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古代兵器ミリア  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
シナリオ1 孤独な支配者
17/19

束の間の平和

 ミリアはアベルの執務室にいた。黒髪のミリアと赤髪のアベルの他に水色の髪と目をした美少女がいた。髪は真っすぐなストレートで、少女に水の様に透き通った印象を与えていた。少女の名はビビアン、マーリンの弟子にしてアベルの補佐官だった。

「では、ミリア様の要求を確認します」

 水の様に静かで落ち着いた話し方でビビアンはミリアに話しかけた。

「はい」

 ミリアはいつもの無表情で淡々とした話し方で答えた。

「まずは、春から秋にかけて収穫できた農作物の売却ですね」

「はい」

「それは、喜んで買い取らせて頂きます」

「それは、国が?」

「ええ、魔族との戦争で食料が不足しているので適正価格で買い取らせて頂きます」

「ありがとう」

「次は、塩と砂糖の購入ですね。こちらは王国経由ではなく、直接商人と交渉してください。一回目の商人との交渉の場はこちらで設けますが、二回目以降は直接商人とやり取りしてください」

「分かった」

「それと、カスター領内への線路の敷設の件ですが、こちらに費用が発生しない限りにおいて設置して頂いて構いません。既存の村の民家や畑に設置する必要がある場合は、持ち主と直接交渉して問題解決してください」

「分かった」

「最後に、職人など必要な人材は、王都で募集する方法をお教えしますので、お好きに募集してください」

「分かった」

「何か、ご質問は?」

「ない」

「では、本日の説明は以上になります。商人との交渉や王都での手続き方法に関しては後日、改めて予定をお伝えします」

「分かった」

 こうして、ミリアは村の発展に必要なものを手に入れた。

「後で、そちらの村を視察させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 ビビアンは、マーリンから密命を受けていた。ミリアの村から技術を盗むという密命だった。だから、友好的な内にミリアと親睦を深めるつもりでいた。その為にミリアの要望は出来るだけ聞き入れている。もちろん、アベルからの依頼でもあるので当然の事なのだが、村の視察を受け入れてくれるかは未知数だった。

「村人に危害を加えない。武器の類は持ち込まない。村のものを勝手に持ち帰らない。これらを約束できるのなら、いつ来ても構わない」

 ビビアンは提案を受け入れてもらえたことを喜んだ。だが、条件を確認しなければならなかった。

「それは、勇者アベル様以外の人でも?」

 これは、重要な事だった。ルールさえ守れば誰でも出入りできる。その方がダイヤモンドキングダムにとって都合が良かった。

「私は民間レベルの交流も深めたいと思っている。だから、問題ない」

 ビビアンは自分の密命を果たす足がかりを手に入れた。そして、ミリアは民主共和制を広めるための手段を手に入れた。

「そうですか、こちらとしてもミリア様と仲良くしたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします」

「うん」

 会議ではアベルは最初の挨拶以外何もしゃべらなかった。交渉事はビビアンに一任していた。何をしたらダイヤモンドキングダムの為になるのか分からなかったし商品の取引などは全く分からなかった。アベルは剣を振るう事しか出来なかった。


 会議が終わった後で、ビビアンは部屋を退出した。部屋にはミリアとアベルが残った。

「アベル。あなたが居たおかげで、私はダイヤモンドキングダムと戦争しなくて済んだ。改めてありがとう」

 ミリアは、アベルに礼を言った。ミリアはクズドに無断で村人を移住させたことは悪いと思っていた。そのせいで戦争になりかけたのだが、アベルがアーサー王との仲を取り持ってくれた。

「いいや、こちらこそありがとう。君が矛を収めてくれなければ僕は死んでいた」

 アベルは、ミリアが村人をクズドから奪った事を知らない。だから、単純にミリアが自分たちを許してくれたと思っていた。

「そうならなくて良かった」

 ミリアは、全てをアベルに話すつもりは無かった。

「近いうちに、君の村へ行く事にするよ。今度は君が僕を案内してくれ」

「分かった。約束」

 ミリアは無意識に右手の小指を差し出した。それを見てアベルは困惑した。ミリアがどうして欲しいのか分からなかったからだ。そして、小指を差し出したミリアも困惑していた。無くした記憶の断片がミリアの脳裏に浮かんだ。

