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古代兵器ミリア  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
シナリオ1 孤独な支配者
16/19

滅びの歌

 アーサー王が馬から降りてミリアに話しかける。

「うちの領主が独断でそちらに攻撃した事は謝罪しよう。どうか水に流してくれないだろうか?」

「構わない。だが、また武装した兵士が来た場合は警告なく殺す」

「分かった。だが、もうそんな事は起こらない。この領地をアベルに任せることにした。それなら君も安心だろう?」

 アーサー王の言葉をミリアは少しだけ嬉しいと感じていた。

「それなら、安心」

 いつもの無表情で抑揚の無い言葉だったが、嬉しそうにしているのがアーサー王とアベルに伝わった。

「必要なら交易も行っても良い。ミリア殿の国との関わり方はアベルに一任する。必要だと思う事をせよ」

「畏まりました」

 アベルはそう言って片膝をつきアーサー王に頭を垂れた。


 クズドが使っていた領主の執務室にアーサー王とマーリンとアベルが集まっていた。アーサー王が椅子に座り、マーリンとアベルは机を挟んで立っていた。

「あの、僕に領主が務まるのでしょうか?」

「ああ、心配しなくても大丈夫ですよ勇者殿、優秀な補佐を付けますので」

 アベルの不安にマーリンは笑顔で答えた。

「そうですか、じゃあ僕は何をすれば?」

「ミリア殿と友好関係を継続してもらえれば十分ですよ」

「そうですか、分かりました」


 アーサー王はアヴァロンに帰還し、自分の執務室でマーリンと話していた。

「さて、これからどうなる?」

 アーサー王の問いにマーリンはニコニコしながら答えた。

「勇者殿を通じて、ミリアの技術を盗みます。そして、十分な国力を付け、ミリアを倒せる算段が付いたら一気に国を奪います」

「上手く行くと思うか?」

「行かなければ国が滅びます」

「その言い方だと人族は滅びないという訳か……」

「その通りです。滅ぼされるのは我々既得権益を持っている人族だけです」

「そうならないように出来るだけの手は打っておけ」

「もちろんですよ。私とあなたは一蓮托生なんですから」

「ミリアを倒す手段はありそうか?」

「さて、どうでしょうね。魔法が効かないとなると勝つ手段は限られますが、ジャッカ殿とカノン殿がカギになりそうですね~」

「彼らを呼んで何をすればいい?」

「とりあえず。勇者殿を交えて情報交換しないといけませんね」

「分かった。要請は余の名で出そう」

「そうして頂けると助かります」

 マーリンはミリアを打倒するつもりだった。倒すだけで殺したいわけではない。力で屈服させ、持っている知識を奪うのが目的だった。


 蛇人の領主エスヌは執務室で帰還した兵士の報告を聞いていた。

「魔法が効かないだと?」

「はい、そればかりかこちらの対物理障壁を無効化されました」

「しかも、一人だけでは無かったと?」

「はい」

「よく知らせてくれた。この報告をラズ様にもしてくれ」

「畏まりました」

「私は自らの軍勢を率いてミリアを討つ、もし私が討ち取られたのなら魔族の慣習に従うように皆に伝えてくれ」

「御意」

 エスヌは自らの兵を率いてミリアの実力を測る事にした。その結果を蛇人の英雄、邪神官ラズに知らせる事を自分の使命とした。ミリアに勝てるとは思っていない。魔法が効かない相手をどうやって倒せばいいのか分からなかった。

 だが、考える事は出来る。自分たちが持っている武器を総動員して、魔法が効かない相手を倒すための戦法を編み出す。その上で、ミリアに挑むのだ。


 平野人の国、ダイヤモンドキングダムと和睦がなったので、ミリアはニイガタ村に戻っていた。アベルとの打ち合わせはアベルの準備が整ってからとなった。

 ニイガタ村の村長カインは、ミリアから事のあらましを聞いた。

「やはり、クズドは我々を逃がすつもりは無かったようですね」

「カインの言う通りだった」

「それにしても、アベル様が新しい領主になられたのなら、きっと良くなって行くでしょう」

「戻りたい?」

「いいえ、俺はこの村が気に入ったんです。他の連中も同じ気持ちですよ。だから、戻りません」

「ありがとう」

 ミリアは無表情ながらもカインの答えを嬉しいと感じていた。

「ただ、気がかりが一つあります」

「なに?」

「蛇人に見つかったって事は戦争になりますよね?」

「大丈夫、私は古代兵器、魔族を殲滅するために作られている。敵が大軍で押し寄せても殲滅して見せる」

「信じますよ。実際にあなたが人並み外れた身体能力を持っているのは知っていますからね」

 カインはミリアを信じていた。この無表情な少女がきっと、世界を変えていくのだと……。


 蛇人のエスヌは自らの兵士2千と共に山中を進んでいた。接近を許せば魔法は無効化され致命傷を受ける。だから、出来るだけ接近させずに戦う事を想定して武器を選んだ。武器は鋼鉄の投擲槍だった。兵士1人当たり10本、それが無くなったものから撤退する。

