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古代兵器ミリア  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
シナリオ1 孤独な支配者
19/19

開戦前夜

 アーカイブの記録を見た後で、ミリアは魔族と対話する必要があると感じた。だから、魔族の領地に足を向けた。

 村から東に山の中を進んでいくと平野に出た。そこではオークとミノタウルスが草を食っていた。それらはミリアを見ても襲ってこなかった。なので、ミリアも特に何もせずに進んでいった。

 暫く進むとアーカイブレポートの映像に出てきた草木で作った粗末な家があった。そこには蛇人が居た。女性の蛇人と子供の蛇人だった。彼らはミリアを見ると腰を屈めて頭を垂れた。

 他の蛇人たちも同じようにしていた。ミリアは蛇人たちが襲ってこなかったので、攻撃をしなかった。対話が出来るのなら、そうしようと思っていた。だが、誰もミリアに話しかけずに頭を垂れていた。

 ミリアは蛇人の一人に話しかける。

「どうして、かしずいているの?」

 ミリアの問いに蛇人は答えなかった。理由はその蛇人が人族の言葉を知らなかったからだが、ミリアはそんな事を知る由もない。なので、ミリアはとりあえず東に進んでいった。村を一つ越え二つ超えた時に、目の前に蛇人の戦士が立ち塞がった。

 蛇人の戦士は武器を持っていなかった。なので、ミリアも攻撃はしなかった。蛇人の戦士はミリアに腰を屈めて頭を垂れた。

「お待ちしておりました。ミリア様」

 蛇人の戦士は人族の言葉でそう言った。

「待っていた?」

「はい、魔族の慣習なのですが、領主を倒した者が次の領主となります」

「そう。じゃあ、ここは私の領地なの?」

 ミリアはいつものように無表情で淡々と問いただした。

「その通りです。必要であれば、領内を案内いたします」

「あなたたちは私が領主で良いの?」

「それが、魔族のルールですから、それにここまでの道中でミリア様を襲ったものはおりましたか?」

「いいえ、でも何で私が領主になったことを知らせなかったの?」

「知らせに行くのが怖かったのです。あなたは強すぎた……」

「そうね。それで、領主になったら何が出来るの?」

「領内の事であれば、全てあなたの望むように変えて頂いて構いません」

「分かった。まずは蛇人の生活と領地の範囲、それに魔族の言葉を教えて」

「畏まりました」


 ミリアは蛇人の生活について学んだ。案内されたのは草が覆い茂った草原だった。そこにはオークとミノタウロスが居た。

「ここはオークとミノタウルスの牧場です」

「牧場?」

「ええ、奴らは草を食って繁殖します。定期的に間引いてそれを食料としています」

「それは、蛇人だけ?」

「いいえ、魔族は基本的にオークとミノタウルスを主食としています。例外は魔人と悪魔です。彼らは農耕も行っているので、穀物も食べます」

「魔物じゃないと食べれないの?」

「いいえ、牛や豚も食べれますが、動物は魔物が食べてしまうので、我々の領域では繁殖しにくいですね」

「なるほど」

 ミリアは、弱肉強食の摂理で動物が魔物に淘汰された事を理解した。

「魔物の食事量と繁殖速度、動物の食事量と繁殖速度、どちらが効率が良いか分かる?」

「いいえ、私どもには分かりません」

(ミリア、質問を変えてください。この草原で1年間に取れるオークの量とミノタウルスの量を聞いてください)

「じゃあ、この草原で1年間に取れるオークの量とミノタウルスの量は?」

「オークが百頭、ミノタウルスが20頭です」

(それならば、同じ面積で豚も牛も2倍以上取れます)

「その頭数なら、魔物を処分して豚や牛を飼った方が効率がいい。今すぐにという訳ではないが準備ができ次第、入れ替えていく」

「畏まりました」

「ちなみに、人族の扱いはどうなっている?」

「奴隷と食料です」

「奴隷には何をさせているの?」

「主に家事全般です。多いのが料理です。人族の料理は蛇人に好評です」

「人族の料理という事は、穀物や野菜も食べれるの?」

「ええ、蛇人は雑食です。ですが、肉以外の食べ物を美味しく料理が出来ません。なので、肉ばかり食べています」

「なるほど、分かった。奴隷を開放しろと言えば蛇人は従うのか?」

「あなたの領内のものは従いますが不満には思うでしょう」

「では、代わりに代金を支払って、人族の店で食事が出来るという提案は?」

「それならば、反対も少なくはなります」

「分かった。それも出来るだけみんなが納得する形で法案をまとめる」

「法案?」

「私の国では、法律が全てのことわりに勝る。例え王であれ、私であれ、法律の前では平等だ」

「それが、あなたの国なのですか?」

「そうだ。不服か?」

「いいえ、魔族のルールはシンプルです。領主がルール。なので、あなたが決めた事がルールになる」

「その慣習は改める事は可能か?」

「前例がありませんので何とも言えません。ただ、魔族は強者に従う。それは、共通のルールです。ですから、あなたが最強のまま君臨し、長い年月をかけて慣習を改めて行けば変わる可能性はあります」

