表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古代兵器ミリア  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
シナリオ1 孤独な支配者
14/19

ニイガタ村防衛戦

 港町の工事を見ていたミリアに月読が警告を発した。

「グンマ駅に向かっている軍勢が居ます」

「なんで?」

「偽装工作が見破られたのでしょう」

「誤魔化す事は可能?」

「無理です。村人を確認されれば終わりです」

「分かった。食い止める。村へは侵入させない」

 ミリアは、全速力で山を駆けグンマ駅に向かった。


 ミリアは、1人で問題を解決しようとしていた。グンマ駅より先に進ませない。そういう決意で駅で敵を迎えた。敵は徒歩の兵士100人と徒歩の士官クズミゴだった。全員、鉄の鎧と兜を身につけ、剣と槍を持っていた。

 クズミゴは、駅に1人でいるミリアを侮っていた。村人の1人だという認識しかなかった。だから、口から出た言葉はこうだった。

「今から村に戻るなら許してやる」

「私は、村人じゃない」

 ミリアはいつも通りの無表情と抑揚の無い声で答えた。

「じゃあ、なんだ?」

「私はミリア。古代兵器『神威』と呼ばれていたもの。平野人へいやびとじゃない」

 ミリアの答えに、クズミゴは困惑していた。見た目はどう見ても平野人の少女だったからだ。だから、クズミゴはミリアが狂言を言っていると思った。

「じゃあ、証明してみろ。貴様が普通の平野人じゃないという事をなぁ~。あいつを捕縛しろ!」

 クズミゴは兵士に命じた。自分で行かないあたり、父親の性格を受け継いた。クズミゴの命令に従って真面目な兵士たちがミリアを捕縛にかかる。ミリアはここで兵士を皆殺しにするのは簡単だった。だが、それをした場合、平野人と致命的な対立を招くことも知っていた。

 だから、誰も殺さずに制圧するとこにした。ミリアは素手で武装した兵士相手に格闘戦を挑んだ。最初に向かって来た兵士の槍の突きを避けて一気に懐に入り、掌底で兜を右側から打ち兵士を気絶させた。

 次に向かって来た兵士には、地面スレスレの足払いを放って仰向けに転倒させ、みぞおちに掌底を打ち込み衝撃で急所を撃ち抜き気絶させた。

 3人目の兵士には回し蹴りを放ち、あごをかすめ脳を揺らし気絶させた。こうして次々と兵士を気絶させ、瞬く間に全ての兵士を拳打で制圧してのけた。

「これで良い?」

 ミリアの問いにクズミゴは顔をひきつらせた。蛇人じゃじんの2人は平野人の兵士の弱さに呆れていた。武器も持たない少女も満足に制圧出来ないのかと……。だが、ミリアが守っている施設と、その先にあるトンネルには興味があった。

 それは、以前は存在しないものだったからだ。蛇人の兵士は自分の役割が終わった事を理解した。だから、クズミゴに告げた。

「どうやら、平野人同士のいざこざのようだな、我らは関知しない、好きに争うがいい」

 そう言って蛇人の兵士は、ミリアの村を迂回し自分たちの領域に帰っていった。クズミゴはミリアの実力を目の当たりにしても自分が持っている権力を過信し退かなかった。

「おい、良いのか?ダイヤモンドキングダムの英雄王アーサーを敵に回すことになるんだぞ」

 権力者の側に居るものが使う常とう句だが、権力者、またはそれが有する戦力に対して脅威を感じていないものに対しては何の意味も無い言葉だった。

「構わない。アーサー王と勇者アベルが私の敵になるというのなら受けて立つ」

 ミリアは無表情で淡々と語った。それは、自負であり事実であった。アーサー王が自分の権力を手放さないと知った時から覚悟していた事だった。一方クズミゴは覚悟が出来てないかった。ミリアの予想外の答えに、最善の回答をする事が出来なかった。クズミゴに出来る事はただ一つ、全面降伏だけなのだが、クズミゴは判断を誤った。

「殺してやる!」

 クズミゴは100人の兵士を素手で叩きのめしたミリアにたった一人で向かって行った。当然の様に兜越しに掌底を受けて気絶した。


 クズミゴが意識を取り戻した時、ソーン村に居た。他の兵士たちも同様だった。クズミゴの目の前に、木製の看板が立っていた。そこには人族の言葉でこう書かれていた。

「もう一度来たなら次は殺す」

 それは、ミリアからの警告だった。それを見てクズミゴは退却を決意した。自分では対処できない相手だと判断した。


「たった一人の少女に負けただと?」

 クズドは自分の執務室でクズミゴから報告を聞いていた。

「少女ではありません。古代兵器『神威』です」

 クズミゴは強敵に会って敗れたと印象付ける為に必死だった。

「外見は平野人に似ていたのだな?」

「はい、後、ミリアと名乗っていました」

「ミリアか……。なるほど、アーサー王に直訴していたアレか……」

 クズドはミリアがアベルを介してアーサー王に直訴していた事を知っていた。そして、その交渉の結果、ダイヤモンドキングダムはミリアに干渉しないという結論を出した事も知っていた。