 魔法は攻撃魔法を使わずに身体能力の強化に充てる。また、アサルトライフルの対策で事前に対物理障壁を貼っておく、魔力が尽きたら撤退する。撤退するものは出来るだけ戦闘結果を持ち帰り、邪神官ラズに報告する。

 陣形は密集を避け出来るだけ散開し、半包囲体勢から槍の投擲を行い。ミリアの体に物理攻撃が通用するのか検証する。

 これが、エスヌの考えた作戦の全てだった。エスヌ自身は最後の1人になった時、ミリアに一騎打ちを挑むつもりだった。もちろん、拒否されればそれまでだが、エスヌは覚悟を決めていた。


 ミリアはエスヌの接近を感知し、山中を進んで迎撃に向かった。エスヌたちは山中を散開して進んでいた。そこへミリアが一人で駆け付ける。

「放て!」

 エスヌはミリアを見つけた瞬間攻撃命令を下した。散開して森を進んでいる蛇人の前衛500人による鉄の槍の投擲が実行された。蛇人たちの投擲は凄まじかった。魔法で筋力強化を行い、さらに鉄の槍に加速の魔法と粉砕の魔法を加えていた。

 投擲された500本の鉄の槍はミリアに向かって森の木々を粉砕しながら、弾丸の如きスピードでミリアを飲み込んだ。山中の一部が蛇人の攻撃によりハゲ山となった。

 ミリアが立っていた場所には複数の鉄の槍と粉々に砕かれた木々が折り重なっていた。その場所が爆ぜミリアが姿を現す。ミリアはオリハルコンブレードを両手で持っていた。ミリアは投擲された鉄の槍をオリハルコンブレード一本で捌ききったのだ。

(月読、殲滅システムの起動を……)

(畏まりました。殲滅システム『神威』起動します)

 ミリアは自分に連なる999体の兵士『神兵』を認識した。そして、真っ白なマネキンがミリアの周囲に一斉に転送された。

 神兵は最初からアサルトライフル、AR99(エーアールナインティナイン)を左手に持ち銃口を上に向けて直立していた。

(戦闘モードは如何いたしますか?)

(戦闘モードってなに?)

(神兵がどのように戦うのかの設定です)

(前回は無かった)

(前回は動かす神兵の数が少なかったので必要なかったのです。少なくとも100人単位で作戦行動を行う時には必要になります。選んでください)

 月読の説明の後でミリアの視界に戦闘モード一覧が表示される。

 

 滅びの歌:包囲殲滅

 軍神の歌:中央突破

 蹂躙の歌:横陣制圧

 慈悲の歌:無血制圧

 疾風の歌:高速機動

 不動の歌:拠点防衛

 救いの歌:捕虜救出

 死神の歌:無音暗殺


(なぜ歌なの?)

(設計者の趣味です。それと、あなたからの指示を歌に乗せて神兵に知らせるためです)

(そう)

 ミリアは、蛇人を倒す為に『滅びの歌』を選んだ。すると、ミリアの体から音楽が流れ出した。それは、聞く者の心に絶望を刻み込むための音だった。音に合わせて神兵たちが動き出す。その動きは全ての神兵が完全に同期したかのように一糸乱れぬ完璧な動きだった。そして、ミリアの体から歌が流れ始める。

「押し込め、押し込め、神兵たちよ。我らの敵を包囲せよ」

 ミリアの歌は神兵たちへの命令だった。神兵たちはミリアの命に従い自分たちの2倍の数の蛇人たちを半包囲する為に動き出し、横一列に並んだ。

 エスヌたちは『滅びの歌』聞いた。その瞬間、心に恐怖が宿った。だが、エスヌも兵士たちも逃げ出さなかった。エスヌの作戦に従って、ミリアと神兵を倒す為に行動を開始した。

