新しい世界
私だって世界を作って管理くらい出来るんだから!
みんなで私をバカにして…。
末っ子の私にはまだ世界の管理は早い、大人しく姉上の手伝いをしてろって次女〜四女の姉達に笑われて、腹が立って神界を飛び出してきた。のはいいんだけど…どこから始めよう。
悔しいけど、姉上の管理する世界にヒントを探しに行くしかないか…。
科学が発展し、便利だけどモノが溢れてごちゃごちゃとした世界。
私はこんな世界にはしたくないなぁ…。管理が大変そう。
他の姉上達の世界は見せてくれないから知らないし…。
フラフラしてたらなんとなく気になる会話が聞こえてきた。
「見て見てーこの実況面白いんだって!」
「えー?そのゲームかなり古くない?」
「そう思うじゃん?だけど、今でもMODとかで色々と進化してて、別物みたいになってるんだって」
「あんた、本当にそういうファンタジー物好きよね」
「夢があるじゃない! こことは違う、見たことの無い…そんな世界って憧れるでしょ?」
「はいはい。中二病拗らせてるわね。年齢考えなさいよ…」
「いいの! 夢はいくつになったって持ってて悪いものじゃないんだから!」
「あんたのは、夢じゃなくて幻想とか願望でしょ!」
「なんとでも言えばいいよ! ボーナスつぎ込んで買ったパソコンも届いたし、私もこのゲームでMODデビューするんだから!」
「私との約束は!?」
「そっちもちゃんと手伝うよー。夏の戦場に向けてだっけ?」
「そうよ! 残りひと月しかないんだから。あんたは絵もうまいから期待してる!」
「はいはい。でも戦場には行かないからね」
「喋らなきゃ見た目はいいから、売り子してほしいけど…仕方ないわね」
「ひどいこと言われた気がするー」
「気のせい」
ふむ。ファンタジー世界か。この世界のアニメにあったから知ってる。
私も作るならそういう世界がいいかな。
剣と魔法、血湧き肉踊る戦い…。
よし、あの子から情報をもらおう。
家に帰る後ろをついていく。
「楽しみだなぁ。何を追加しよう…かわいい服は必須だよね。あとはNPCの美化でしょ…それからー」
一人暮らしなのか、自宅に入っても室内は真っ暗。
「夜ご飯は…あまりお腹空いてないしいっか!」
照明をつけると、部屋には巨大なモニターとパソコン。
壁には大きな本棚。違う棚には、ファンタジーそのものって感じのフィギュアが並べられている。
「パソコンの初期設定もして、ゲームのダウンロードも終わってる! 後はお楽しみのMOD!」
独り言の多い子だなぁ…。ゲームはわかるけどMODってなんだろ?
まぁいっか。しばらくこの子に張り付いておこう。
姉上の管理するこの世界はいつも見ていたし、勝手はわかる。
カチカチとマウスを操作してなにやらダウンロードするっていう作業を繰り返してる。
そんなことを何度もして、ようやくゲームを始める気になったらしい。
「あれ…?」
コントローラーを握って固まる。
なに?早くファンタジー世界見せてほしいんだけど!
「ゲームが起動しない…MODの導入失敗したかな…」
何してるんだこの子…。しばらく掛かりそうだし、この子の事を調べてみるか。
本棚にはファンタジー世界で冒険する、そんな本ばかりが並ぶ。
ゲームもパッケージを見る限り、同じような冒険ものばかり。
本当に好きなんだ…。
確かにこんな窮屈な世界に生きてたら、憧れる気持ちもわかる。
だから私もこことは違う、そういう世界を作りたい訳だし。
この子とは気が合いそう。
よし、決めた! 私の世界が完成したら、絶対この子を呼ぶ。
(アリエル、なにしてるのー?)
(姉上…)
(世界を作るーとかいってなかったー?)
(うん、だから今勉強してる所)
(私の世界でー?)
(いいでしょ! ヒントくらい)
(いいよー。応援してるからー。 みんなは笑ってたけどーアリエルならきっと大丈夫ー)
(姉上…)
たしかにオリエル姉様だけは私の事を笑わなかった。笑ってる他の姉上を止めてもくれなかったけど…。
(でもーなんでこの子を見てるのー?)
(それは…姉上にも内緒です)
(そう…世界ができたら教えてねー。なにかプレゼントくらいあげるわー)
(本当?)
(うん。なんでもいいわよー)
(今なんでもって言った?)
(うんー女神に二言わないわよー)
よしっ!
それから私はずっとこの子が気になって、姉上の手伝いの合間を使い、何度も見に来た。
好きなことに関しては勉強熱心なようで、1週間ほどかかったけど、ようやくゲームが起動した。
「やったー! これで私もファンタジー世界に…ふふっ…」
”ピリリリリ”
「はーい。どしたー?」
”どしたー?じゃないわよ! 早く手伝って! 約束でしょう”
「あぁー。わかったよ、今から行くね」
”早くしてね、本当にもうヤバいから!”
「同じマンションなんだからすぐに行くって」
スマホで呼び出されて、パソコンはそのままに、でかけてしまった。
色々抜けてる子だなぁ。
ちょうどいいや。ゲームくらい私にもできるし。
プレイするというよりはデータの中に入り込むんだけどね。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
なにこれ…面白い。
自由度が高いのも気に入った!
そうだ…この世界をまるまる再現してしまおう!
そのままだと姉上に叱られそうだから、ちょこちょこと手を入れればいい。
後は私の手足となる、小間使いの神々を作ればいい。
よし思い立ったら即実行だ!
