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攻略成功……?

 もちろん、自分が悪いとわかっている。

 心配そうなみんなに気づき、私は慌てて下を向く。


 ――いけない。推しにかまけている場合じゃなかったわ。ルシウス、タール、ハーヴィーの好感度を上げなければ、運命の日に間に合わない!


 彼らの好意が低ければ、私がクロム様に暗殺されてしまうのだ。

 推しにそんなことをさせないため、何より無事に生き延びるため、今日だけは推しへの想いを封印しよう。


 決意した私の手を、誰かが(つか)む。

 それはなんとルシウスで、指を絡めてしっかり握っている。


「えっと、ルシウス様?」

「カトリーナは危なっかしいから、僕が側にいてあげるね」

「ありが……」


 お礼を言いかけ、考える。


 ――これって、好感度が上がった証拠よね? 


 何度もプレイしたからこそ、よくわかる。

『バラミラ』は攻略対象がヒロインに好意を抱くと、別画面で棒グラフが上昇した。それに伴い、行動も積極的になっていく。


 だってこれ、恋人(つな)ぎだ!


 このままだと、ルシウスの好感度だけが上がってしまう。そうなると他がぐいぐい下がるので、最悪ゼロになってしまうかもしれない。


「ありがたいのですが、どうぞお構いなく」

「遠慮しないで。こうすれば、互いに友好も深められるしね」


 私は顔を引きつらせつつ、視線で兄に助けを求めた。

 するとハーヴィーはにっこり笑い、反対側の手を繋ぐ。


「えええー⁉」

「こうすれば、迷子にならないわよ」


 当然のように言われたけれど、私は街中で迷子になった覚えはない。

 頼みの(つな)のクラリスは、私達からさりげなく距離を取っている。


「じゃあ俺は、カトリーナ様の服でいいです」

「……は?」


 わけがわからず後ろを見ると、タールが私のスカート部分の生地を()まんでいる。


 右にルシウス左にハーヴィー、後ろにタール。

 この状況は『街中デート』どころか、連行される宇宙人……。


 好感度を(かせ)げたような気もするけれど、これだと非常に歩きにくい。


「おっと危ない。もう少し中を歩こうか。珍しいものがいろいろあって、楽しいね」

「ええ。私も久々に街に来たので、ワクワクしています」


 ルシウスは、私を人波から(かば)ってくれたり、出店の前で立ちどまってくれたり。


「カトリーナに、これをあげるわ」

「まあ、ありがとうございます」


 兄は、(ふち)が紫色で中が白の可愛らしい花を買ってプレゼントしてくれた。


 これはハーヴィーとの街中デートに出てくる花で、サクラソウとも呼ばれるプリムラの一種。花言葉は『信頼・無言の愛』。

 ハーヴィーのファンが、「後から意味がわかった」と絶叫していたから、よく覚えている。


「カトリーナ様、これ、美味しいですよ」


 ちなみにタールは大粒の葡萄(ぶどう)で、ファンには「ター坊らしい」と微笑まれていた。


「ありがとう。でも、今はちょっと……」


 せっかくのプレゼントも、両手が(ふさ)がっているので受け取れない。


「じゃあ、カトリーナ様。あ~ん」

「あ~ん」


 つられて口を開けると、タールが皮ごと食べられる緑色のマスカットを、中に放り込んでくれた。


「……ん。美味しいわ!」

「でしょう!」


 タールが私にキラキラした目を向ける。

 この部分は、タールとの食べ歩きデートで出てきたシーンだ。


 攻略対象を一人に絞らなかったためなのか、それぞれとのデートが一気に再現されている。覚えている場面とはちょっと違うけど、攻略対象との『街中イベント』は達成されそうだ。


 好感度はもう十分なので、そろそろまともに歩きたい。

 それでなくとも、先ほどから周りの視線がビシバシ突き刺さる。


 イケメンを(はべ)らせているせいか、道行く女性は(うらや)ましそうな目を、男性には(いぶか)しげな顔を向けられる。

 食べものを買い求めては私の口に入れようとするタールのせいで、子供達には笑われていた。


 侍女のクラリスはわざと離れたところを歩き、他人のフリをしているような。


「あのぉ、さすがに恥ずかしいのですが……」

「そう? カトリーナは、照れた顔も魅力的だね」

「俺もそう思います」

「私は恥ずかしくないわよ。大丈夫、あなたはどんな時でも可愛いわ」


 ――ちーがーうー。そんなこと、全然気にしていないから。


 手を放してって言ったのに、遠回しではダメみたい。

 侍女のクラリスに助けを求めるものの、目を()らされた。


 彼らから離れる口実はないかと、私は周囲を(うかが)う。




 ちょうどその時、黒()りの馬車が遠くに見えた。

 街中でもスピードを落とすつもりはないらしく、我がもの顔で走ってくる。


「見て! 馬車がこっちに来るわ」

「本当ね。ここにいては危険よ」

「みんな、あちらへ」


 タールの誘導で、道の(はし)に移動した。

 安全な場所で胸を()で下ろした私の目に、何かが映る。


 それは通りの真ん中にたたずむ、灰色のローブを着た人物だ。手元の地図に集中していて、明らかに馬車に気づいていない。


「危ない、そこから離れて!」


 呼びかけても、動かない。

 私は力任せに、ルシウスとハーヴィーの手を振りほどく。


「カトリーナ‼」


 間近に迫る暴走馬車。

 ローブの人が顔を上げるが、もう遅い。


「危ないっ」


 私は馬車の前に(おど)り出て、その人を勢いよく突き飛ばした。

 恐怖に(ゆが)御者(ぎょしゃ)の顔。直後、身体中に痛みが走る。

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