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古代兵器ミリア  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
プロローグ
6/19

5つの絶望

 そこは、魔王城から遠く離れた人族と魔族が争っている前線だった。互いに陣を築きにらみ合っている状態だった。季節は秋、もうすぐ夜明けが来るという時間帯だった。魔族の陣の中央に位置する本陣で『5つの絶望』と呼ばれる魔族5人が集まっていた。

 1人目は竜人りゅうじんの男、暗黒騎士ベリル。身長2メートル漆黒の鱗に覆われた筋肉質の体、竜の頭、鋭い目つきが特徴的だった。武器は漆黒の大剣『打ち砕く黒』で防具は身につけていなかった。

 2人目は鬼人きじんの女、羅刹ローズ。身長170センチメートル赤髪赤眼の美女だった。髪は短く切りそろえてあり、額には1本の角が生えていた。全身赤い虎の毛皮を着ており、武器は真っ赤な金棒『叩き潰す赤』だった。防具は赤い虎の毛皮『地獄虎じごくこの毛皮』を装備していた。

 3人目は魔人まじんの男、破壊魔導士ピサロ。身長175センチメートル青髪青眼の白い肌をした美男子だった。武器は青いレイピア『命も凍る青』、防具は青を基調としたスーツ『吹雪のスーツ』を装備していた。

 4人目は蛇人じゃじんの男、邪神官ラズ。身長2メートル紫の鱗に覆われた頭と下半身が蛇の体、サディスティックな瞳が特徴的だった。武器は紫の鞭『苦痛の紫』で防具は身につけていなかった。

 最後の1人は悪魔の女、超越者リリス。身長160センチメートルピンク色の髪と瞳、透き通るような白い肌、妖艶な体、胸元と肩口が露出した体のラインが分かるピンク色のドレスを着た美女だった。武装はピンク色の鎖『うごめ玩具おもちゃ』、防具はピンクのドレス『魅惑のドレス』だった。

 円卓に5人が座っていた。

「さて、バグス様は『5つの希望』に勝てたと思います?」

 悪魔リリスは机に両肘を付き、両手で顔を支えた体勢で話始めた。

「勝てないのであれば、我らの王ではない」

 竜人ベリルは腕組みをしたまま傲然と答えた。

「そうだな、あの程度の者たちに負ける等、許されぬ」

 鬼人ローズは不敵な笑みを浮かべて言った。

「神龍ラグナロクも居ますし、負けるはずがないですよ」

 魔人ピサロはキザったらしく言った。

「万が一、敗れたのなら、それは魔王ではない」

 蛇人ラズは見下すような目で言った。

「みんな、負けると思っているのね。面白いわ」

 リリスはケタケタと笑いながら言った。

「この作戦を提案したそなたはどう思っておるのだ?」

 ローズは深紅の眼を光らせてリリスに問いかけた。

「あいつらが勝てないと思っているのにワザと見逃して泳がせるわけないでしょ~」

 リリスは悪びれもせず。そう答えた。

「それにしても意外だな、君が反旗を翻すなんてね。てっきり魔王バグスの愛人たと思ってたんだけど?」

 ピサロは真面目に質問した。

「面白い冗談ね。リリスは確かに美男子が好きなんだけど、ナルシストは嫌いなの」

 リリスは嫌悪感を露わにそう答えた。

「なるほど、なるほど、我らの王よりも平野人へいやびとの勇者殿にご執心だと?」

「あら、よく知っているじゃない。リリスも意外だっただけど、ピサロは何で止めなかったの?バグスは魔人出身の魔王なのに」

「まあ、そうなんですけど、僕も魔王の座を狙ってましたし、ここに居る皆さんも同じ理由でリリスの策に乗ったんですよね?」

 ピサロは嘘を吐いた。本当は、人族など取るに足りない存在だと見くびっていた。魔人に犠牲を出さずに簡単に滅ぼせると思っていた。だが、実際戦ってみると追いつめられた人族は決死の覚悟で戦い魔族の犠牲が無視できないレベルになっていた。

「さっきも言ったが俺はバグス様がこの程度の敵を倒せないようであれば魔王失格だと思ったからだ。別に失脚を狙った訳ではない」

「じゃあ、ベリルはバグス様が勝つと思ってるの?」

「勝負に絶対は無い。だが、バグス様は今まで勝っていた」

「そっか、ベリルはそういうスタンスなんだね。じゃあ、バグス様が負けたらどうするつもり?」

 ピサロは悪戯っぽく笑いつつ聞いた。

「無論、退却する」

「なぜ?」

「この遠征は元々バグス様が立案したものだ。立案者が居なくなったとあらば退却するのが筋というものだ」

 ベリルは真面目にそう答えた。

「なるほどね、ローズはどう思っているの?」

「妾もベリルと同意見だが、負けると思っておる」

「その心は?」

「驕れるものは久しからずと昔から言うでな」

 ローズは最近のバグスの態度が気に入らなかった。確かに戦略も戦術も非の打ち所がない完璧なものだった。だが、最初は『5つの絶望』に対し、対等の強者として礼を尽くしていたが、勝ちを重ねるごとに驕るようになった。だから、リリスの策に乗る事にした。

