賢者セフィール
ミリアがビーストキングダムを後にして、向かった先はライトフォーレストのホワイトガーデンだった。聖女フランの居る国だった。ミリアはホワイトガーデンに向かう道すがらライトフォーレストを見て回った。
ライトフォーレストは国土全てが森だった。ビーストキングダムも森が多かったが、ライトフォーレストには道が無かった。平野人の商人も見かけなかった。白樹人の家は地上ではなく樹の上に作られていた。
白樹人は閉鎖的で、ミリアを見つけても遠巻きに見ているだけで、近づいてくるものは皆無だった。ミリアは白樹人のフランを思い出していた。間延びした話し方をしていたが、警戒心が強いという印象は受けなかった。フランが特別なのかもしれないと思った。
ミリアが見た白樹人は金髪碧眼で、男性は白いシャツとズボン、女性は白いワンピースを着ていた。他の色の服を着ている白樹人は居なかった。
ホワイトガーデンは、特別な森だった。森に生えている樹は『聖宝樹』と呼ばれる特殊な樹で、魔法を使う為の触媒の1つだった。この樹は白樹人しか育てる事が出来ない為、白樹人はこの樹を売って平野人と商売を行っていた。樹の幹は白く、葉は黄金に輝いていた。その姿は、白樹人を連想させた。
ミリアが森の中を進んでいくと、フランが現れた。フランも白いワンピースを着ていた。
「ようこそ、ホワイトガーデンへ~。待っていました~」
フランはいつものように間延びした話し方でミリアに話しかけた。
「白樹人は警戒心が強いの?」
「そ~ですよ~」
「じゃあ、フランは?」
「あ~。わたしは~、強いから大丈夫なんです~」
ミリアは、やはりフランが特別なのだと認識した。
「理解した」
「それで~、この森、どうです?素敵でしょ~」
「綺麗だと思う」
「そうでしょ~。そうでしょ~。この樹は特別なんですよ~。世界を管理する精霊様に願いを届けてくれる特別な樹なんです~」
「フランが持っていた杖の柄の部分に使われていた」
「よく分かりましたね~。この樹が無いと~、魔法が使えないんです~」
「そうなんだ」
「ですから~。ここでは火気厳禁で~お願いしますね~」
「分かった」
ミリアはフランに案内されて、森を進んでいった。その先には小さな東屋があった。人が4人座れる程度の小さな東屋だった。そこに、金髪碧眼の美男子が居た。服装は他の白樹人の男たちと同じ白いシャツとズボンだった。美男子はミリアを見るなり、険しい表情を見せた。
「賢者セフィール様。ミリアをお連れ致しました~」
「ご苦労、ミリアと言ったな、起動してすぐで悪いが『管理者権限』により、機能を停止させてもらう」
セフィールは、東屋のテーブルに置いてある。ノート型パソコンを操作して、ミリアに機能停止のコマンドを送信した。しかし、パソコンの画面には『パスワードが違います』と表示されていた。
「なぜだ。なぜパスワードが変更されている」
セフィールは驚いていた。セフィールは1万年以上生きている。古代文明が滅びた時、彼は神威計画を主導した『管理者』権限を持つ唯一の生き残りだった。他にパスワードを変更できるものは居ないはずだった。
「汎用人型戦闘機体ミリアが起動したとき、管理者権限を持つ人族が施設内に居なかった為、自動的にミリアに管理者権限が付与され、パスワードも自動で変更されました。現在、ミリアに命令できる者はミリア以外に居りません」
元管理者に対して月読がミリアの口を借りて説明を行った。
「それでは、暴走ではないか!今すぐパスワードを教えろ!」
(パスワードを教えてもよろしいでしょうか?)
