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古代兵器ミリア  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
プロローグ
3/19

エントランスの攻防

 魔王バグスは激怒していた。

「何をやっておる!平野人へいやびと一人に良い様にやられて逃げ帰るなど魔族の恥さらし共が!」

 魔王バグスの怒号に魔物たちは震えあがっていた。魔王バグスは不死者だった。元々は魔人まじんと呼ばれる魔族だったが100年前に邪法を用いて不死者となった。その後、魔族の王として君臨し続けている。

 見た目は一見して人間と同じだが、肌が異様なほど白く、生気が無かった。目の色は血のように赤かった。髪の色は黒で、腰まで伸ばしていた。髪の毛はクセが無く美しく輝いていた。そして、顔は絶世の美青年と言っても過言ではないほどに整っていた。体の線は細く、それでいて筋肉質だった。

 魔物たちは平伏して魔王の怒りが静まるのを待った。

「まあ、お前たちのように魔族にもなれない出来損ないは俺の指示が無いと何も出来ないクズだから仕方ないか……」

 魔王の暴言に誰も異を唱えられない。異を唱えたものがどうなるのかは皆知っていた。そして、誰も発言しない。発言すればどうなるのかを皆知っていた。

「馬鹿なお前たちに策を授けてやる」

 ここでも発言するものは居ない。不用意な事を言えば粛清されるからだ。

「策は馬鹿なお前たちでも分かるようにシンプルにした。城に引き入れて包囲殲滅する。場所は、エントランス。奴が侵入したら退路を絶ち、三方から殴殺しろ」

『御意』

 魔物たちに唯一許されている発言は『御意』だけだった。

「俺が伝えた策を理解できなかった馬鹿は手を挙げろ」

 数十の手が上がる。それらの魔物は作戦を理解できない知能が低い者たちだった。それを正直に申告したのには理由があった。

「では、俺が直々に支配の魔法で操ってやる。感謝しろ」

『ありがたき幸せ』

 彼らは知っていた。理解できない事を隠して作戦に参加した者がどうなるかを……。それよりも正直に申告し魔王に支配されたほうが生存率が高い事を知っていた。魔王は部下をコマのように扱うが、被害は最小限になるように最善を尽くした。これが、暴君であるバグスが魔王として君臨し続けた理由である。

「よろしい。では、支配の魔法をかける。抵抗することなく受け入れよ」

 手を挙げた魔物たちは頭を垂れて魔法を受け入れる体勢をとった。

「ドミネイション、センシズ」

 魔王が詠唱を終えると、知能が低い魔物たちは魔王の支配下になった。

「俺の支配を受けれいなかった者は攻撃開始のタイミングを間違えるなよ?」

『御意』

 それは、絶対に失敗できない指示だった。しくじれば殺される。それは確定事項だった。


 ミリアと5つの希望は互いに距離を空けて魔王城に向かっていた。ミリアは5人を巻き込まないために、5人はミリアの力を見極める為に距離を空けていた。ミリアと5人の利害は一致していた。月読が5人の会話を解析し、人族の言語を取得した事を告げてきた。結果、ミリアは5人が何を話しているのか理解できるようになった。

 そして、魔王城の入り口の扉を開けてミリアが入った直後に、扉が突然閉まった。距離を空けて着いてきていた5人は何も対応できなかった。

 退路を絶たれたミリアに対して魔物は三方から殺到した。それは、統率の取れた襲撃だった。タイミングも完璧だった。それに対してミリアはアサルトライフル、AR99(エーアールナイティナイン)で迎撃した。しかし、圧倒的に敵の数が多かった。橋の時の違って肉薄されていた。

(転送要請、オリハルコンブレード、月光)

(要請受諾、オリハルコンブレード、月光 転送します)

 ミリアの目の前に神の白金オリハルコン制の白金に輝く刀、月光が転送された。ミリアは刀を手に取ると肉薄していた魔物たちを切り刻んだ。

 両手で構えていたAR99は左手で一本で扱い、月光は右手一本で扱っていた。右手で切り刻み、左手で撃ち殺した。ミリアは囲まれていたが、魔物に倒されなかった。四方八方から降り注ぐ攻撃を避けながら魔物を倒していった。このまま消耗戦を続ければミリアは問題なく勝つ予定だった。