「さて、ラズはどう思っているのかな?」

「私は罠に嵌められたバグス様が、どのように窮地を脱するのか興味があったから協力したのだ。勝敗に興味は無い」

 ラズはバグスが慌てふためく姿を想像して目を細めた。

「さて、そろそろ朝が来る。彼らが順調に魔王城まで進み、バグズ様に勝利したのなら、戦場に姿を現すはずだ」

 ピサロは吉報がもたらされる事を確信しているように不気味に笑った。

「バグズ様が勝利し『5つの希望』が現れなかった時はどうする?」

 ベリルが目を細めてピサロに問いかける。

「もちろん、バグス様の作戦通りに人族を蹂躙するよ」

「ええ~。それは止めにしない?リリス、人族が作っている小説で続きが気になっているのがあるんだけど~」

「ならば、その作家とやらが住んでいる町を誰よりも早く占領する事だ」

 ベリルがリリスの提案を一蹴した。魔族には暗黙のルールがある。先陣を切って町を占領した者が、その土地の所有者になるという取り決めだった。

「それって不公平じゃない?先陣はベリルとラズじゃない。リリスは三番手だし、どうしても出遅れちゃうんだけど……」

「分かった。その町がどこか教えろ、後で譲ってやる」

「わ~。ありがとうベリル。後でお礼するわね。ラズはリリスに譲ってくれないの?」

「譲っても良いが、それ相応の報酬を貰いたい」

「何が、欲しいの?」

「要らない人族を100人譲ってくれれば、その作家1人と交換しよう」

「ずいぶん欲張りなのね。でも、いいわその条件で交換してあげる」

「取らぬ狸の皮算用はそれぐらいにして、結果を見に行こうじゃないか」

 ピサロは、どのような結果になるのか知っていた。『5つの希望』と直接戦った事があるのだ。とくに魔女メアリの魔法は脅威だった。古代文明からヒントを得たという究極の破壊魔法『ニュークリアフュージョン』の破壊力は凄まじかった。

 それに、聖女フランは不死者を浄化する魔法を使えるのだった。勇者アベル、破壊者カノン、聖騎士ジャッカも強力な戦士たちだった。彼らが協力すればラグナロクを倒し、バグスを仕留めるのは容易だろう。


 ピサロの予想通り、その日の朝、敵の前線に『5つの希望』が揃っていた。

「さて、バグス様は負けたようですし、僕は撤退したいのですが、彼らの追撃を受けつつ撤退するのは遠慮したいのですがね~」

 ピサロはリリスを見る。他の3人もリリスを見ていた。

「もちろん、策はあるわよ?ただし、条件があるの」

「どんな条件です?」

 ピサロがリリスに聞いた。

「一つは、この戦争で人族から奪った土地を返還する事、もう一つはリリスとピサロとローズとベリルとラズの5人揃って手を挙げて、前進するの。それが条件」

「破れば、どうなるんですか?」

「『5つの希望』が全力で戦ってくれるそうよ」

 ピサロの問いにリリスは恍惚とした笑顔で答えた。

「僕は従いますが、他の方は?」

「乗りかかった船じゃ、従おうぞ」

 ローズは戦うのも悪くないと思いつつも『5つの希望』と戦った結果、多くの部下を失った事実を忘れてはいない。これ以上、バグスの驕りで始めた戦争で余計な犠牲を出したくないからリリスの指示に従った。

「バグスが死んだのだ。義理立てする理由も無い」

 ベリルは最初からバグスが負けたら戦争を終わらせるつもりだった。

「私はバグス様がどのように苦しまれて死んだのか知りたい。交渉するのなら喜んで行きますとも」

 ラズはバグスのどのような最後を迎えたのか知りたかった。無様に命乞いをしたのか、それとも泣き叫んで死んでいったのか知りたかったのだ。ラズはサディストだった。

「じゃあ、決まりね。みんな手を挙げて仲良く並んで行きましょう」


 『5つの絶望』が手を挙げて人族の陣地へ歩いていた。正確には『5つの希望』に向かって進んでいた。

 それを見て、メアリが訝しがる。

「ねぇ、あれって『5つの絶望』よね。なんで手を挙げて近づいてきているの?」

 メアリの問いにアベルが答えた。

「魔王バグスを僕たちが倒したからだよ。平野人の王アーサー様が悪魔の王リリスと密約を結んでいたんだ」

「密約?」

「バグスを倒す事が出来たのなら奪った土地は返し、講和に応じると……」

「どういう事?」

「詳しい説明は後でするけど、魔族は人族の戦争を望んでいなかったという事だよ。特にリリスはバグスの主導する戦争に反対だったけど、力ある者には従うという魔族の慣習に逆らえなかったんだ」