「なるほど、分かった」

 ミリアは魔族が人族と異なるルールで生きている事を理解した。その上で教育を行い人族と共存できる道を模索しようと思った。


 ミリアは、蛇人から魔族の言葉を学びエスヌが支配していた領地を掌握した。そして、蛇人の戦士千人を兵士に加えた。蛇人の兵士には領内の防備を任せた。


 国の位置関係を整理すると以下の様な配置となる。

海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海

    白樹人 獅子人     竜人 魔人

鉱石人              魔王城  鬼人

    黒樹人 平野人 ミリア 蛇人 悪魔

海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海


 青髪青眼の白い肌をした美男子、魔人ピサロは自分の居城の執務室で部下の報告を聞いていた。

「今年は豊作でした。ピサロ様の計画を前倒し出来るでしょう」

「そうか、では書状を二つ」

「二つですか?四つではなく?」

「ああ、二つで十分だ」

「畏まりました。準備いたします」

 ピサロは1年待った。魔王バグスが倒れてから1年、いや魔王バグスが百年前に戦争を起こしてからずっとピサロは準備をしていた。そして、その準備は整った。今度はピサロが魔王となる。その為の全てが整っていた。兵力に食料、それに根回しと情報、ピサロには勝算があった。


 蛇人ラズは執務室でピサロからの書状を受け取っていた。内容は、共に悪魔リリスを討とう。領地は分割するという内容だった。正直言って提案に乗るメリットが無かった。だが、今は事情が違った。領内に化け物が居た。それを排除するために、ラズはピサロに恩を売る事にした。

 ピサロに恩を売って、竜人ベリルと鬼人ローズを説得し、あの化け物を倒してもらう。そう考えた。リリスには悪いが人族と同盟を結んでいるような裏切り者は淘汰されるべきなのだ。


 ピンク色の髪と瞳、透き通るような白い肌の妖艶な美女リリスは執務室でピサロからの書状を読んでいた。

「正気なの?まだ1年しか経ってないのに……」

 ピサロからの使者はリリスの言葉にこう返した。

「降伏なさいますか?」

 リリスは怒る事なく使者に言葉を返す。

「降伏はありえないわ。だって、一騎討を行えばリリスが勝つんですもの。それで、ピサロはリリスと一騎打ちをしてくれるのかしら?」

「いいえ、主は総力戦を希望しております」

「やっぱりね。良いわ。相手してあげる」

 リリスは最初からピサロが一騎討に応じないことを知っていた。なぜなら、破壊魔導士ピサロは大規模殲滅魔法は得意だが、一騎討は苦手としていた。

「では、その旨、主に伝えます」

 使者は、そう言い残して去っていった。

「さて、どうやって一騎討に持ち込みましょうかね~」

 リリスは悩んでいるかのような独り言を言ったが、勝算はあった。同盟国に最高の援軍を求めるだけでいい。幾度も戦場で苦戦を強いられた愛しの勇者が来てくれるのだから……。


 金髪碧眼のアーサー王は執務室で青髪青目マーリンと共にリリスからの書状を読んでいた。

「短い平和だったな」

 アーサー王が執務室の椅子に座った状態で椅子の肘掛けに右腕の肘をつけて拳で右頬を支えた状態でため息交じりにそう言った。

「想定外ですね~。魔人ピサロがこんなにも早く動くなんて……」

「仕方ない、アベルを呼んで行かせるしかあるまい」

「では、私も行きましょう。上手くいけば、ミリアを味方に引き込むことが出来るかもしれません」

「勝算はあるのか?」

「勇者殿の友情パワーに期待するしかないですね~」

「まあ、元手が掛からないのならダメもとでやってみるが良い」

「ええ、ダメもとでやってみますとも」


 ニイガタ村では害獣退治も終わり、田畑の整備もして新しい種を撒いていた。何の前触れもなくアベルとマーリンが村にやって来た。ミリアがニイガタ駅で出迎えるとアベルは開口一番こう言ってきた。