 両軍とも相手を包囲しようと動き始める。

「放て!」

 エスヌの号令で2千本の鉄の槍がミリアたちに殺到する。ミリアは、その鉄の槍を刀で打ち落し、神兵は右手を振るって槍を打ち落した。

「撃て撃て神兵よ。一人残らず撃ち殺せ」

 ミリアの命令で、神兵は一斉に左手のアサルトライフルを水平に構え、同時に射撃した。銃弾は蛇人に命中するが対物理障壁に阻まれる。ミリアはそれを見て即座に接近戦で殲滅する事にした。

「進め進め神兵よ。風の如く前進せよ」

 神兵はミリアの命令で横一列に並んで前進した。その速度は恐ろしいほど速く、蛇人たちは次の投擲を行う前に接近された。

 蛇人たちはミリアたちを半包囲しようと弓の様に弧を描く鶴翼の陣を敷いていた。ミリアたちはその両翼を押し込み、逆に半包囲する為に接近して圧力をかけた。蛇人たちは距離を取る為に後退するが、ミリアたちが前進する速度の方が速かった。

「殺せ殺せ神兵よ。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ」

 ミリアの滅びの歌が、さらに邪悪さを増していく。蛇人の陣の両翼で戦闘とは言えない虐殺が始まった。接近された蛇人は神兵に触れられ対物理障壁を失い、ゼロ距離からアサルトライフルの銃弾を浴びて絶命していく。

 両翼を突破され、蛇人たちは半包囲されていく。エスヌは、このままでは一兵も残らず全滅すると判断し、ミリアに接近して平野人の言葉で叫んだ。

「一騎討を望む、停戦せよ」

 エスヌの言葉を聞いて、蛇人たちは武器を捨てて抵抗を止めた。それを見てミリアも滅びの歌を止めて神兵に攻撃を止めさせた。

「一騎討を行う理由は?」

 ミリアはいつも通りの無表情で抑揚の無い声で淡々とたずねた。ミリアはエスヌが一騎討を望む理由が分からなかった。そもそも何故一騎討を行うのか理由が知りたかった。

「ここで戦いを終わらせたい。これ以上、部下を死なせたくないのだ。だが、降伏はしたくないし、私だけなら君に勝てるかもしれない。だから、一騎討をさせてくれ」

「私にメリットが無い」

「それは、百も承知でお願いしている」

 ミリアはエスヌの気持ちは理解した。ミリアはエスヌにアベルの姿を見た。敵対行動を取った後、問答無用で殺されるかもしれない中、勝てないのを承知で王国の為に単身でミリアに近づいてきたアベルに似ていると思った。

「分かった。私が勝ったら、あなたの部下たちは撤退する。私は追撃しない。あなたが勝ったら?」

 ミリアは微塵も負けるつもりなど無かった。だが、自分に勝つと言っている相手に敗北した時の条件を聞かないのは失礼だと思った。

「私が勝ったら、君の村には手を出さない。これなら君にもメリットがあるだろう?」

 エスヌの提案にミリアは少しだけ笑顔を見せた。

「その条件なら喜んで」

 ミリアとエスヌを神兵と蛇人の兵士が輪になって囲んでいた。神兵も蛇人も沈黙を保っていた。ミリアはオリハルコンブレード『月光』を両手で持ち正眼に構える。エスヌは3メートルの長さの鋼鉄の槍を一振りした後で、槍を両手で持ちミリアをいつでも突けるように構えた。

 両者の間に緊張が走る。エスヌは裂ぱくの気合と共に自身でこれ以上ないという突きを放った。その突きをミリアは圧倒的な身体能力で避けてエスヌの懐に入り、月光を一閃させエスヌの首を刎ねた。

 蛇人の兵士たちはエスヌの最後を見た。エスヌは蛇人の中でも邪神官ラズに近い強さを誇っていた。それが、一瞬で殺されてしまった事に蛇人たちは絶望を抱いた。蛇人たちはエスヌの遺体を回収し静かに撤退した。ミリアは約束通り追撃しなかった。


 邪神官ラズは執務室でエスヌの部下から、ミリアの事を聞いた。

「なるほど、魔法の効かない平野人か……」

 ラズは冷静に考えた。その結果、ミリアに勝てないと結論づけた。

「どう対処いたしますか?」

「対処しようがない。放っておけ」

「よろしいのですか?」

「エスヌが勝てなかったのだろう?私でも勝てない。たぶん、全軍をもって望んだとしても無理だろう」

「攻めてきたらどうするおつもりですか?」

「今、攻め込まれたらどうしようもないな」

「時間があれば何か対策が出来るのですか?」

「鬼人と竜人の協力が得られれば勝てる可能性は残る。だから、今は放っておくしかない」

「畏まりました」


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