表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/78

恐るべき事実

「あなたを――?」

「なんでもないわ」


 私は首を横に振る。

 好きだからこそ、打ち明けられない。


「あなたのおかげでセイボリー語を覚えられたから、給金を上乗せしてもらうわね。消えたお友達のことは、私に任せて。穏便(おんびん)に出られるようにする……」

「なるほど。急な帰国を迫られたことといい、()れ物にでも触れる扱いといい、王女を誘惑した疑いは晴れたはずなのに、おかしいと思っていた。もしかして、俺に面会を求めた者の失踪(しっそう)事件が関係しているのか?」


 私の手に触れ、身体を寄せるクロム様。

 至近距離から問われれば、嘘はつけない。


「ええ。兄はあなたを疑っている。訪ねて来た者の行方(ゆくえ)がたどれず、不審に思っているの。あなたが危険とも言っていて……」

「さすがは一国の王太子だ。笑顔の裏で察していたのか」


 彼はそう言って、口を皮肉っぽく(ゆが)めた。


「以前は確かにそうだった。だが、組織を脱退した俺に危険はない。俺はもう二度と、人を(あや)めないと誓った。身を護るために、仕方なく傷つけたことならあるが……」

「正当防衛?」

「ああ。友人と偽り俺に会いに来たのは、組織の追っ手だ。でも、殺してはいない。抵抗する気力がなくなるまで叩きのめしたが、人の気配を感じてその場を去った。その後の行方は把握(はあく)していない」

「だったらあなたは、三人の失踪とは無関係なのね?」

「そうだ」


 彼は続けて、かすれた声を出す。


「お前を知れば知るほど、暗殺者ではなくクロム個人として見てほしいと願うようになった。屈託(くったく)のない笑顔を向けてもらうには、これまでの生き方を改める必要がある。害を為す者であろうとも、命を奪えばお前が悲しむと考えた」


 赤い瞳に見つめられ、胸がときめく。

 これだと、まるで告白……って、うっとりしている場合じゃなかった。

  

「私のため?」

「ああ。そして自分のためでもある」


 足を洗ってくれて嬉しい。でもそのために、避けては通れない問題がある。

 

「追っ手が来るなら、あなたに危険はないの?」


 クロム様は首肯し、声を(ひそ)めた。


「恐らくは。組織もそこまで暇じゃない。(おきて)で『追っ手は七人まで』となっている」

「……え?」


 ゲームのクロム様はサブキャラなので、所属する組織について詳細に語られることはなかった。掟についても初耳だ。


「城を訪ねてきたのは三人だから、七人中三人。だったらあと四人で、あなたは自由になれるのね」

「いや、あと一人だ。山賊の中に一人、街中に(ひそ)んでいた時に二人、見知った顔と遭遇した。失敗すれば、追っ手であっても消されてしまう。同じ者が処分されずに襲ってくれば、話は別だが」

「まあ……。それなら、いなくなった三人は再びあなたの命を狙おうとして、どこかに(ひそ)んでいるかもしれないの?」

「そういうことになる」


 真顔で答えるクロム様。

 彼はさっき「追っ手を叩きのめした」と、口にした。


 けれど、怪我(けが)を負った三人もの男性が、誰にも見咎(みとが)められずに移動したり城に潜んだりするのは、可能だろうか? 他に仲間でもいれば、話は別だけど。


 ――ん? 仲間!?


 その瞬間、私は恐るべき事実に気がついた。


「ねえ、暗殺者だったあなたを、教師として推薦したのは誰? 私の暗殺に失敗したと、誰が組織に告げたの?」


 クロム様が眉間(みけん)(しわ)を寄せる。


「誰かは俺にもわからない。『キメラ』には、暗殺を()け負う実行役の他に連絡役がいる。各国に散らばる彼らは、任務遂行(すいこう)の手助けはしても、実行役との接触は禁止されている。俺がここにあっさり(もぐ)り込めたことからすると、連絡役は内部の人間、それも中枢(ちゅうすう)に近いところにいる人物だ」

「そんな!」


 またしても明かされた重要な情報に、私は戦慄(せんりつ)する。


「じゃあ、その人があなたの潜入の手筈(てはず)を整えて、王女の暗殺に失敗したと組織に告げて、さらには行方不明の追っ手を(かくま)っている可能性が高いのね?」

「そうなるな」


 クロム様が首肯する。

 彫刻のように整った横顔は麗しく、こんな時なのに目が吸い寄せられてしまう。


 やっぱり別れはつらいし、なんとかしてでも側にいたい。

 彼と離れずに済む方法は?


「わかったわ! 組織の連絡役と行方不明の人を探し出して、捕らえればいいのよ。この国で、あなたは何もしていない。だったら無実が証明されれば、ずっとここにいられるでしょう?」

「相手も警戒しているだろうから、そう簡単にはいかない」

「あら、そこまで難しくはないわ。連絡役になり得るのは、城内で人を(かくま)えるだけの部屋を与えられ、中枢に近いところにいて、人事に口出しできる者。それなら限定されるし、調べればわかりそう。手分けをして探しましょう!」


 名案だと立ち上がった私を、クロム様が引きとめる。


「組織に関わるのは危険だ。調査は俺がするから、カトリーナはおとなしくしていてくれ」

「でも……」

「一人の方が動きやすいし、身を護れる。組織の人間が王女の暗殺を諦めて、俺だけを狙っているという保証もない。カトリーナ、頼む」


 推しに頭を下げられたら、振り切るなんてできない。


「……わかったわ」


 渋々首を縦に振ったところで、部屋の扉が大きく開いた。


連絡役は誰かしら?

((`_´)←頭にきているカトリーナ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