四天王が二人来た。なので山にキノコを生やす
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某火の四天王も言っていました。
"前の戦いでお前達に教えられた。力を合わせるということをな"
って。しかし、牛の人は、別に協力して倒してないですね。
牛の四天王と戦ったハジハジ城を後にし、彼らは人類領域における現在の最前線であるゼンゼン砦へと後退した。
イヴイヴは、そこに駐屯する王国の兵士から周辺の魔物情報を入手し、"レベル上げ"のために魔物討伐へと繰り出した。
牛の四天王との戦いから1週間。イヴイヴ達は連日魔物と戦っていた。
まるでゲームみたいだ、とヴェントが溢せば、
「念動粒子との感応力を高めている要素は、概念的なモノですが、その概念には伝播性があり、人族と魔族とで、その感応力の奪い合い、一種の陣取り合戦のような様相となっています。現在は魔族がかなり優勢ですね」
とノルンが説明をする。ヴェントは今一つ理解できなかったが、「要するに"経験値"を奪い合っているのです」との補足で、何となく納得した。
であるならば、ヴェントも魔物を倒せば、"経験値"が手に入るかもしれない。そんな淡い期待を抱いたヴェントだったが、
「いえ、手に入りません」
との、ノルンの冷たい一言で撃沈した。
ヴェントやノルンはこの星の生き物ではないため、彼らが倒した魔物の"経験値"も、イヴイヴとリスリスに加算されているのだ。
新たに、木の怪物が出現するという情報を得た一行は、ゼンゼン砦を出て、現場である森へと赴いた。
「ここで複数の"木の怪物"が確認されています。それはおそらく──」
森の淵に立ち、リスリスが説明を口にしかけたところで、森の中がざわざわと騒めく。
「来るよ! トレントだ!」
イヴイヴの声に、リスリスも構える。ノルンは自然体で、そして、ヴェントは驚愕していた。
「な、名前が普通だ!」
ヴェントの驚きには誰も反応せず、木々を抜けて現れたトレントに、イヴイヴが相対する。
「セイッ!」
聖剣を水平に振るい、巨大な木の怪物を上下二つに両断する勇者イヴイヴ。
「ギガ……」
トレントの下半分は動きを止めた、が、上半分は依然として生存しており、枝葉を揺らしつつ這うようにリスリスへと接近していく。
法術師リスリスは、背から金属製のメイスを取り出し構える。途端、彼女の瞳に狂気の色が宿る。
「ひぃぃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっあぁぁぁぁぁぁぁ!! 死ねや、おらぁぁぁぁ!!」
奇声を上げつつ、トレントの上半分を金属製メイスで滅多打ちにするリスリス。
「ギ、ギギィイィィ……」
トレントは力なく鳴き、動きを止めた。
「いただきます」
そして、なぜか手を合わせて挨拶をしたノルンが、その死骸をマターコンバータで吸収・変換した。
「次! 来るよ!!」
イヴイヴの示す先へ、3人が一斉に視線を向ける。そこには3体のトレントが迫っていた。
再び交戦を開始する3人。そして、その背後で呟く男が一人。
「僕、役に立ってない!?」
森を進み、次々とトレントを倒していく一行。
前衛のイヴイヴ、場合によっては前衛も担う回復担当のリスリス、前衛後衛どちらでもこなすノルン、そしてツッコミのヴェント。
「僕だけ役割おかしいんですけど」
トレントの討伐数も20を超え、
「そろそろ一旦砦に戻りましょう」
イヴイヴは一行に声をかけたところで、ノルンが鋭く何かに反応する。
「飛行体が急速接近!」
ノルンの言葉の直後、彼らが居る森の木々を揺らし、上空を巨大な飛行体が通過した。そしてそこから落下してくる者。
ドスゥンという落下音を立て、二足歩行の巨体がイヴイヴ達の近くに落着した。その頭部は牛の形状であり、手には巨大な戦斧を持つ。
「お、お前は、牛の四天王モウモウ!!」
イヴイヴが驚愕で見上げる牛頭は、先日戦った牛の四天王であった。