 顔は分からないが大人の女性が、ミリアに語りかけてくる。

「いいかい、本を読んだら、あの場所に戻すんだよ。約束出来るかい?」

「うん」

「じゃあ、小指をこうやって出して」

 女性は右手の小指を立てていた。小さな手が、同じように小指を立てた。女性は小さな小指に女性の小指を絡ませた。

「おんなじ様に言うんだよ」

「うん」

「ゆ~びき~りげ~んまん……」

 ミリアは小さい頃の記憶を思い出した。普通の女の子だった。普通の家庭に生まれて、普通に育っていた。特に大きな病気も無く健康に育っていた。自分の名前が九院くいん静香しずかだったと思い出した。だが、それ以上は思い出せなかった。そして、どうして感情が欠落しているのかも分からなかった。

 喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、それらの感情が希薄だった。子供のころはよく笑っていた。今は無表情だ。それは、この体のせいなのかもしれないとミリアは思った。

「ごめん。何でもない」

 ミリアは右手を引っ込めた。

「そうか」

 アベルは何も聞かなかった。


 数日後、アベルは約束通り、ニイガタ村に来ていた。アベルの他にビビアンと複数の商人も同行していた。

「ここが、村」

「すごいな、立派な家だ」

 ミリアの簡潔な説明にアベルが驚きと共に感想を述べている。

「これは、水路」

「王都のものに比べても遜色が無いな」

「これは、堤防」

「こんな立派な堤防は初めて見る」

「ここは田んぼ」

「なんて広さだ!」

 アベルは大げさに驚き褒めちぎっていた。そんなアベルを見て、ミリアは少しだけ楽しいと感じていた。

 一方、ビビアンは少し落胆していた。科学技術を見に来たのに、見れたのは出来の良い村だけだった。ビビアンは時々見かける整備用のロボットが科学技術の結晶なのだと理解していたが、持ち帰らない約束なので手出しできなかった。

「あと、この川の下流に港町を作っている。完成したら知らせる」

「そうか、それは楽しみだ」

 アベルは満足していた。ミリアが願った科学技術の復活が進んでいると思った。商人たちはミリアの村は金になると認識した。新たにできる港町も商売のチャンスととらえた。視察はミリアにとって有益な結果になった。


 それから秋まで平和な日々が続いた。カスター領内への線路の敷設も完了した。沿線の途中で畑や家があった場合、持ち主と交渉し、別の場所に倍の大きさの家や畑を作る事で土地を確保していった。

 農作物は順調に育ち、収穫物はお金になった。収穫物を運ぶ際に、線路は大いに役立った。そのお金で村に必要なものを買いそろえた。そして、カインからミリアに提案があった。

「ミリア様、収穫祭を開きましょう!」

 カインは熱くミリアに提案した。

「良いよ」

 ミリアは淡々と答えた。村に作られた集会場に村人が集まり、料理を持ち寄って収穫祭という名の宴会が行われた。上座にはミリアが座らされて、豪華な料理が並べられた。別にミリアは食べなくても問題ないのだが、カインが収穫祭はみんなで飲み食いするものだと熱弁し、ミリアも食べる事になった。

「え~、では、この村初めての収穫も無事に終わった。みんな良く働いたし、天気にも恵まれた。これもひとえにミリア様のお陰」

 カインが熱く語っている。すでに酒を飲んでいた。

「天気に関しては何もしてない」

 ミリアが静かに突っ込みを入れた。

「それでも、ミリア様のお陰です!」

「カイン、もう出来上がってんのか~」

 村人の一人がカインをからかう。

「酔ってねぇ!俺は酔ってねぇぞ!」

 カインが否定するが、誰も信じなかった。

「分かった。分かったから、さっさと始めよう」

「応!じゃあ、今年一年の豊作を祝して乾杯!」

『乾杯!』

 宴会が始まると、ミリアは目の前の料理を口に運んだ。最初に食べたのは白米と味噌汁だった。村の女性が作った手作りの料理を食べた時、子供のころの情景が脳裏に浮かんだ。ミリアは何となく温かい気持ちになった。 

 酒も置いてあった。それは、村で作ったものではなく買ったものだった。酒を飲み料理を食べて、村人たちの会話を聞いていると、スーツ姿で楽しく会話している記憶が蘇った。それは、新入社員の歓迎会だった。そこで、同じく入社した同僚たちと夢を語り合っていた。一流のデザイナーになる。それが、静香の夢だった。

 収穫祭は楽しい雰囲気のまま終了した。


 港町は完成したが、住人はまだいないし、航路も決まっていなかった。ミリアは王都に出向いてビビアンに教えられた方法で商人を探した。その方法は、冒険者ギルドに求人を出すというやり方だった。

