山へ 登山編
「シルビア、起きろー。起きないとイタズラするよ?」
「んー…、なに…?」
「今日は山に登るんだから、早く行くよ」
リールーに揺すられて目を覚ます。
「…珍しい、リールーが起きてる!」
「イタズラしとけば良かった」
咄嗟に身体の確認。 大丈夫。ちゃんと服着てる…。
「そんな慌てなくてもいいじゃん。シルビアの同意もなしにそーゆー事はしないよ」
そうだよね。リールーはそういう子だったよ。
まだ付き合いは浅いけど、その辺は信頼してる。
宿を出ると今日も快晴。
ただ、山の天気は変わりやすいから気をつけないと…。
前回おっさんが落下してきた所を左へ曲がり、少し進むと何やら人工物が見える。ミニマップにも反応が。
前方をイーグルアイでよく見てみると、道の両端の高台に射手が二人、道をまたぐように吊橋がかけられてる。
しかもあれ…落石の罠だよなぁ。
「リールーストップ!」
木の影に二人出しゃがむ。
「敵?」
「うん、多分山賊。見えてるのは射手が二人、高い位置にいるから私の出番だね」
「ボクは駆け抜けてもいいよ?」
走り出しそうなリールーを止める。
「だめ! 落石の罠まであるから」
「山賊のくせに生意気」
隠密姿勢のまま、街道右側の斜面を登り、片側の敵だけ射線を確保する。
「こっちだけまず仕留めるね、もしもう片方にも気づかれたら矢に気をつけて」
「わかった。ボクにも見えた。登れなさそうだし任せるね」
リールーへ頷くと弓を構えて、即座に放つ。
キレイにヘッドショットが決まり、倒れる。
「やるねー」
もう一方に気づかれてはいないみたいだから、バレる前に仕留めないと。斜面を下り、木の影からもう一人も確実に仕留める。
ミニマップにももう反応はない。
ゲームだと何故か敵がいないのに罠が起動されるっていう、訳のわからない仕様だったけど、これがリアルなら大丈夫だよね?
(当然じゃ。そんな怪奇現象はおきんぞ)
よかった…。
街道へ戻り、山賊が作ったであろう吊橋の下をくぐる。
罠も起動せず無事に通過。
少し進むと道沿いに石が積まれてる。
「ここから山へ登れそうだね」
獣道みたいだけど、確かに登れそう。ミニマップにも薄っすらと道が見えてる。
リールーが前を歩き進む。
ミニマップに赤い反応が出るのとリールーが駆け出すのは同時だった。
「敵、3! 遠いのを仕留めて」
「わかった!」
前方に二人の山賊。少し左に射手らしき山賊が一人。
私も弓を構えて、離れたところにいる山賊へ矢を放つ。
一発じゃ仕留めきれず、矢が足にあたり、よろけている山賊に直ぐ様二射目。
今度は身体にあたり倒れたのを確認。
リールーの援護をしようと腰の片手剣に持ち替えて走る。
「ふぅ〜」
私が到着するより、リールーが二人を仕留めるほうが早かった。
さすがだね。
「リールー、大丈夫?怪我は?」
「へーき。これも返り血だし」
ゴスロリがまた血みどろ…。
パパッと早着替えしたリールーは何事も無かったように山賊から荷物の回収。
私も離れたところで倒れた山賊から、矢を回収。
装備類は無視する。
これは出発前にリールーと決めてて、重たいものは放置、宝飾品やゴールドだけは回収することになってる。
山を登るのに余計な荷物を増やしたくないって言うリールーに合わせた。
「どーせ、山賊の装備なんて売っても大した額にはならないからねー」って言ってたし。
私はロリ神様のおかげでまだマジックバッグに余裕はあるけど、装備類はいらない。
(山賊どもは装備の手入れもまともにせんから、ぼろぼろじゃしな)
確かに。それに臭い…。
魔法で山賊を弔い、更に登る。
突き当りを左に行くと小さな滝があって、そばに簡易のテント。
多分さっきの山賊のだろうな…。
リールーは周りを確認したあと、舌打ちした。
多分何もなかったんだろうなー。
可愛い顔してやってる事は…。
(まぁ、この世界じゃとあれが普通じゃ)
それもそっか。
山登りを再開し、くねくねと坂道を進む。
「寒くなってきた…」
「そーだね、コート着よう」
バッグからコートを出して羽織る。
あったかい…。
小柄な私達がもこもこのコートを着ると、着膨れて面白い事になるけど、背に腹はかえられない。
雪がチラつき始め、道沿いには寒い所でよく生えてる雪イチゴの木。
いくつか取って口に放りこむ。
「すっぱいっ…!」
炎や冷気に対する耐性が少し上がる錬金素材だった筈だから我慢する。
「リールーも、食べて」
「えー」
「ちょっとだけど、寒さがマシになるよ?」
「仕方ないなー。 うぅ…まじで酸っぱい…」
体感的には多少ポカポカする程度だけど、コートのおかげで熱が逃げないから有り難い。
「あ、なんか温かいかも」
リールーも体感できたみたい。
一時期、錬金術で資金稼ぎをしてたから多少の知識はある。
それが役に立ってよかった。
(まさに錬金術じゃな!)