「はっはっはっはっはっ! あの程度で我に勝ったと思っているのか!? 我の強靭な肉体を侮ってもらっては困るな!!」
巨大な戦斧を片手で振り上げ、吠えるようにモウモウが述べる。
「ノルン、殺してなかったんだね」
「人語を介する知性体でしたので、殺害はしておりません」
ヴェントの問いに、ノルンは何事もないかのように応えた。
「あ~。そっか、そうね」
ノルンによる分類としては、人族でも魔族でも、"未成熟文明の知的生物"という括りである。
にらみ合うイヴイヴ達とモウモウ。更に上からも甲高い鳴き声が響いた。
見上げた先、その羽ばたきで森の木々を揺らし、巨大な赤いドラゴンが滞空していた。
「あ、あれは! まさか火の四天王!?」
リスリスは叫びつつも顔面は蒼白だ。
「そ、そんな、牛と火の四天王が二人同時に襲ってくるなんて!!」
イヴイヴも絶望の表情を浮かべている。
「はっはっはっ! 四天王が共闘してはいけない、などという決まりは無いのでなぁ!!」
戦斧を担ぎ上げたモウモウは、得意満面で述べる。
「一人で勝てない相手に、援軍を呼ぶことは合理的な判断です」
「ひ、一人で勝てんわけではない! 我はより確実性を考えてだな!」
ノルンは冷静に分析しただけだが、モウモウのプライドに引っかかったらしく、牛が慌てて言い訳を述べた。
「ギャォォガァァァァ!!」
そんな一行のやり取りに業を煮やしたかのように、上空に滞空していた赤いドラゴンが口から火を吐いた。
「うわぁぁ!」
「きゃぁぁ!」
咄嗟に避けるイヴイヴとリスリス。ノルンは電磁防壁を展開し、ヴェントを護った。
炎の射線上の木々が炎上し、森に火が付く。そしてモウモウも燃えた。
「ぎゃぁぁぁぁ! ゴンゴン貴様! 我まで燃やすつもりか!!」
たてがみや尻尾など、毛の生えた部分に引火したモウモウが、必死に消火しながら空に向けて大声で叫んだ。
『ヤキニク、ヤキニク』
思念波のようなもので、火の四天王ゴンゴンの呟きが聞こえてきた。
「あれ、だめですわ、完全に食う気ですわ」
ヴェントはゴンゴンと呼ばれたドラゴンを見上げて呟く。半焼けのモウモウを見下ろすゴンゴンの視線は、焼き肉屋で、肉が焼けるのを待つ子供のソレであった。どうやら彼らは"仲間"ではなかったらしい。
イヴイヴ達とモウモウは敵対しながらも、一緒に炎に巻かれていく。炎の揺らめきの中、赤いドラゴンは嬉しそうに火を追加していく。だが、ゴンゴンはイヴイヴ達やモウモウを直接焼くことはしない。彼は遠火でじっくり焼くのが好みだからだ。
そんな彼らの様子を、ヴェントとノルンは防壁内から見ていた。
「マスター、炎を鎮火します。戦闘モードの許可を」
ノルンはメイドのように優雅に一礼し、ヴェントに"戦闘モード"への移行許可を依頼する。
「戦闘モードお願い」
「指示確認、戦闘モードへ移行します」
少女のような見た目であったノルンの全身が、白い装甲のドロイドへと変貌する。
「まずは火元を止めます」
ノルンはそう言うと各部プラズマジェットを噴射し、ドォンという音と共に急上昇。もう一吹き炎を追加しようとして口を開きかけたドラゴンの顎に、痛烈な膝蹴りを叩きこむ。
「ギャオングッ!」
妙な鳴き声を上げたドラゴンは、空中でグラリと姿勢を崩す。
「しばらく静かにしていてください」
既に意識を失っているように見えるゴンゴン。その頭にノルンは手を当てると、バチィィンという激しい炸裂音と共に電撃を見舞う。
「だ、ダメ押し……。あれ生きているのかな……」
プスプスと煙を吐きながら落下していく赤いドラゴンを見ながら、ヴェントは呟いた。
上空におけるゴンゴンの惨事を目の当たりにし、イヴイヴ達とモウモウの間にあった剣呑な空気は完全に吹き飛んでいた。
両者共に、依然として上空に在る"絶対強者"への畏怖に取り付かれている。
火事の火元は処理されたが、まだまだ森は火がボーボーである。
「皆さん、何かに掴まっておいてください」
上空に滞空しているノルンから、非常に不穏な警告が発せられる。
