4話 小さなトモダチ
そのペットショップは個人経営の小動物専門のお店で、年季の入った外装に比べると内装はまあまあ小洒落ている。
それはさておき、僕は店の中にいる可愛い小動物たちをにやにやして順に眺めていった。もしこの子たちが人間の少年少女だったら即座に通報されそうな顔をしていたが、僕は小動物のような小さくて可愛らしい存在がかなり好きなので、これは仕方のない事なのだ。うん。
インコやカメ、金魚などの観賞魚まで売っている事に驚きつつ順に見ていくうちに、気づけばほとんど見終わっていた。あとはハムスターの区画だけなんだけど……
そこは他の動物たちの区画と違い、がらんとしていた。おそらくハムスターは人気なので、皆売り切れてしまったのだろう。何個か空のケージが置いてあるが、店員さんが片付けていっている。
「皆売れちゃったのか。残念だ」
そう言い残して区画を後にしようとしたその時、一つだけ全く手の付けられていないケージが目に入った。
「あれ、あのケージは片付けないのかな…」
そう思い、そのケージの中を覗いてみると…
突然山盛りに積み上げられた床材に穴が空き、そこからピンク色の鼻が覗いたのである。よく観察してみるとその鼻は小刻みに震えており、外をかなり警戒しているようだった。僕は試しにちっちっと舌を鳴らして読んでみるが、ハムスターはびっくりしたのかすぐに鼻を引っ込めて隠れてしまった。
「ビビりだな…。だから君は売れ残ってしまったのか…」
僕はそのハムスターを可哀そうに思ったが、同時に親近感を覚えた。
「この子も僕と同じ、人と接するのが苦手なんだ」
このまま誰にも貰われなければ、このハムスターはいずれ廃棄処分となってしまうだろう…。まるで僕と同じ人生を歩んでいるようじゃないか! もしこのまま人付き合いを改善できなければ僕だって就職に失敗して社会から廃棄処分されるだろう…
「君を助けたい…!」
僕はこの時、何か心の奥につかえていたものが消えたような気がした。
「そうだ……。まずこの子と友達になろう!」
僕は約10年以上続いた絶望的なまでの友達作りへの道のりに、一筋の光が差したような気がした。将来僕の一番の親友となるべきこの子のためを思うと、なんだか力が湧いてくる。今なら言える気がする!
僕は近くでケージの片づけをしていたおじさん店員に近づき……
「…あ……あの! ……こ、この子を……ください……」
絶望的なほどどもった。声もめっちゃ小さいし、伝わったかな…。もうこれ以上は何も喋れない…。
『すみません、よく聞き取れませんでした』なんて言われてしまったらおしまいだ…とか、緊張で何倍にも加速した思考の中で弱音を吐いていると…
「分かりました。用意しますので少しお待ちください。」
と、おじさん店員が、笑顔で対応してくれた。
「つ、伝わった! 話せたぞ!」
僕は心の中でガッツポーズをした。
ハムスターのケージや床材などをついでに買っていった僕は、いつもの帰り道に戻った。けれど、僕の右手の箱の中には心の拠り所となる存在がいる。
僕は箱の中にいる小さなトモダチに語りかけた。
「ようこそ、トモダチ研究会へ…。これからよろしくね」
追記:公太はもちろん両親を心の拠り所としていますが、マザコン・ファザコンではありません! この話でいう「心の拠り所」は友達としての心の拠り所を書いています。