表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/78

過去の記憶

 帰国後。

 六歳になった私は、孤児院を訪ねることにした。


 前世で愛読していたファンブック。

 そのクロム様のページに『孤児』との記載があったから、彼への理解を深めよう、との考えからだ。


 王女の私は、ここでも歓迎されるものとばかり思っていた。


「俺達は見せものじゃない」

「自慢するなら帰ってよ」


 こちらの方が幼いせいか、子供達はみんな遠慮がない。


「これこれ、あなた達!」

「口を閉じなさい」


 職員達は(あせ)るが、彼らの言う通りだ。


 王女の私は護衛をぞろぞろ引き連れて、フリルやリボンの多い高価なドレスを(まと)っていたから。興味本位の見学か、身分をひけらかしに来たと思われても仕方がない。


「ごめんなさい……」


 慌てて謝り、下を向く。

 外見は子供でも中身は大人の私が、配慮するべきだったのに。


 もしかしたら私も、彼らに混じっていたかもしれない。

 王女に生まれ変われたのは、単に運が良かっただけ。


「それともこの転生には、何か意味があるのかしら?」




 城に戻った私は、毎日首を(ひね)った。


「『バラミラ』にハマッていたから? 亡くなったらみんな、ここに来るの?」


 いや、全員が転生しようものなら、この世は大渋滞。


「それなら王族として、民の役に立てということ? 国を豊かにするため心を(くだ)け、との天のご意思かしら?」


 もちろん推しのことは、つねに頭にある。


「どうすれば我が国を発展させつつ、推しを気持ちよくお迎えできるのかしら」


『散りゆく薔薇と君の未来』、通称『バラミラ』。

 このゲームの中で我がローズマリーは、芸術国としての地位を確立していた。


 けれど今の我が国は、のんびりした農業国。

 価値ある芸術品は数が少なく、歌劇や演劇といった娯楽もなく、祭りの際に旅芸人を招く程度。


 それは我が国だけでなく、隣国セイボリーや北のオレガノ帝国といった大陸全てに当てはまる。昔のヨーロッパに似たこの世界では、民衆のほとんどが楽しいことに飢えていた。


「やっぱり、ゲームに出てきた通りの芸術国にしなくちゃね。そうすればみんなも喜ぶし、クロム様だって……」


 オープニング曲の背景に偶然映り込んだ感じだが、私の推しは、美術館に飾られた一枚の絵に見入っていた。たとえ一瞬にしろ、あの背格好は本人だと断言できる。


「クロム様の心を奪ったのがどんな絵か、事前にわかれば苦労はしないのに」


 残念ながら、肝心(かんじん)の絵は映っていなかった。

 ファンブックにも()っていないので、わからない。


「とりあえず、自分の()すべきことはわかったわ。この国で、芸術を広めましょう。身分や年齢性別関係なく、誰もが楽しめるように」


 私は早速、父の国王に直談判。


「お父様、お願いがあるの。あのね、私、毎日お芝居(しばい)が観たい」

「そうか。じゃあ、城に人を呼んで演じてもらおう」

「いいえ。ここじゃなく、みんなにも観てもらえる場所がいい。そこに行けば、いつでも楽しめるような」


 おねだり作戦が功を奏し、王都に劇場を建設してもらうことに成功。

 それから幾日もしないうちに、再び機会が訪れる。


「カトリーナ、お前の七つの誕生日だが……。プレゼントは何がいい?」

「お父様、ありがとう! それなら私、たっくさんほしい。新しい絵や彫刻を立派な建物の中に展示して、多くの方に見てもらいたいの」


 続いて美術館。

 すでにあった絵画は似たり寄ったりの肖像画が主なので、『新しい』を特に強調する。かなり高い贈りものだが、娘に甘い国王は、我が国に芸術家達を招聘(しょうへい)してくれた。


 これには兄のハーヴィーも苦笑い。

 そこで私は、彼にもお願いする。


「お兄様のお知り合いで、芸術や文学を(たしな)む方はいらっしゃらない? もしいらっしゃるなら城にお招きして、お話をじっくり(うかが)いたいわ」


 いわゆるサロンというもので、芸術や文学の発展のため、自由に意見を交換したり創作したりする場を設けたい。


「それは構わないけど……。あなた、本当にカトリーナ?」


 もの柔らかな口調の兄が、びっくりしたのも無理はない。私の中身は九つ上の兄よりうんと年上だし、愛する推しも絡んでいるので真剣だ。


 公共の劇場や美術館があると楽しいし、芸術を見る目も養える。

 人材だって欠かせないから、貧しい民の就職先が確保できるかもしれない。


 そんなわけで私は、芸術と文化を学ぶとの名目で、時々サロンに顔を出す。美術や文学作品を創作してもらい、推進するため心を砕いた。


 こうした経緯もあって約二年前、私は我が国の芸術担当となったのだ。


 そこからは、自分の立場をフル活用。

 芸術の振興(しんこう)と発展に力を(そそ)ごうと美術品を収集し、国外の絵も当然確保する。

 予算で画材を購入したり、貴重な紙を我が国でも生産できるようにして、学院や孤児院に寄付したり。 

 子供や無名画家の絵を集めた展覧会を国内各地で開催し、画商にも積極的に推薦していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