「なるほどね、魔族の領域で不自然なまでに敵に遭遇しなかった理由が分かったわ」

 メアリは裏の事情を理解した。元々平野人と悪魔は民間レベルで交易を行っていた。領地が隣接している訳ではなく、互いに姿も似ているので悪い感情も持っていなかった。

 1万年前は人族と魔族に分かれて戦争をしていたが、500年前から互いの領地を守り干渉しないという平和な状態が続いていた。

 平野人以外の種族は、魔族と交易しようとは考えていなかった。だから、アーサー王とアベルは他の種族に密約を伝えていなかった。勝利が確定しないうちに明かせば裏切り者と呼ばれる可能性があったからだ。魔王バグスを倒してしまえば、裏切り者と呼ばれる事は無くなる。

「では、こちらも攻撃はしないという事じゃな」

「ええ、僕たちが講和を受け入れれば、他の王たちも無下には出来ない。魔王バグスを倒した英雄だからね」

「ふん、アーサー王は謀が好きじゃのう」

「いや、王が謀った事では無い。軍師マーリンだよ」

「なるほどの~。あの御仁か……」

 カノンは軍師マーリンを快く思っていなかった。

「なんにせよ。これで戦争が終わる。協力してくれないか?」

「マーリンは気に喰わんが、戦争が終わるなら協力するとも」

「じゃあ、相手と同じように手を挙げて進みましょう」

「分かった。俺も従う」

 ジャッカはアベルに言われた通り手を挙げて進んだ。

「わたしも~、従います~」

 フランも同じように進んだ。


 『5つの希望』と『5つの絶望』が戦場の真ん中で両手を上げて対面していた。口を開いたのはリリスだった。

「勇者アベル。おめでと~。見事バグスを倒したのね。こちらは約束通り停戦するために他の魔族を説得してきたわ」

「こちらも約束通り、魔王バグスを倒し、他の4人を説得してきた。僕たちが陣に戻るまでは戦端を開かないという各国の王の合意を得ている」

「そうならば、これから、それぞれ陣地に戻って正午に撤退を開始するという手順で問題ないわね」

「問題ない」

「念を押しておくけど、停戦合意に反対するバカな王が居た場合、そちらで処理してよね。そうしないと戦争が終わらないわよ?」

 リリスはアベルを誘惑するように胸を強調させて上目使いで言ってきた。

「それは、アーサー王が責任をもって行う。問題は起こらない」

「そう、ならいいわ。平和になったらあなたの国にお礼をしに行くから、その時はエスコートしてね。勇者様」

 リリスはアベルに投げキッスをした。アベルは誘惑して来るリリスに対して、事務的に対応した。

「分かりました。我が国にお出での際にはご案内いたします」

「期待してるわね」

「私からも良いですか?」

 ラズが停戦の交渉が終わったと思い。自分の欲求を満たす為に質問しようとしていた。

「なんでしょう?」

 アベルが聞くと、ラズは真剣な面持ちで質問をした。

「バグス様の最後は、どんなでしたか?」

「最後まで勝利を目指して戦い抜いていました」

「そうですか、立派な最期だったようですね」

 アベルの答えにラズは落胆した。往生際悪く逃げ惑ったり、命乞いをしたりを期待していたのだ。

「他に質問は?」

 アベルが聞いたが誰も発言しなかったので、アベルが締めくくりの言葉を言った。

「では、約束通りに頼みます」

 こうして100年続いた魔王バグス戦争は終わりを告げた。人族の王で反対するものは皆無だった。みな、戦争に疲れていたのだ。相手が攻めてこないのであれば、殺し合いを継続する理由は無いのだ。

 魔族もまた戦争に飽きていた。すでに十分な土地を持ち、食料も確保できている。これ以上、人族から土地を奪う理由が無かった。世界は均衡を保っていたのだ。魔王バグスは何故か、人族を絶滅させようと考えていた。その真意を知る者は居なかった。

 彼はただ魔族の為に戦争を始めた。そして、人族を殲滅する前に恐れていた古代兵器神威が起動してしまったのだ。人族が居なければ、古代兵器神威の目標が達成不可能となる。そうなれば起動しても魔族に害は及ばないと考えていた。

 そして、バグスの懸念は現実のものとなっていく……。


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