表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/78

好感度を上げましょう 2

「みなさま、お代わりはいかが? ルシウス様のお土産(みやげ)のお茶は、芳醇(ほうじゅん)で美味しいですものね」

「美しい方にお気に召していただけて、光栄です」

「まあ、お上手ですこと」


 おっと、いけない。ルシウスだけでなく、みんなに話しかけなくちゃ。


「ター坊も立っていないで、こちらにどうぞ」

「いいえ。俺の仕事は、姫様の護衛ですから」

「ここには知り合いだけだもの、楽にしていいのよ。それに騎士団長のタールがいた方が、お茶会が盛り上がるでしょう?」

「カトリーナ様が、ようやく俺の名前を……」


 タールが白い手袋を()めた手で口元を押さえている。

 そんなに感激するなら、今後はター坊ではなくタールと呼ぼうかしら。


 視線を感じてチラリと見れば、クラリスが私とタールの会話に聞き耳を立てている。


「ター坊――タール。私の友人、クラリスのことは当然知っているわよね?」

「はい。……どうも」

「ごきげんよう」


 会話が続かないが、クラリスの好感度を上げたいわけではないので、もちろん構わない。

 それなら次はハーヴィーね。

 兄を見て、私は軽く首をかしげた。


「お兄様は楽しんでいらっしゃる?」

「ええ。こうしてゆっくりできる時間は、久しぶりよ」

「そうね。お兄様は働きすぎだもの」


 リラックス効果のあるハーブティーも用意したのは、多忙な兄にくつろいでもらうため。

 けれど兄は、お茶に関心はないらしく、隣のクラリスに話しかけている。


「カトリーナと仲良くしてくれて、ありがとう」

「もったいないお言葉ですわ。私の方こそお側に置いてくださって、ありがとうございます」


 その応えにハーヴィーが、にっこり笑う。


「カトリーナは、良い友人に恵まれたようね」

「ええ。私も彼女に出会えて、感謝しているの」

「感謝……ね。私も、素敵な出会いに感謝しているわ」


 兄は口にし、私に向かって片目を(つむ)る。


 ――今のはどういう意味かしら? 


 カトリーナには、二歳で王家に引き取られたという経緯がある。ただし初期の段階では思い出せないし、ハーヴィーも中盤までそれを匂わせるような行為をしない。


 だけど今のウインクって、思わせぶりじゃなかった? それとも考えすぎ? 


 好意を得ようとしているから、自分に都合良く感じてしまったのかもしれない。

 お茶会はその後も(なご)やかに進む。

 だけど何をどう間違えたのか、ルシウスは私にばかり話しかける。


「再会した時にも感じましたが、やはり美しいですね。カトリーナ様、いえ、カトリーナと呼んでもいいですか?」

「はい? いえ、あの……ええ」


 眩しい笑顔に圧倒されて、しどろもどろになってしまう。爽やかな彼が序盤からガンガン振る舞うなんて、聞いていないわ!


 ルシウスはさらに、歯の浮くようなセリフを連発する。


「カトリーナ。勇敢で愛らしい君の魅力は、筆舌に尽くしがたい。聞けば、この国の芸術振興政策にも深く関わったとか」

「……ええ、少しだけですが」


 本当はがっつり関わったが、早く会話を終わらせたい。

 視線で助けを求めるものの、クラリスには目を()らされた。兄はカップに顔を伏せているため、表情が読めない。


「僕には君が必要だ。我が国で、存分に力を発揮してくれないか?」

「えええっ⁉」


 私の手を取るルシウスだけど、彼はもう、カトリーナを自国に招くつもりなの?


 いくらなんでも早すぎる。それだと完全にルシウスルートで、彼との恋に限定されてしまう。


 どんなに彼が素敵でも、私が推すのはクロム様。せっかく巡り会えたのに、推しを置いて出国なんてあり得ない!


 ルシウスに握られた手が気になって、断りの言葉が出てこない。手を引き抜こうにも、彼がそれを許さなかった。


 ――クラリス。ルシウス推しのあなたが、いつもの毒舌でこの場をなんとかしてくれない?


 その時、背後で声がした。


「カトリーナ様、だったら俺もカトリーナって呼んでいい? 付き合いは、俺との方が長いですよね?」

「はいいぃ⁉」


 タールったら、急に何?

 焦って振り向く私に、彼はいたずらっぽく肩をすくめた。


「……けど、ダメか。臣下が呼び捨てなんて、不敬ですもんね。残念だなあ」


 だからタール、なんでそうやって子犬のフェリーチェみたいに可愛くうなだれるのよ。

 ま、あの子の方が愛らしいけれど。


「ルシウス殿下、からかうのはそこまでにしてあげてね。カトリーナが最も心を許す相手は、私なの。昔から私がいないと、何もできなくて」


 そう言って目を細める兄は、いつの時代を頭に描いているのだろう? 


「ともに湯浴(ゆあ)みもした仲よ。そんな可愛い妹を、私がすぐに手放すとでも?」

「なっ……お兄様!」


 あまりの言葉に席を立つ。

 おかげでルシウスに握られた手は離れたけれど、プライドは粉々だ。


「湯浴みって、十年以上前のことでしょう? お兄様、私の記憶にさえないものを、みんなに披露するのはやめてほしいの!」

「ほらね? 怒った顔も可愛いでしょう?」


 クスクス笑うハーヴィーは、これだとただのシスコンだ。

 呆れたようなタールと、失笑するルシウス。

 クラリスは、やれやれというふうに首を横に振っている。


 好感度を上げるつもりが、機嫌のいい兄以外、急降下したような。

 推しに暗殺される恐れがある以上、ゼロやマイナスでは困る。ゲームでは別画面で確認できたけど、現実では無理だ。


 どうやら団体行動は、失敗に終わったみたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