新しいアイテム
ふと目が覚めると、寝ぼけた意識の視界にきれいな顔が飛び込んでくる。
すーすーと寝息を立ててる寝顔は本当に可愛らしい。 この子、まつげ長っ…。
これで男の子とか…。
…昨日吸血鬼相手に初めての死を経験して、その後またすぐに吸血鬼退治をして…、落ち着かなかった私を心配してくれたリールーと一緒に寝たんだ。
いや…待って。私男の子と添い寝したの?
(昨晩はお楽しみじゃったの?)
誤解を招きそうな言い方しないでください!
(初めての痛みも経験したじゃろ)
噛みつかれただけだけどね!
(つまらんのう)
ロリ神様の暇つぶしで一線越えてたまるか!
「んんっ…しるびあ…?」
声まで可愛いのは反則でしょう!
「お、おはよう…」
「おはよー…」
待って待って! くっつかないでー! ”ピロンピロンピロン”
いいねがうるせーですよ! こちとら貞操の危機なのに!
(よいではないか〜よいではないか〜)
よくない! こういうのは順序があるの!
リールーは朝が弱いのか、寝ぼけて私に抱きついて、そのまま寝息を立て始めた。
二度寝かよっ! こちとらドキドキしてるのに!
(シルビアよ、我の話を覚えておるか?)
え?今それどころじゃ…
(生娘でもあるまいし落ち着くのじゃ)
生娘だわ! 乙女だわ!
(どうでも良いのじゃ。それよりもじゃ、起きたらその街の東門から出るんじゃぞ)
どうでも良くはない!! はっ、え?やっと街に来たのにもう?
(いいものがあると言うたじゃろ)
あーなんか言ってた!
じゃあ、リールーを起こさないと。
「リールー起きて。リールー!」
「やーまだ眠い…」
力強っ。それはいいけど抱きつかないで…。
あっ…コラ! そこはだめーーーーー! ”ピロンピロンピロン…”
いいねしてる場合かー!
「シルビア酷い…暴力女」
ほっぺをさすりながらうらめしそうに私を見るリールー。
確かにひっぱたいたけど、悪いの私じゃないよね?
「リールーが寝ぼけて触るから!」
「いいじゃんーシルビアはもうボクのなんだし」
「そうだとしても、まだそこまで許してない!」
「否定はしないんだ?」
「うっ…」
実際リールーといるのは楽しい。それに美形なのは好みだし…。
「東門へでるんだっけ?」
「そう。何かいいことがあるみたい」
「何それ…昨日もだけどシルビアって時々変なこと言うよね」
「か、神様のお告げだから」
「…ふ〜ん。まぁいいけど」
リールーが深く追求しないでくれるから助かってるけど、いつまでごまかせるのか…。
東門の衛兵にまた”犬を見たか?”って絡まれて、リールーがキレてた。
それで思い出したんだよ。 これ、神様関連のクエストだったはず。統合されてどうなったんだろ?
(銭神のクエストになっとるぞ)
そうなんだ。でもとりあえず今はいいや。リールーがキレるし。
気持ちはわからなくもない。避けてるのにわざわざ寄ってきて絡んでくるんだもん。
(仕様じゃからな。門を抜けたら突き当りまで進むのじゃ)
はーい。
坂を登り、突き当りというか三叉路に近づいた時だ。
「あーーーーーーーーー」
なに!?叫び声?
「うわっ、まずいっ!!
リールーはそう叫ぶと魔法の詠唱をして、何やらサークルが発生したと思ったらそこに人が落ちてきた。
思わず目を閉じたけど、人が叩きつけられる様な嫌な音はしない。
そっと目を開けるとサークルの中におじさんが倒れてた。
「ぎりぎり間に合った…」
「リールー、何したの?」
「上から人が降ってきたんだよ。あわてて落下ダメージ無効の魔法を使ったの」
「ならその人は?」
「生きてるよ。ショックで気絶してるだけ」
「そっか…でも何で落ちてきたんだろ」
目の前は切り立った岩山。まさかその上から?
「多分それ」
リールーの指差す先には、木のフレームに布が貼り付けられた変なものが…。
「何だろうこれ…」
「さぁ?目を覚ましたら聞いてみればいいんじゃない?」
待つこと数分。
目を覚ましたおじさんに事情を聞いた。
どうやらこれはグライダーと言うらしく、行商人から買った図面を元におじさんが作ったらしい。
「これを使えば、大きな鳥の様に空を滑空できる。はずだったんだが、固定の紐をケチったせいで壊れてな」
よく未完成品に命預けたなこの人。
どうやらおじさんも落下した事で懲りたみたい。
やたら興味を示したリールーに、命の恩人だから。と、情報を渡してパルクルールの街へ帰っていった。
「リールーまさかと思うけど…」
「ボクはこれで空を飛ぶよ!」
「目の前で死にかけた人を見たのに?」
「ちゃんとプロの作った正規品もあるみたいだし、それを手に入れよう」
なんかリールーすごい楽しそうだな。こういう姿は男の子なのかもしれない。
(上手く使えば移動は楽になるし手に入れるとよいのじゃ)
不安しかないんだけど…。というかいいものってまさかこれ?
(そうじゃぞ)
大丈夫かな。あんな落下を見た後では不安しかない。
「シルビア、どうする?」
「どうするって?」
「だからー、このグライダーを手に入れたいんだけど、山を登るか、ブラックランの領主邸にいくか」
「何でそんな話に?」
リールーが言うには、近場で手に入れやすいのがそこらしい。
でも山って…目の前のこの岩山?
「寒さ対策もしてないのに山には行けないよ」
「だよねー。じゃあその準備も兼ねてブラックランへ戻ろう!」
楽しそうなリールーを止めるのも憚られて、ブラックランへ戻ることになった。




