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ゲームオーバー……のはずが?

「お願いだ、目を開けてくれ。カトリーナ!」


 名前を呼ばれて(まぶた)を上げると、大好きな人の顔が真上にあった。


「クロムしゃま? じゃあ、ここが天国なのね」

「カトリーナ!」


 最愛の人とそっくりな男性の息がかかり、(ほお)に温かな手が触れる。

 赤い瞳に見つめられ、私の胸は高鳴った。


 ―― 神様ったらやるわね! 死後の世界にも、最愛の人と同じ顔の天使がいるなんて。


「カトリーナ、気がついたのね」

「カトリーナ!」


 その他の声がする。


 ――な~んだ、二人っきりじゃないみたい。そこまで贅沢(ぜいたく)は言えないってこと? 


 クロム様似の天使との、貴重な時間を邪魔された。

 ムッとしながら顔を横に動かすと、ハーヴィーとルシウスが心配そうに見守っている。

 

 ――ここはまだ、城の大広間!?


「……え? え? 最後の薔薇(ばら)が散ったのに、どうして?」


 短剣が刺さったはずが、傷も綺麗に消えている。


「どういうこと? 私、まだ死んでないの? それならこれ、本物!?」


 クロム様のご尊顔が、さっきと同じ位置にある。

 私は今、もったいなくも彼のたくましい腕に支えられているようだ。


「わわっ、しゅき♡ ……じゃなくて、今すぐどきますので」


 焦って立ち上がろうと、床に手を置いた。


「ん? なんか柔らかい。これって……クロム様の太もも!? わわわ……」


 体勢を崩したものの、彼の手に支えられてどうにか立ち上がる。

 お礼を言おうと顔を上げた、その瞬間――。


「クロム様! もしかして、笑ってる!?」

 

 だって彼の口角が、わずかに上がっている!


 クロム様は私の唯一無二。

 その彼が、笑顔を見せていたのだ。


 私はポカンと口を開け、麗しいお顔をただただ見つめた。



「カトリーナが、無事で良かった」

「クロム、しゃま……うう、クロムしゃま……」


 感激して号泣する私を、彼がかき抱く。

 かすれた声と(さわ)やかな香りに包まれて、胸の鼓動が一気に加速する。

 片や私の頭は冷静で、『どさくさに紛れてしっかり抱きつきなさい』と指示を出す。


 両腕をそーっとクロム様の背に回す。

 …………が、いきなり後ろに引っ張られてしまう。


「カトリーナ、くっつきすぎだよ」

「ルシウス様!」


 ――何これ、何このお約束。ヒロインと暗殺者とのラブシーンはどこ?


 落胆する私のすぐ横で、ルシウスが口をへの字に曲げている。

 近くにいたハーヴィーも、同じように顔をしかめていた。


 クロム様は、私を見ながら苦笑中。


 ――そう、苦笑! 今度こそ、確実に笑っていらっしゃる!!


 この感動を、ぜひともスチルに収めたい。

 どうしてこの世界には、まだスマホがないのよっ!


 仕方がないので、心ゆくまで目に焼き付けよう。

 クロム様に近づこうとしたところ、兄のハーヴィーが後ろから私を抱き寄せる。


「カトリーナ。お前は私を、どれだけ心配させれば気が済むんだ」

「お兄様……?」


 かすれた声ではあるけれど、口調が男っぽい。

 慌てて反転してみると、兄のクラバットの飾りに私の瞳が映り込んだ。


 その中央には薔薇の花……じゃなくて、おしべとめしべ。花どころか花びらさえも残っていない。


 ――おかしいわ。ヒロインの瞳の花びらは、命を表していたわよね? 全ての薔薇が散ったのに、ゲームオーバーにならないって、どういうこと?


【薔薇の瞳】の能力を失ってもなお、しぶとく生きている私。


「なんで平気なのかしら」

「首飾りの宝石を、ダイヤモンドに変更していて良かったわ。恐らくそれが、(やいば)を弾いたのね」

「……え? これって、ガーネットじゃないの?」

「いいえ、ピンクダイヤモンドよ。あなたには、最高の輝きが相応(ふさわ)しいもの」


 なんと、ドレスとお(そろ)いの生地で作った首飾りが、短剣を防いだことになったようだ。

 確かにダイヤモンドなら硬度があるので、そこらの剣では歯が立たない。切れたはずの喉も、元通りになっている。


 それにしたって、大粒のダイヤを惜しげもなく貸し与える兄は、やはりシスコンの疑いがある。


「お兄様……」

「カトリーナ。とにかくあなたが無事で、良かったわ」


 ハーヴィーが私の頭に(ほお)をすり寄せた。

 

 それでも、やっぱりおかしい。

『バラミラ』では最後の薔薇が散ると、ゲームオーバーとなる。

 ヒロインは亡くなり、最初からスタートするはずだ。


 待って? ゲームオーバーと言えば――。


 その時、私の脳裏に前世の苦情が(よみがえ)る。

 それは『バラミラ』ファンが、SNSでぼやいていたものだ。


『カトリーナの命が、チュートリアルでなくなるのっておかしくない?』

『七つでゲームオーバーなら、花びらと同じ八つの命ってパッケージに書くのはダメでしょ』

『アクションゲームだと、最後のライフが消えても残り一つはあるのにね』


 みんなの言う通り、『バラミラ』はゲームの説明画面でヒロインの命を無駄に散らす。八つと表記されていながら、実際に命は七つ。そのため、制作会社に直接抗議した者もいるとかいないとか。


「まさか、知らないうちに修正された? それとも花びらは全部散ったけど、八つ目の命が残っているってこと!?」

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