イヴイヴとリスリス、そしてモウモウまでもが、全く疑うことなく近くの木にしがみつく。一番遅れたのはヴェントだが、彼らの警戒具合を見て、今更ながらに焦った彼も、手近にある木にしがみついた。
依然滞空したままのノルンからキィィィィィンという高周波音が響く。と、同時に、全身に走る緑のエネルギーラインが激しく明滅する。
やがてノルンが右腕を翳すと、右腕の肘から先が変形、展開し、仰々しい形状の砲身へと変貌した。
その砲身先端に、エネルギーが集中し、深緑色の高エネルギー球体が形成された。
高エネルギー球体はバチバチと紫電を発し、周囲の大気をビリビリと震わせる。
ヴェントは今更ながら、猛烈に嫌な予感に襲われた。
「最も効率良く、火事を鎮火する方法、それは……」
シュポォォォンという軽い音で発射されるエネルギー球体は、数km先の小高い山に吸い込まれるように消えた。
「爆風です」
瞬間、周りは閃光に包まれ、視界の一切が真っ白に染まる。直後に彼らを襲う轟音と激烈な爆風。ヴェントは木に全力でしがみついていたが、体が浮き上がってしまった。
どれほどの時間が経過したか。ヴェントの感覚では数秒だったような、はたまた数時間も耐えたような。
とにかく全身の力を振り絞り、吹き飛ばされないようにひたすらに耐えた。
気が付けば周囲は静かになっていた。恐る恐る目を開けたヴェントの視界に映ったのは、葉が全て無くなり、斜めになった木々であった。確かに、森の火事は消えた。
エネルギー球体が着弾した小高い山からは、今までは無かったはずの"巨大なキノコ"が天高くそびえていた。
「個体名"モウモウ"は、随所に"牛"の特徴が見受けられます」
「あ、うん、そうだね、頭なんてほぼ牛だしね……」
「ですが、二足歩行であり、人語を操る知能や機能を有しています。そのため、分類としては"知的生命体"として認識していましたが……」
「そういえば、そう言ってたね」
「しかし、個体名"ゴンゴン"は、個体名"モウモウ"を加熱する行為を"ヤキニク"と称していました。"ヤキニク"とは、主に牛や豚、鶏などの食肉を加熱し、食する調理方法です。その関係性から推察すると、個体名"ゴンゴン"は個体名"モウモウ"を牛や豚、もしくは鶏と認識していることになります」
「え、あ、うん?」
「そう仮定した場合、個体名"モウモウ"を"知的生命体"と想定した私の分析は誤りであると考えられます。私と個体名"ゴンゴン"の評価に差異が発生した原因を詳細に調査すべきと判断します」
「しょ、詳細にって、何を調査するの?」
「具体的には、個体名"モウモウ"を解剖、分析し、体組織の具体的な調査と──」
「価値観は人それぞれだから! そういう風に思う人もいるってことじゃないかな!? だから、ノルンはそのままでいいよ! うん!」
「そう、そこです」
「は、はい?」
「今、マスターは"人それぞれ"との表現で、個体名"ゴンゴン"を"人"、つまりは"知的生命体"として扱っておられました。ですが、同個体の外見的特徴は、完全に爬虫類、もしくは鳥類です」
「あ、うん、なんかこの先が予想できるけど、うん」
「人語の発声器官も無く、意志の伝達方法は"念動粒子"を解した念話のみ。その内容も"ヤキニク ヤキニク"の一言であることを考慮すると、"知的生命体"として扱うのにも"ギリギリアウト"と評価をせざるを得ません」
「"知的生命体としてギリギリアウト"って、なんかすごい表現だね……」
「なにより、"文化的"、"知性的"な生物であれば、狩猟後には血抜きや、可食部位の切り分けなど、精肉加工を行うことが一般的であり、"とりあえず焼く"という発想にはならないと考えます」
「生々しい! 想像するからやめて!!」
「更に、同個体の特筆すべき点としては、口内から火炎を放射を行うことです。そのような体組織はあまり事例が無く、これらの点からも、個体名"ゴンゴン"についても、詳細な調査をすべきと判断します」
「えっと、と、とりあえず、詳細な調査は今度にしよう!」
「はい、わかりました」
こうして、モウモウとゴンゴンは生き延びた。