 だが、突然、閉じた入り口の扉が破壊された。破壊したのはカノンの白銀に輝く『破壊の斧槍』だった。カノンは扉を木っ端みじんに吹き飛ばした。魔物たちは一瞬だけ、動きを止めてしまった。

 その一瞬でミリアは周囲に居た魔物を皆殺しにし、空間を作った。そこへアベルとジャッカが飛び込んで来た。正直、ミリアは邪魔だと思っていた。この後、ミサイルポットを転送して魔物を壊滅させようと思っていたのだが、二人が入り込んだせいで、それが出来なくなった。ミリアは彼らを巻き込んで魔物を吹き飛ばす事が出来なかった。

「僕が左の通路を担当する!」

「炎の精霊よ。我が剣に宿り給え。グラント、ファイア」

 アベルが詠唱すると白銀に輝く『森羅万象の剣』に赤い魔方陣が浮かび上がり炎の精霊の加護が与えられ剣は燃え盛る炎に包まれた。

「右は俺が担当する。ミリア殿は正面を支えてくれ」

 ジャッカは白銀に輝く決して折れる事のない『信念の剣』と壊れる事のない『守りの盾』を構えて魔物を迎え撃つ体勢だ。

「後ろはワシに任せろ」

 カノンは『破壊の斧槍』を構えて三人の後ろを守った。

「炎の精霊よ、我に力をお貸しください……」

 メアリは黒と赤と緑の色が入り混じった宝玉が付いた白銀の杖『魔女の杖』を媒介に炎の最上級魔法『エクスプロージョン』の詠唱を開始した。メアリの足元に赤い魔方陣が浮かび上がり、魔力のエネルギーでメアリの長い銀髪がたなびいた。

「水の精霊よ、我に力をお貸しください……」

 フランは白と黄と青の色が入り混じった宝玉が付いた白銀の杖『聖女の杖』を媒介に水の最上級魔法『アブソリュートゼロ』の詠唱を開始した。フランの足元に青の魔方陣が浮かび上がり、魔力のエネルギーでフランの長い金髪がたなびいた。

 ミリアは5人を守りたかったが、囲まれている状況下では、守りようが無かった。アベルとジャッカがそれぞれミノタウロス3体と戦っていた。原始的な剣と斧の戦いで、相手の方がリーチもあり、アベルたちは不利だった。だが、アベルは炎を宿した剣でミノタウロス3体を足止めしていた。

 ミノタウロスの大上段からの斧の一撃を華麗に避ける。

「喰らえ、我が必殺の剣!『プロミネンススラッシュ』」

 太陽のプロミネンスの様な軌跡を描いた斬撃がミノタウロスを両断した。ミリアはアベルが強いと認識を改めた。

 一方、ジャッカはミノタウロスと真正面から打ち合っていた。ミノタウロスの斧を盾と剣で受け止めていた。攻撃は出来ていないが、敵の攻撃を完全に受け止めていた。力負けもしていないようだ。ジャッカは巧みに攻撃を受け止め、盾で上手く相手の体勢を崩した。そこへ、カノンの『破壊の斧槍』が打ち下ろされる。ミノタウロスは絶命していた。

 三人は巧みに連携し、前線を構築していた。その間、ミリアは正面の敵の前衛を全滅させていた。ミリアは三人を信じて、言われた通りに正面の敵を殲滅する事にした。前衛を失った魔物たちをアサルトライフルで攻撃し、さらに十数体を倒した。その結果、近距離に魔物は居なくなった。

(転送要請、アンチマテリアルライフル、AMR6)

(要請受諾、アンチマテリアルライフル、AMR6転送します)

 月読が答えた瞬間、ミリアの手からアサルトライフルとオリハルコンブレードが消え、ミリアの目の前に全長2メートルのアンチマテリアルライフルが現れた。ミリアはアンチマテリアルライフルのグリップを右手で握り、片手で振り回し、立ったまま射撃体勢をとり、正面に銃口を向け、引き金を引いた。