 冒険者ギルドには様々な職業の人族が集まっていた。魔物の討伐、薬草の調達、旅の護衛、様々な求人情報が掲載されていた。

 ミリアの募集に複数の商人が申し込んで来た。ミリアは港町の位置を知らせた。そして、港で調達できる商品を伝えた。主に食料だが、今後ニイガタ酒という日本酒を特産品として売り出すことを伝えると商人たちは満足げに笑った。本格的な貿易は来年以降になるが、その準備は整った。


 村では収穫した米で酒造りを始めた。酒蔵を建造し、村人たちに酒の作り方を説明した。鉱石人こうせきびとの国アイアンキングダムで酒のメニューを見た時、米で作られた酒は存在しなかった。だから、ミリアは日本酒を作って特産品にしようと考えた。


 村を作ってから2年目の12月31日が来た。1年目は一人で雪を眺めていた。今は、20人の村人たちと集会場で宴会を開いている。上座に座り神様の如く扱われているが、村人たちの楽しい会話や美味しい料理と美味しいお酒、静かだった1年前とうって変わって賑やかな大晦日だった。

 ミリアは願った。こんな日々がずっと続くようにと……。年が明けてから1月10日にミリアはある事を決める為に村人を集会場に集めた。

「これから、毎年、この国の代表を決める」

「それは、ミリア様なのでは?」

 カインが発言したが、他の村人たちも同じように考えていた。

「今は、そう。でも、今後は違う。国の代表は選挙で決める」

「分かりました。ミリア様がそうしたいのであれば従います」

「では、立候補したい人」

 ミリアが質問するが誰も手を挙げなかった。

「では、不信任投票を行います。この紙に、各自、私がこの国の代表に相応しいか、相応しくないか書いて、この箱に入れてください」

 ミリアは村人に紙と羽ペンとインクを渡した。これらは商人から買ったものだった。

「すみません。ミリア様。俺たち文字が書けません」

「分かった。〇か×を書いて出して」

「分かりました」

 投票の結果は〇が20票だった。

「では、引き続き私が代表を務めます」

 村人たちは拍手で歓迎した。

「ちなみに、国名はなんて言うんです?」

 カインが質問した。

「アトランティス、首都はニイガタ」

「なんか、良い響きですね」

「うん」


 ミリアは村に学校を作った。目的は村人の教育だった。文字の読み書きは文明の基礎だと思っていたので、選挙の時に文字を書けないと知って、冬の間に色々教える事にした。まずは文字の読み書きと基本的な算数を教える事にした。

 村人たちは苦労しつつも恩人であるミリアの教えを真剣に聞いて、文字の読み書きができるようになった。


 春に備えて、農具の整備の為に鍛冶屋と熊などの害獣対策の為に狩人を雇う事にした。それぞれ、家を作って王都で求人広告を出すと、鍛冶屋には鉱石人こうせきびとが、狩人には黒樹人くろきびとがやって来た。村に鍛冶屋と肉屋が出来た。村人たちの生活が向上した。


 3月になり、そろそろ雪が解けるころ、カインに子供が生まれた。名前をエノクと名付けた。

「ミリア様、どうです。可愛いでしょう」

 カインはエノクを抱いて、ミリアに見せに来ていた。ミリアがエノクに触れようと右手を伸ばすとエノクはミリアの小指を握った。その小さな手を見てミリアは温かい気持ちになった。エノクの他にも4人程、子供が生まれた。 

 

 3月も終わりになるころにミリアの視界に『アーカイブレポート』と表示された。

「月読、アーカイブレポートって何?」

「それは、1万年前の記録です。人族と魔族がどのようにして争う事になったのか経緯がまとめられています」

「見るにはどうしたら良いの?」

「いつものように選択して頂ければ表示されます」

 ミリアが意識で選択すると、一覧画面が表示されていた。ただし、最初の1行だけ文字が表示されていて、他の行は『?????』と表示されていた。

「見れるのは最初のだけ?」

「はい、これは文明の復興度合いに依存して開示されていきます」

「なぜ?」

「イザナギ博士が、文明の復興をする時に、目的が無いと退屈だろうと細工したようです」

「そう。じゃあ、レポートを全部見るためにも文明復興を頑張る」

 ミリアは最初のレポート『発端』を選んだ。ミリアの視界に映像が流れ始める。


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