こうして私は新しい世界を創り上げた。
問題は…手足となる神々を作るには一人ではできないって事。方法も知らない。
仕方ない、姉上に聞いてみよう。
(姉上ー)
(どうしたのー?)
(手下を増やしたい!)
(うん?)
(だから、手足となって働く、私より格の低い神を作りたいの)
(まぁ…アリエルもお年頃ね?)
(何が!?)
(いいわ、私が相手してあげる)
そう言うと姉上は兄上に…は?
(さぁ、頑張るわよー)
男の姿で姉上の口調のままなの気持ち悪い…。
(え…ちょっと姉上?)
(私に任せなさいー)
(あーっーーーーー)
ーーーーーー
ーーーー
ーー
姉上ヤバい…。
何がヤバいって、”てくにっく”がヤバい。
癖になる…。
おかげで手下とも言うべき神は増やすことができた。
後は役割を与えて、自我も持たせる。
ただなぁ…この世界、このままだとあのバカドラゴンに滅ぼされちゃうんだよなぁ…。
どうしたものか。
こういう時はあの子のところへ行くか!
「やっと…やっとできた! 理想の美少女キャラ! ン時間かかっけど、後悔はしてない! 私はこの子と旅に出る…んだ…zzz」
またゲームつけたままだよこの子。
戦場とやらの準備は終わったらしいけど、そのせいか疲れ果ててるのに、よくゲームやってるなぁ。
まぁいいや。今のうちに…。
本棚から何冊か気になった本を取り出す。
ふむ…異世界召喚か。
偶々手にとったのは、世界の危機に異世界から勇者を召喚し、ちーと能力とやらをもった勇者がその力で世界を救う。そんなお話。
これだ! 姉上の世界から勇者を呼んじゃえ。
そう軽い気持ちで呼んだんだけど、とんでもないのが来た。
姉上の世界怖い…。こんなのがゴロゴロいるの?
いや、こんなヤバいの見たことないよ。この二人だけが特別?
「あーまた呼ばれたよ」
「だなぁ。今度はなんだ?魔王か?魔神か?」
「と言うか、僕らを呼んだの誰?」
「初めてだよな、誰もいないの」
「うん…」
行かなきゃ…でももし攻撃されたら私でもヤバい。この子達マジでヤバい。
だからといって行かないわけにもいかない。えぇい女神は度胸だ!
「あのー呼んだの私…」
「おっ、いたいた。 俺たちは何を倒したらいいんだ?」
「えっ…?」
「いや、僕達を呼ぶって事は世界の危機とか、倒してほしい驚異がいるんだよね?」
「まさか…用もなく呼んだのか?あぁ?」
「ちがっ…ドラゴン! そう、ドラゴンを倒してほしいの。このままだと世界が…」
「そういう事か。わかった、任せとけ! だよな?ユウキ」
「うん、僕と兄ちゃんに任せて」
強すぎて怖いけど、気のいい二人は私の作った、まだ不完全な世界を冒険し1年ほどで問題のドラゴンも倒してくれた。
二人のおかげで新たな神も生まれる事となった。
今回は何故か姉上の手を借りずに…だけど。別に残念とか思ってないし!
役目の終えた勇者は元の世界へ帰る。これは変えられない。
姉上の世界から借りてるだけだから仕方ないんだけど、残ってくれたら安心なのにって思ってしまう。
「ところで、アンタは結局誰だったんだ?」
「私がこの世界を作ったんだよ」
「マジかよ。全然らしくねぇじゃん」
「兄ちゃん失礼だよ」
「…どうしたらそれっぽいの?」
「さぁ。そんなの知らねーよ。口調とか変えればいいんじゃね?」
「確かに一理あるけど…。 あまり真に受けないでね。兄ちゃん適当だから」
「わかったのじゃ! これでよいかの?」
「のじゃロリかよ…」
「いいじゃん、なんか可愛いし」
「まぁ、そうだな」
可愛い…?私が?初めて言われた。
「じゃあ、もう会うこともないだろうけど、頑張れよー。 早く帰ってうまいもの食いてぇ…」
「確かに…醤油が恋しい」
そんなことを言いつつ私…いや、我の作った世界を救ってくれた勇者は魔法陣と共に姉上の世界へと帰っていった。
(へぇー良くできてるじゃないー)
(姉上?まさか見てたのじゃ?)
(まぁねーうちの子たちを呼んだら気がつくわよー)
(勝手にゴメンなのじゃ…)
(別にいいよー。すごいでしょあの子達)
(何者なのじゃ?)
(ひみつ。私のお気に入りー)
(そうなのじゃな…)
(話し方変よー?)
(まだ慣れてないから…)
(ふーん。いいけどー。それでープレゼントは何がほしいー?)
(あの子! 私がよく見てたあの子がほしい! のじゃ…)
(まさかの人かぁー。いいよー)
(本当か?なのじゃ)
(ただしー条件があるよー)
(…言ってみてなのじゃ)
(そちらへ完全に渡してしまうって言うなら、こちらの記憶は封印しなきゃいけないのー)
(そんな…可哀想。なのじゃ…)
(文明レベルが違いすぎるからねーあの子がパニックにならない為よー)
(そういう事ならわかったのじゃ)
(後は大切にしてあげてー。私の子みたいなものだからねー)
(それは約束するのじゃ!)
(じゃあ、はい! こっちでの辻褄合わせはやっておくからー)
(ありがとう、姉上)
(語尾戻ってるわよー)
(のじゃ…)
姉上に大切にするって約束した。
この子だけは…絶対に私が護る。のじゃ!