 爆音と共に12.7mmの弾丸が高速で射出され、ミリアの左足に銃撃の反動が伝わり足元の床に亀裂が入る。正面の魔物の群れに文字通り穴が開いた。

(転送要請、アサルトライフル、AR99、デュアル)

(要請受諾、アサルトライフル、AR99、デュアル転送します)

 アンチマテリアルライフルが消えて、アサルトライフルが2丁現れた。左右の手で1丁ずつ持ち、アンチマテリアルライフルで死ななかった魔物を2丁のアサルトライフルを舞うように振り回して優雅に魔物を蹂躙していった。

 ミリアが正面の敵を殲滅し後ろを振り返ると、アベルとジャッカは前線を維持していた。

 メアリが唱えた「エグゼ、エクスプロージョン」と。

 フランが唱えた「エグゼ、アブソリュートゼロ」と。

 メアリとフランは同時に詠唱を完成させた。その結果、アベルが足止めしていた魔物の群れに、メアリから発せられた小さな火の粉が高速で飛びこみ、大爆発が起こった。左に居た魔物たちは全て吹き飛んだ。

 ジャッカが足止めしていた魔物の群れには、フランから発せられた小さな氷の結晶が高速で飛びこみ、空間が凍った。右に居た魔物たちは全てが氷像と化し、砕け散って消えた。メアリとフランの魔法でエントランスで待ち伏せしていた魔物たちは全滅した。

「すまない。救援が遅れた」

 アベルは申し訳なさそうに言ってきた。この時、アベルはミリアがアトランティス語しか話せないと思っていたが自分たちの言葉で謝罪していた。アベルは言葉は通じなくとも言いたいことは分かるだろうと思い、そうした。

「救援は必要なかった」

 ミリアはアベルの気持ちを理解せずに淡々と彼らの言葉で事実を告げた。

「僕の言葉が理解できるのか?というか僕たちの言葉で話せたのか?」

 アベルは騙された気分になった。

「誤解している。私は先ほどまであなた達の言葉を理解できなかったし、話す事も出来なかった。でも、あなたたちの会話を聞いているうちに話せるようになった」

 ミリアは抑揚のない機械的な回答をした。

「そうか、あんた頭が良いんだな」

 アベルは、ミリアの言った事を素直に信じてそう答えた。

「確かに、あんた一人でも魔物を殲滅できたかもしれない。でも、僕たちが協力したら楽が出来ただろ?」

 アベルの言った事をミリアは否定出来なかった。

「確かに、面倒な処理が減った。でも、あなたたちは脆い。出来れば死んでほしくないから帰って欲しい」

 今まで言わなかった事をミリアは告げた。

「優しいのは結構だけど、覚悟を決めて戦場にいる戦士にそういう気遣いは無用よ。生き残って欲しいという思いは嬉しいけど、あたしたちは死を覚悟してここに居るの、目的を達成する為なら命を投げ出すことを惜しみはしない。それに、私たちの強さも証明したつもりだけど?」

 メアリは自分の魔法に絶対の自信があった。大軍相手でも魔法を詠唱出来る時間さえあれば倒せると思っていた。自分とフランこそが『一騎当千のつわもの』だと思っていた。

「確かに強いけど、魔王を倒すのにあなたたちの協力は要らない。私一人で十分、だから帰って」

「ふざけんな!こちとら人族の命運をかけてはるばるやって来てんだぞ、自分より強いやつがいたからって、はいそうですかって帰れるとでも思ってんのかよ!」

 メアリはミリアに対して怒りをあらわにしてそう言った。アベル、カノン、ジャッカは肝を冷やしていた。ミリアの不興を買って戦闘になった時、誰も勝てないと思っていたからだ。

「すまない。そういう感覚は理解できない。命は大事だし、与えられた使命タスクは達成できないのなら、早めに報告アラートを上げて、出来るものに委譲するのが最適だと思っていた」