「ミリア、戦争が始まる」

「なにが、あったの?」

「魔人ピサロが悪魔リリスに宣戦布告した」

「魔族同士の戦いなら、何も問題ないと思う」

「それが、リリスとは同盟を結んでいるから、僕が援軍として向かう事になった」

「そう、それで何でここに?」

「君の手を借りたい」

 アベルの提案に対してミリアは協力するメリットを思いつかなかった。アベルには友情を感じているが、ミリアにとって一番優先すべきは文明の復興なのだ。それ以外は必要が無ければ何もするつもりは無かった。

「この村にメリットはある?」

「ない」

「なら、私は手伝えない」

「そうか、分かった」

 アベルはミリアが手伝ってくれるとは思っていなかった。この戦争にミリアは関係が無いのだ。

「そう言えば、ここから南に港町を作っていると伺っているのですが完成はしたんですか?」

 マーリンがミリアに確認した。

「完成はしているけど、人は住んでいない」

「なるほど、なるほど、でも港としては使えるのですよね?」

「使える」

「ダイヤモンドキングダムの補給の中継基地に利用したいと思うのですが、よろしいですかな?」

「それは構わない。ただし、ちゃんと対価は支払って」

「ええ、対価はきちんと払いますとも」

 ミリアが作った港は蛇人の悪魔の領地に行く際に補給基地として丁度いい位置にあった。だから、マーリンとしては寄港し、食料と水が補給出来れば、それだけで良かった。

「ちなみに、港町の名前は?」

「デジマ町」

「変わった名前ですね」

「何か、問題でも?」

「いいえ」

 マーリンはミリアのネーミングセンスがどこから来ているのか興味が沸いた。古代アトランティス文明の名残なのか、それとも別の何かなのか知りたいと思っていた。

「ただ、その名前は、どこから取ったものなのか気になりまして」

「私にも分からない。ただ、思い浮かんだとしか言えない」

「そうですか……」

 マーリンは理由が分からなくて少し残念だと思いながらも、それ以上聞かなかった。


 勇者アベルと魔法使いマーリンは1万の兵を従えて、王都アヴァロンを出発した。そして、船で港町ブライトンから出港しデジマを経由し、悪魔の国の港町ナポリに船を泊め、悪魔の国の首都コキュートスにたどり着いた。

 リリスの居城に勇者アベルと魔法使いマーリンが兵士を従えて入城した。兵の数は1万だった。謁見の間でリリスは玉座からアベルとマーリンを出迎えた。

「要請に応えてくださり、とても嬉しく思いますわ。愛しの勇者様」

 妖艶な笑みを浮かべてリリスは視線でアベルを誘惑する。

「同盟国である貴国を助けるのは当然の事です」

 アベルは誘惑には乗らずに答える。

「それで、敵の軍勢の規模は?」

 マーリンは戦いに必要な情報を得ようと質問をした。

「敵は、魔人が5万、蛇人が3万よ」

「蛇人も敵に回ったのですか?」

「そうみたいなの~。ほ~んと困っちゃうわ」

「リリス様の軍勢はいかほどですか?」

「リリスの兵士は3万よ」

「圧倒的に不利な状況ですね~」

「そうなの、だからマーリンちゃん。勝つ方法を教えてくれる?」

 リリスは、マーリンの知恵に期待した。それは、戦場で幾度となく苦戦した戦いの作戦指揮をマーリンがとっていた事を知っていたからだ。戦力で不利な状況を幾度も覆してきた手腕に期待した。

「まあ、中央突破からの一騎討が妥当ですが、こちらの損耗が馬鹿になりません。ここは援軍を呼ぶことにします」

「援軍?どこの国から?」

 リリスは人族の国家間の関係を正確に把握していた。魔族に対しては協力して対処するが、魔族同士の争いに加担する人族の国は無いはずだった。

「アトランティスという国です」

「それは1万年前に滅んだあなたたちの文明の名前でしょう?」

「ええ、そうです。ですが、その文明の名を冠した国が新たに作られたのです」

「どこに?」

「蛇人の国の内部にですよ」

「ふ~ん。面白そうな話ね。ねぇ勇者様~。そのお話聞かせてくださらない。後でリリスの部屋で二人っきりで……」

 リリスはアベルを甘い言葉で誘惑した。

「話をするのは構いませんが、お部屋にお邪魔するのはお断りします。結婚していない男女が密室に二人っきりと言うのは良くない噂が立ちます」

「あら?リリスは立っても構わないわよ?」

「僕が嫌なのです。あなたに対して全ての責任を取る覚悟が無い状態で、あなたの名誉を汚したくはない」

「あらあら、嬉しいわね。リリスの為に断るというの?じゃあ、勇者様がリリスを好きになってくれるように頑張るわ」

 こうして、アベルはリリスにアトランティス共和国の事を伝え、マーリンはミリアに再度、援軍を頼むためにデジマ町に向かった。

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