戦神
明くる日、エルクスレイヤーさんを鍛冶屋ワルキューレに案内して、エビドリアンさんに受け取り票も渡す。
後は自分でなんとかしてください。因みにエビドリアンさんも人妻ですからね。
今日は一度、戦神様の石像へお祈りしに行く。
ある程度のポイントは溜まってるはずだし。
ここ最近は”いいね”の音やハートが飛んでくるのも当たり前になって気にならなくなってる。
(約束覚えておるか?)
はい。ベリータルトですよね。
(うむ! 楽しみなのじゃ)
「焼き立てのパンはいかが?」
いつもお供えを買う食品店の女性。娘さんが一人いて、時々お手伝いしてた。
大体は街中を走り回ってるけど。小さい子だし遊びたいよね。
「おはよう。今日は早いのね?」
「おはようございます。ベリータルトありますか?」
「あるわよー。今日も3つ?」
「いえ、4つお願いします」
「わかったわ。いつもありがとね」
「こちらこそ」
商品を受け取り、まずは聖堂へ。
今日も槍を背負ったお姉さんが治癒師として忙しくしてる。
ただ、今日はいつもより忙しそう。患者さんが多い。
(戦士ギルドのやつらじゃな。職業柄怪我は絶えんじゃろ)
戦うのがお仕事だものね。ただなぁ…あの人達って確か人狼だよね?
(じゃな…知らぬふりをしておけよ。面倒なことになるからな)
わかってます。
いつも通り、三人分お供えしてお祈り。
(待っておったのじゃー)
(ん…私もこれ好き)
(たしかに美味しいわよね)
ちゃんと届いたみたい。
(俺のは!?)
誰!?
(戦神じゃ)
そうなんだ。初めて声が聞こえた。 ごめんなさい、戦神様のは御本人の石像に持っていくつもりでいたので…。
(そういう事か! ならそれでいいぞ)
待たせてしまうのも申し訳ないので、急いで聖堂を出て戦神様の石像へ向かう。
障害があるとすれば、やかましく演説してるおっさん。
絡まれないといいけど…。
「やっと来たか!」
はい、無理でした。
「すみません、お祈りとお供えしたいので…」
「そうか! いい心掛けだな!」
邪魔はしないでくれるのならありがたい。
統合されて色々改変されてるのに、この人は変わらないのなんとかなんないのかな。
(面白いから放置じゃ)
そうですか…。
(そやつの近くにあるレバーは絶対に触るなよ。絶対じゃからな?)
そんなに言われたら触れって事だと思っちゃうけど?
(大惨事になるのじゃ…)
…やめとこ。
見上げるほどに大きな石像は、見慣れた髭面の男の人ではなく、ムチムチのビキニアーマー装備の、いかにも姉御って感じだった。ケモっ娘かよ…耳としっぽついてるし。
お供えして祈る。
(おー! これがお供えをもらうってやつか! んっ…甘ったるいな…俺は肉のがいいぞ…)
(貰っておいて文句言うやつがあるか!)
ごめんなさい! 今度からそうします…。
(そうしてくれ! 肉こそ力だ!)
(脳筋めが。ほれ、ちゃんとスキルをくれてやれ)
(お、そうだな。 弓と片手、軽装か。お前もっとでかい武器でドカーン! といけよ!)
私そんな力ないから無理です…。
(んー確かにひょろっこくて軟弱だな! さすがアリエル様の眷属だ。ワハハハハ!)
(黙れ馬鹿者が! こやつに戦闘系を全て統合したのは失敗したかの…今からでも力を分けるか?)
(待て待て! わかった、ちゃんとやる! よし、お前の扱いやすいように割り振っておいたから見てみろ!)
