビアよ、お前のせいではない。気にするでないぞ)

……。

とてもじゃないけどこれ以上見てられなくて、その場から走り去った。

私のせいだ…。

(違うと言うとるじゃろ。あくどい事をして荒稼ぎして、何人もの人身売買に関わっておった。自業自得じゃ)

…他の買われた人は?

(もちろんひどい目に合う前に保護されておるから安心しろ)

そっか。それが聞けて安心しました。

(うむ。じゃから気に病むな)

はい…。



取り乱してたせいで、どこをどう走ってきたかわからなくて、改めて周りの確認をする。

ゲームの記憶どおりなら、吟遊詩人の学校辺りまで来てるっぽいな。

リールーを置いてきちゃったけど、今はあそこへ戻る気にはなれない。

(少しだけ戻って市場に行くのはどうじゃ?依頼掲示板もあるしの)

そうします…。


とぼとぼと歩いて市場へ向かう。

市場の店員とかも野次馬してるのか人が殆どいない。

依頼掲示板でも見てみるか…。

見習いになった事で、受けられる依頼が多少なり増えてるな。

荷物の配達、錬金素材の入手、鉱石の入手…

「やっと見つけた!」

「ひゃう!」

声に振り返るより先に後ろから抱きつかれて変な声が出た。


「リールー…離してよ。ビックリするから」

「やだっ! 急にいなくなるから何かあったのかって心配したんだよ?」

「…ごめん」

「何かあったの?」

「……」

「…依頼は明日でいいから、今は宿に部屋をとろう?」

「うん」

抱きつくのはやめてくれたけど、手は離してくれなくて…。

リールーに手を引かれて宿屋に。



「ここに座ってて。部屋とってくるから」

カウンター脇のベンチに無理やり座らさせられた。

(過保護じゃのー。愛されとるな?)

そうなのかな…。


「部屋と、お風呂も借りられたから。入るでしょ?」

「うん。長旅で汚れたし…」

部屋は2階のダブル。王都だからか結構広い。

荷物を下ろして、いつもどおり一緒にお風呂。

流石に慣れてきたなぁ。

ただ…

「リールー、近くない?」

「別にそんなことない」

今までならある程度の距離を空けてたし、何ならこっちを見なかったリールーが、肩が触れるような距離にいる。

顔は真っ赤だけど…。


「ごめんね…気が付かなくて」

「うん?」

「なんでもない」

そう言ってリールーは私の手を握る。

もしかして、さっきの処刑の事?

(それ以外無いじゃろ)


「心配してくれてありがと…」

「ボクは気に入ったものは大切にするからね」

「じゃあ、もしそれがいらなくなったらどうするの?」

「シルビアはいらなくなったりしない!」

珍しく声を荒げたリールーの目は真剣だった。

「そっか…」

「ずっと傍にいて」

「うん…」

なんとなく、なんとなくそうするのが正しい気がして目を閉じた。

その時、唇に触れた柔らかい感触は多分一生忘れられないと思う。



お互い気恥ずかしいまま部屋に戻り、無言でベッドへ潜り込む。

離れたくなくて…手を握ってたのだけは覚えてる。

ドキドキはしたけど、安心感がすごくて気がついたら朝になってた。


目を開けると相変わらずの美形が目の前に。なんでこの子こんなにまつ毛フサフサなの?

その辺の女の子より絶対かわいい…。

(身内びいきか?)

…それもあるかもだけど。

これが大人の階段を登ったってやつかな?

(挨拶みたいなキスしただけで何を言うとるんじゃ…おこちゃまめ)

そんな言い方しなくても。

(ディーが喜んで”いいね“しまくっておったが…)

そう言えば…。 最近慣れて気にならなくなってるな。

(ユーチュードにはすべての神の祠があるから、スキルの割り振りなどしたかったら寄ると良いのじゃ)

…ちょっとまって。今なんて?

(スキルの割り振りしたかったら…)

もっと前!

(すべての神の祠が…)

もっと!

(ユーチュードか?ゆっくりしていってね! なのじゃ)

…なんかわかんないけど頭痛い。それって王都の名前?

(じゃな。 まぁ王都って言えば通じるが…)

なんかすっごい聞き覚えがあるような気がしてモヤモヤする。

(気のせいじゃ)

そういう事にしておきます。


「しるびあ…おきたの?」

「うん。少し前に。おはよ、リールー」

「おはよー」

「ちょっ…んっ……」

「ふふー」

なっ…こいつ不意打ちを!

(よいではないか、よいではないかー)

黙ってて! 全く!


人に不意打ちかましといてなにを幸せそうな顔してやがりますか!

そんな顔されたら怒るに怒れないじゃん…。

(チョロいな)

うっせーですよ!


ベッドから抜け出そうとしたけどリールーに捕まって離してくれなくて。

仕方なくそのままにしてたら、二度寝しやがりましたよ。

「やれやれ…」

ようやくベッドから抜け出した私は荷物の整理。

食べ物はまだ大丈夫。お金は流石にちょっと心許ないから依頼をこなさないと。


一階に下りて、朝食を買ってきた。

今朝はちょっと冷えるし、温かいスープはありがたい。


部屋に戻ると、ぽやーっとした顔でベッドに座ってるリールー。

「起きた?朝ごはん持ってきたよ」

「おはよ〜ふわぁ〜」

「2回目だけどね、おはよー」

ホント美少女にしか見えないんだよな。

この華奢な身体でよくあんな大きな剣を振り回せるなぁと不思議に思う。


朝食後、売るものとかを仕分けして市場や鍛冶屋へ売りに行った。

お金は持ってると無駄遣いしそうだからって、最低限以外は私に預けてきた。

「大丈夫なの?」

「信じてるし。シルビアに持っててもらった方が安全な気がする」

確かに私の鞄ならスリとかにもあわないけど…。


山賊頭の鎧がそこそこいい値で売れたからリールーは喜んでた。

市場で塩とかを買い足して、二人で依頼掲示板の確認。

「良さそうなのはー…。ん〜配達の依頼を受けつつ獣の退治かな」

「なんの獣?」

「クマ」

「大丈夫?」

「ボクに任せて!」

大丈夫かな…クマとかサーベルキャットってやたら強かったような。


配達依頼は、鍛冶屋さんから製材所への荷物と、港への小包。

荷物を受け取った私達は王都を出発した。











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