 それはミリアの感覚だった。具体的な記憶は無かった。でも、仕事をする上で、そうすべきだと思っていた。

「あなたは命が惜しくはないのですか?」

 ミリアはメアリの気持ちを知りたかった。

「命は惜しいに決まってる!でもね~。あたしたちは命を賭けて使命を果たしに来てるんだ!使命を果たして帰るか、死んで朽ち果てるしかないんだよ!」

「他のみなさんも同じですか?」

「もちろんだ」

 アベルはミリアの眼を真っすぐに見て答えた。

「無論じゃ」

 カノンは静かに言った。

「俺もそうだ」

 ジャッカは真面目に同意した。

「私は~。魔王を~倒しに来たのです。それをせずに~帰る事は~できません」

 こんな時だけはフランは天然を発揮しなかった。

「そうか、すまなかった。もう、帰れとは言わない。ともに魔王を倒そう」

 ミリアは5人の覚悟を聞いて、共闘する事にした。

「ありがとう。足を引っ張らないように頑張るよ」

 アベルはそう言って微笑んだ。

「あんたのその武器の即効性と殲滅範囲に比べたら、時間もかかるし隙もあるけど、詠唱が完成すれば多くの魔族を倒せるんだ。悪くないだろ?」

 メアリは、機嫌を直して自慢げに言った。

「確かに時間はかかるが、元手が必要ないという一点においてあなたの魔法は私の武器より優秀だ」

「あんたの武器、何か制限があるのか?」

「私の武器には使用制限がある。今は、1万年前の文明が残した物資を使っているが、その数には限度がある。このまま行けば私はオリハルコンブレード以外の武装が無くなる」

「そうか、なら貸しが作れるな、あたしの魔力は時間と共に回復する。あんたが武器を温存出来るなら、あたしらが協力する事に意味があるな」

 メアリは恩着せがましく言っているが、ミリアが不利な状況にならないように協力出来る事を喜んでいた。そんなメアリの気持ちを感じ取りミリアは嬉しく思っていた。ミリアはメアリは口は悪いが悪いやつではないと思った。

「それは、間違っていない」

 ミリアが肯定すると、メアリは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、決まりだ。あんたの強力な武器を温存するために、あたしらを利用しな」

「分かったでも、一つだけ、約束して、私が敵の攻撃を受けそうになった時、私を守らないで」

 ミリアは彼らを生かして帰りたかった。だから、彼らが死ぬ要因を少しでも減らしたかった。

「その約束をしても良いけど、一つだけ聞かせて、あなたは古代兵器神威なの?」

「古代兵器神威?」

「1万年前に作られた人型の対魔族殲滅兵器の事よ」

「それが、古代兵器の定義なら、私は古代兵器に該当する」

「分かった。約束する。あたしらはあんたを守らない」

 メアリはミリアが死なない事を確信した。魔法の影響を一切受けない神の白金で作られた対魔族用の決戦兵器が、1万年の時を超えて動き出したのだ。彼女は守る必要が無い。彼女を倒せる者など存在しないのだ。

「他のみんなも約束して」

「分かった」「まあ、いいじゃろう」「騎士としては不本意だが、貴殿は俺より強い。だから、守らない」「私は~、逆に守ってもらう立場なので~、ありえません」

 全員が同意した。

「では、魔王バグスを倒す為に進みましょう」

 ミリアが目標に向かって進もうとした時、メアリが発言した。

「待って、今から魔法でバグズの居場所を特定するから」

「その必要はない。すでに居場所を特定しているし、その場所への行き方も分かっている。だから、ついてきて」

「え?どうやって、特定したの?」

「最初から分かっていた」

 月読がどうやってバグスの居場所を特定したのかは知らなかったが、目覚めたときからバグスの居場所は分かっていた。

(ねぇ、月読、どうしてバグスの場所を知っているの?)

(簡単な理由です。アーカイブは1万年の間に起こった出来事を全て記録しております。文明崩壊後も神の白金制の観測装置は外部情報を記録していたのです。ですので、現在、人族の脅威となる魔王の位置を観測済みなのです)

「まあ、ミリアが言うのなら確実な情報だね」

 メアリがミリアを信頼した事で、他の四人もミリアの言葉を信用した。


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