えっ?はい…ありがとうございます。
魔導書を確認すると、弓の威力や射程、構える速度、中でも一番便利そうなのはイーグルアイっていうズーム。
軽装は防御力の底上げ。
片手剣も、攻撃力に補正がかかるようになった。
(それなら軟弱なお前でも一端に戦えるだろ! 頑張れよ)
はい。ありがとうございます。
(暑苦しいやつじゃ…)
でも貰えたのは本当にありがたいスキルばかりでしたよ。
(それはそうじゃろ。そういうものじゃし)
見も蓋もないな。 戦神様はお名前を聞く暇さえなかったなぁ。もう声も聞こえない。
(タリエルじゃ、忘れてしまっていいぞ)
そういうわけにも行きませんよ。お世話になってますし。
演説がうるさいので移動する。また絡まれたらやだし。
(今日はどうするんじゃ?)
まだ決めてません。ただ…
(うん?なんじゃ、いうてみよ)
これ以上の遠出や、ダンジョンとかに行くとしたら一人じゃ不安だなぁと思いまして。
(男か!)
いえ、どちらかと言うと女友達がいいです。
(つまらんのぉ。まぁ、同性カップルも認められておるから好きにしたらいいのじゃ)
だからそういうのじゃないですって!
(仲間か…お前が回復や弓での遠距離が主体なら前衛を探すのがいいじゃろうな)
そうですね。それなら戦闘が楽になりそうです。
(そういう事なら宿屋へ行くんじゃ)
ブラックランの?
(うむ、冒険者やらが集まるから、誰かおるじゃろ)
確かに。入ったことないし、行ってみてもいいかも。
それにあの人もいるかもしれないし。
(ん?誰じゃ?)
ほら、セナさん達がいたならいるでしょ?
(あやつなら勇者に紹介された仲間を引き連れてあちこち旅してまわっておるからおらんぞ)
それは残念。
(まぁ誰かおるじゃろうて)
ですね。
井戸で水筒を満たして、宿屋へ。
”宿屋セントバーナード”
犬!?
宿屋へ入るとかなり賑わってて、吟遊詩人が独特の歌を歌ってる。
(勇者を称える歌じゃな)
へぇー。歌にまでなるとかさすがー。
それよりも、仲間になってくれそうな人居ないかな…。
「何しに来たの?お泊り?」
声のした方を見ると、全身ゴスロリ姿の女の子。ロアフレンドリーじゃねぇですね…。
(お前もそうじゃろうが…)
確かに。でもくれたのはロリ神様ですけどね。
(元々の革鎧とか着たいのか?)
嫌ですけど…。
「泊まるの?それとも食事?」
「あ、ごめんね。どっちも違う。旅仲間を探してて…」
「ふーん…ボクで良ければ仲間になってもいいよ?」
「うん?」
詳しく話を聞いてみたところ、王都から猫キャラバンにくっついて、ここ迄来たけど、路銀が尽きてこの宿屋でバイトしつつ、また旅をするお金を貯めていたらしい。
「一人だと出来る事も限られるからボクも仲間がほしい。こう見えて両手剣使いだから前衛なら任せて!」
私と背格好もそんなに変わらないのに凄いな。
前衛なら願ったり叶ったりだけど、この子の事を何も知らないからちょっと不安。
(大丈夫じゃ。我が保証する!)
ロリ神様がそう言うなら…。
「私はシルビア。まずはしばらく組んでみようか?相性とかもあるし」
「ほんと!?ボクはリールー。よろしくね」
「よろしく」
「今日はここでのお仕事があるから、明日の朝、広場で待ち合わせしよ?」
「わかった。じゃあ明日ね」
仲間の目処もたったし、今日は近場の依頼をこなすくらいにしておこう。
依頼掲示板にはもう手頃なのは残ってなかった。
もうお昼近いもんね。仕方ないか…。
後は…聖堂で治癒師のお手伝い{緊急}
治癒かぁ…一通り使えるけど、まだ他人に使ったことが無いんだけど…。
(大丈夫じゃ。なんせ”かんすと”しておるし)
じゃあ緊急みたいだし、これにしよう。