物によっては結構な金額になるからそうかも…。
途中、道が途切れて岩肌をよじ登ったりしつつ更に山を登る。
何故か道沿いにトラバサミが置かれてて、それを辿ると山小屋が…。
あ、これあれだ。弓の訓練してくれる人がいるとこだ。
確かア…
(リンジーの野営地じゃ!)
あ、はい。弓の訓練か。
(お前はすでに弓のスキルが高いから、行っても意味ないのじゃ)
じゃあいっか。
興味を示してたリールーも弓使いが住んでるだけって言ったら、一気に興味が失せたらしい。
少し雪が強くなってきたけど、そのまま進む。
遠くに廃墟みたいな砦が見えたけど、どう甘く見積もっても危険な雰囲気しかしないし、相談の結果無視することに。
「いつかあんなのも攻略できたらいいけど、いまのボク達じゃ無理だろうねー」
「うん…」
ここの記憶は無い。多分クエストとかでもあまり来るようなところじゃないのかもしれない。
全部のクエストをやった訳でもないし、把握もしてないけど…。
砦の外に見張りはいないないようなので、脇をすり抜けて雪の斜面を登る。
リールーは迷いもせずに進むけど、道がわかってるのかな?
(リールーが受けたクエストで、クエストマーカーが出ておるからな)
あ〜なるほど。
え…?
(なんじゃ、知らんのか?)
私がクエスト受けた時にはそんなのなかった…。
(…ちゃんと進行中のクエストをアクティブにしたか?)
なにそれ…まんまゲームじゃん。
(仕様じゃし)
なんでも仕様って言えば許されると!?
(だってそうなんじゃもん…)
早く教えてほしかった…。
(どおりでまごまごしておったはずじゃ…ゲームの知識を残しておいたのに、意味ないのじゃ)
どこまでがゲームと同じで、どこから違うのか境目がわかんねぇんですよ!
(頭カチカチじゃな?柔軟に判断するとよいぞ?)
くっそ…。言ってくれるじゃねぇですか。
話してたらリールーから少し遅れてしまったのでペースを上げる。
斜面には雪に埋もれた階段があり、それを上がると開けた場所に。
「あったー! あそこだよ」
走り出すリールーを追いかける。
目の前にはちょっとした東屋みたいな建物が在り、焚き火も燃えてて暖かそう。
「もう夕方だし、今日はここでキャンプしよっかー」
「うん、吹雪いてきてるし、ここなら暖かいもんね」
リールーに出すよう言われてテントを渡すと、東屋の中に手早く組み立ててくれた。
手慣れてるなぁ。少し手伝ったけど私じゃ組み立てられなさそう。
あ、そういえば…
「ねぇリールー、テントを張れない、張ると犯罪になる場所があるってエビドリアンさんに聞いたんだけど…」
「あぁー私有地とかだね。テントを張ろうとすると警告が出るよ。”私有地だけどいいのか?”みたいに」
「警告?」
「そう。そのまま無視して設置しちゃうことも出来るけど、衛兵に見つかると罰金取られるよーハラ立つけどね」
経験あり、みたいな言い方だな。
それにしても警告て…。またゲーム感が消えてないとこが出てきたな。手抜き?
(やかましいわ。便利なものはそのまま使用しておるだけじゃ)
なるほど、モノは言いようってやつですね。
(なんじゃ、文句でもあるのか?)
いえー別にないです!
「ボクはグライダーとか何かないか調べてくるから、シルビアは着替えてていいよー」
「ありがと」
テントの中でラフな服に着替える。
いくら軽装とは言え、鎧で寝たくないし。
(体を痛めるのじゃ。ただでさえ、くっしょんもないのに)
……それはあれか?胸のこと言ってますか?
(さてのー?)
同類のくせに…。
(あぁ?なんじゃと!?)
ふんだっ!