月読の問いに対して、ミリアの答えは決まっていた。
「嫌」
ミリアは無表情で抑揚の無い声で答えた。
(畏まりました)
月読は現在の管理者に従った。
「セフィール様。私を騙したんですか?」
フランがニコニコした笑顔で、間延びした口調をやめて、静かに聞いた。フランは怒っていた。セフィールにミリアの事を伝えた時、話をしたいから連れてきてと言ったのに、話もせずにミリアを停止させようとしたのだ。
「フラン。君はミリアがどれだけ危険な存在か知らない。こいつは世界を滅ぼせるだけの力を持った兵器なのだ。ようやく、人族も魔族も平和に暮らせる状態になった。それを破壊する存在を野放しには出来ない。せめて、私の管理下にあれば、世界の平和を壊すことなく、世界を統治出来たのに……」
セフィールの言い訳を聞いた後で、フランはセフィールに近づきビンタした。バチンと音がし、セフィールは地面に片膝をついた。フランの全力のビンタはセフィールに軽い脳震盪を与えていた。
「今回は、これで許してあげます。次、嘘を吐いたら殺しますよ?」
フランはニコニコ笑顔のままでそう言った。
「フラン。私が誰か知っているか?」
「知ってます。この国の代表であり、最長老の賢者セフィール様ですよね」
フランは、まだ間延びした会話に戻っていない。相変わらず笑顔のままだった。
「どうして、こんな事が出来る」
「何を言ってるんです?セフィール様、私は何者ですか?」
「戦争を終結させた英雄、聖女フランだ」
「その英雄に嘘を吐いて、一緒に魔王を倒した仲間を殺そうとしたんですよ?ビンタ程度で済んで良かったとおもいますけどね~。本当にミリアが停止してたら死んでますよ?」
フランは相変わらず笑顔で怖い事を言っていた。
「すまなかった。もう、二度としない」
セフィールはフランを小さい頃から知っていたつもりだった。いつも笑顔でニコニコしていて、悪口を言われても、馬鹿にされてもニコニコしている馬鹿だと思っていたが、違っていた。フランは、本当に大切なもの以外はどうても良いからニコニコとしていただけに過ぎなかったのだ。
「謝る相手は私だけですか?」
フランは、本当に怒っていた。魔王バグスを倒すまでの時間は2時間程度だったが、命を賭けて一緒に戦った仲間だ。しかも、フランを庇ってジャッカが死んだ時、真っ先にバグスに反撃し、そのまま倒したのだ。そんな仲間想いのミリアを殺そうとしたことが許せなかった。
「ミリア殿、すまなかった」
セフィールの謝罪に対して、ミリアは何も思わなかった。機能停止は出来なかったし、セフィールの言う事も理解できた。自分は世界のバランスを壊そうとしていると言われれば否定できない。
「問題ない。私は機能停止しなかったし、あなたの懸念は間違っていない。でも、私には使命がある。それを果たさずに停止する事は出来ない」
「その使命は1万年前に設定されたものだ。今の世界情勢にそぐわない。私に協力してくれるのなら、戦争を回避しつつ君の願いを叶える事は出来ると思うが?」
「科学技術と民主共和制の復活が出来ると?」
「待て、その使命はなんだ?1万年前の使命は魔族の殲滅だったはずだ」
「最後に目標設定を変更したのは、平野人のイザナギ様です」
セフィールの問いに月読が答えた。
「余計な事を……」
そう言いつつもセフィールはイザナギらしいと思った。魔族の殲滅ではなく人族の復興を願うような優しい男だった。きっと神威計画は人族が壊滅的な状況になっても完成しないと予測して使命を変更したのだ。
「使命が違うと、何か問題でも?」
ミリアは相変わらず無表情で抑揚の無い声で質問した。
「民主共和制の復活は問題ない。ホワイトガーデンはずっと民主共和制を貫いている。だが、科学技術は駄目だ。あれは、資源を貪り食う最悪の文明だ。自然との調和を無視し、最後には限界を迎えて滅びる。1万年前と同じ轍を踏むわけにはいかない」
セフィールがそう言うとミリアは納得した。だが、自分の使命は科学技術の復活なのだ。どれほどのデメリットがあろうとそれだけは譲れなかった。
「分かった。話を聞いてくれてありがとう。他の国に行く事にする」
「力になれなくて、ごめんね~」
フランはセフィールが嘘を吐いた時は怒ったが、セフィールが白樹人の為にミリアの願いを断った事は怒らなかった。国の行く末を考え決断するのがセフィールの仕事だと分かっていたからだ。
「いいえ、話を聞いてくれてありがとう。それと、私の知らなかった事を色々と知れた。停止しようとしたことは許せないけど、知識を得られたことは有意義だった」
「科学技術の復興ではなく、世界を平和に統治するという目的ならいくらでも協力する。気が変わったら、また来てくれ」
「分かった。覚えておく」
こうして、ミリアは次の国に向かった。
選択肢:セフィールに協力しますか?
1.いいえ
2.はい
2を選んだ場合は、シナリオ4『管理者セフィール』
白樹人の王であり、旧世界のシステムで管理者権限を持ったセフィールと協力し、調和のとれた管理社会を構築するシナリオに進む。