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終章 ビリジャンパー

 翌日、繁華街で大勢の中高生が暴力事件を起こしたことは大きなニュースになった。


 犯人たちが未成年だったこともあり、名前は明かされることはなく、傷害や器物破損といった罪状だけが報道された。

 俺も朝の情報番組でその一部始終を観ていたが、核心めいたことには何一つ触れられていない。


 何も知らない人間が観れば、多分、街中で馬鹿やった子どもがたくさんいた。くらいの印象だろう。


 横島の存在や、ビリジャンパーについても、一度も名前が出ることはなかった。

 それは本当に誰も気づいていないからなのか。

 それとも、もっと大きな力を持つ何かによってなかったことにされたのか。


 俺にそのことを確かめる術はない。

 知ったところで、何ができるわけでもないしな。


 一応、学校生活にも大きな支障はなかった。

 街の方をブラブラしていた奴が巻き込まれたような話はちらほら聞いたが、けが人はなし。

 朝のホームルームで担任が簡単な注意をしただけに留まった。


 拍子抜けするくらい何事もなく、俺の日常が戻ってきたことになる。

 まあ、変わったことがないわけじゃないんだが。


「ねえ、双葉くん! また出たんだって、ビリジャンパー!」

「……へー、毎日毎日、大変だな。緑の奴も」

「だよねえ、どんだけ悪者がいるんだろ、この街」

「ほんとになあ」


 教室で中野さんに話しかけられ、俺は肩をすくめる。


 横島の事件以降も、俺は夜中の街を跳ねまわって、目に余る悪さをしているやつを懲らしめ続けている。

 当然、噂も広まり続けているのが現状だ。

 ビリジャンパーをはじめ、カエル男だのバッタ男だの、実は河童なのではないかという話も出ていて、非常にやかましい。


 しかも街に出れば毎日、何かしら起こるのだ。

 本当にこの街はどうなってるんだよと、うんざりしてしまう。


「でもさ、悪い人が多くても、ビリジャンパーみたいないい人がいるなら安心だね」


 のほほんと、俺の苦労も知らず言う中野さん。

 俺はちょっとばかり意地悪な気持ちが沸き上がるのを抑えられなかった。


 にやりと笑って、声を落とす。


「本当はただチンピラを痛めつけて暴れたいだけの、乱暴な奴かもよ?」

「うん、そうなのかも。でもね」


 俺のしょうもない揺さぶりに対して、中野さんは不安そうな顔を見せなかった。


「私は良い人だって、信じたいな」


 そして、なぜか屈託のない笑顔を俺に向けてくる。


「だってその方が、みんな嬉しいよ」

「……そうですか」


 何で俺の方を見て、にこにこ笑うんだよ。

 悪かったよ、俺の負けだよ。


 俺は何もありません。関係ないです。という表情を装って、中野さんから目をそらし、手で口元を隠す。


 自分が良い奴だと信じてくれる人もいる。

 そう思ってにやけるのを見られたら、まずい気がしたからだ。



 日が暮れたら、宿題とコスチュームを詰め込んだリュックサックを背負って赤江宅を出る。

 それが俺の日課になりつつあった。


 人気がない路地からビルやマンションの屋上まで登って、着替える。

 着替えたら、その場で宿題をして時間を潰す。

 うっかり素顔を見られるとまずいので、ゴーグルはかけたままだ。


 これがなかなか見づらくて面倒だったりする。

 今度赤江に相談して、何とかしてもらおう。


「今日は、何も起こらないといいんだがなあ」


 俺は宿題を解く手を止めて、街を見下ろす。

 夜の闇が降りきった繁華街には煌々と明かりが灯り、人々が思い思いに口にする言葉が雑踏を生み出していた。

 耳をすませば、乱暴で下品な言葉が紛れているのがわかる。


 本当に、どうしようもない街だ。ここは。


 まだまだこの街には問題が山積みで、赤江が言うにはネクストアースの「研究」とやらも続いているのだそうだ。

 頭の悪い俺には、どうすればいいのかわからない。

 まあ、赤江が何かしら考えているだろうから、俺は言われた通り体を動かせばいいのだと、割り切っておこう。


「…………きたか」


 ぶるぶるっと、コスチュームの上着に突っ込んでいたスマートフォンが震えるのを感じた。

 赤江からの着信だ。

 こうやって街に出てる時にかかってくる電話は、絶対に悪いことが起こったことを知らせる内容なのだ。


 街中を走り回ってる黒森さんが、何か見つけてくれたのだろう。

 あの人も大変だな。


「どうした、またチンピラの喧嘩か?」

『いいや、スゴロクン。今日はちょっと変わった事件だぞ。いつもより、大変なことがありそうだ』

「なんだよ、それ」

『さっき黒森から連絡があった。なんでも裏路地の方で「赤い目」を名乗ってる連中が暴れてるんだそうだ』

「おい、つまり……」

『横島ではないと思う。奴に使った薬の効果が抜け切るには、まだ少し早い。用心深いあいつが、万全ではない状態で騒ぎを起こすとは考えにくい。先日の一件に便乗した輩か、それとも本当に赤目の残党なのか、確認しに行ってくれ』

「まだ、宿題が片付いてないんだけどなあ」

『すまんな。後でいくらでも、優しく教えてやるぞ?』

「宿題は自分でやりなさいって、お前の父ちゃんに教わったんだよ」


 あと、優しく教えるのはお前には無理だ。

 言わないけど。


『そうか。殊勝な心がけだが、いつでも頼ってくれ。ああ、それとな、その連中と一緒に赤い髪の女も暴れているらしいから、気を付けてくれ』

「……マジかよ」

『残念ながら、マジだ。頑張れよ、私のヒーロー君』


 うるせえ。

 何がヒーローだ。俺は通話を切って、立ち上がった。

 今日もまた、色々あって、しんどい夜になりそうだ。


「明日も寝不足なんだろなあ」


 全身に軽く力を込め、肌の色を変える。

 もう、見慣れてしまった緑色。

 俺の日常と、過酷な非日常が切り替わるサイン。

 本当はやりたくない。面倒くさい。

 だけど、ただ、何となく続けているわけでもない。


 悩んだ時は、つらい道に進め。

 それが正しい選択だと、俺は教わったから。

 俺が今進んでいる道は、色々な呼び方をされているらしい。

 その中で、一つ選ぶとするなら、だ。


 ビリジャンパー。

 友だちにつけてもらったこの名前が一番気に入ってる。


「さあてと、ぱぱっと終わらせて帰るからな!」


 俺は叫んで、ビルの屋上から高く、遠くを目指して跳ね上がった。

 これにて、双葉六平ことスゴロクンのお話は一先ず幕引きとなります。

 ここまで読んでくださった皆様方、本当にありがとうございました!


 なんとなくお気づきの方もいらっしゃっただろうと思いますが、この『ビリジャンパー』は、私が書き上げた初めての長編小説になります。

 改めて編集していて思ったのは、まあ、なんといっても文が荒い。

 そして、お話の構成が雑!

 ですが、スゴロクンの主人公像というのは私自身、とても思い入れのあるものでした。

 その後の様子を描くことはなかったのですが、彼はこれからいろんなことを経験し、一人前の大人になっていきます。

 いつか続きを書けたらな、とも思っていますが、どうなんでしょうね。


 なにはともあれ、この拙い作品に目を通してくださったことには感謝感激でございます。

 ほんの少しでも皆様の暇つぶしになるよう、今後も頑張っていきます。

 なにとぞ、よろしくお願いいたします。

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