 クズドは村人の奪還は正攻法では不可能だと理解した。そして、ミリアに対して正攻法ではなく間接的に嫌がらせをする事にした。それは、蛇人の領主エスヌへの手紙を出す事だった。


 蛇人の領主エスヌはクズドからの使者を自分の執務室に通した。

「蛇人の領主エスヌ様、こちらがダイヤモンドキングダムの領主クズド様からの手紙になります」

 クズドの使者は魔族の言葉でエスヌに伝え、手紙を広げてエスヌに見せた。

「ふむ、読み上げてみよ」

 エスヌの要請に従い使者が手紙を読み上げる。

「貴殿の領内に平野人と同じ外見をしたものが勝手に村を作っている。それはダイヤモンドキングダムの国民ではない。村人を皆殺しにしてもこちらは非難しない」

 クズドの手紙を見てエスヌは笑った。そして、クズドの使者に言葉をかける。

「手紙は確かに受け取った。クズド殿には、3日後に侵入者は殲滅すると伝えてくれ」

 エスヌはクズドの思惑をしたうえで乗る事にした。理由は単純だった。領内に勝手に住みついた者を放置はできないからだ。

「畏まりました。必ずお伝えいたします」

 クズドの使者は自分の役目を果たして執務室を出ていった。

「戦の準備をしろ、兵士は10人で良いだろう。後、火事場泥棒に気をつけよ」

 エスヌはミリアと名乗る強い平野人の少女が居る事を兵士から聞いていた。蛇人の兵士たちがミリアと戦っている間にクズドが村を襲撃し、村人を奪還するつもりなのは知っていた。だから、兵士たちに伝えたのだ。

「畏まりました」

 こうして、10人の蛇人の兵士が3日後にミリアを襲撃する事が決まった。


 クズドは自分の執務室で、使者の報告を聞いて満足そうに笑った。

「よくやった。こちらも準備だ。3日後に蛇人とミリアが戦っている間に村人を奪還する」

「畏まりました」

「クズミゴに伝えておけ、今度はしくじるなとな」

「はい」


 蛇人の兵士10人は散開して山道を進んでいた。武器は鋼鉄製の槍を持っていたが、防具の類はつけていなかった。理由は、山道を進むのに重い装備は邪魔だからだ。それに、蛇人は他の魔族に比べて魔法が得意だった。だから、相手が何であれ接近戦ではなく遠距離からの魔法で戦うつもりだった。

 ミリアは村の中央にある見張りの塔から蛇人の侵入者たちを把握していた。そして、クズミゴが性懲りもなくグンマ駅に来たことも月読を介して知っていた。体は1つしかない。どちらかを優先させなければならないと感じていた。

「どちらを先に始末した方が良い?」

 ミリアが月読に問いかけた。

「どちらも同時に処理可能です」

「どうすればいい?」

「殲滅システム『神威』を起動すれば可能です」

「では、起動して」

「畏まりました。殲滅システム『神威』起動します」

 月読の宣言を聞いた後で、ミリアは自分に連なる999体の兵士を認識した。それは『神兵』と呼ばれるミリアと同じ神の白金オリハルコンで作られた人型の兵器だった。ミリアと違うのは神兵は自我を持っていなかった。完全にミリアの意のままに動く手足だった。

 外見はミリアが自分の姿かたちを想像する前の真っ白なマネキンだった。その1体を村の資材置き場に転送し、クズミゴたちの殲滅に当たらせる。武装はオリハルコンブレード以外はミリアと同じものが用意されていて、いつでも転送可能だった。


 ミリアは蛇人の兵士の元に向かった。交渉可能であれば交渉し、不可能であれば殲滅するつもりだった。しかし、蛇人の兵士はミリアを見つけ次第、問答無用で魔法攻撃を開始した。

「エグゼ、ウインドウカッター」

 森の中を無数の風の刃がミリアに向かって放たれた。それは木々を容易く切断し、ミリアの体に直撃した。だが、ミリアの体に触れたとたん消滅する。それは、あらゆる魔法を無効化する神の白金の効果だった。

 魔法を無効化されたが蛇人たちは戦意を失っていなかった。ゆえに、蛇人の兵士たちは二手に分かれて進もうとした。5人がミリアを足止めし、残りの5人が村を殲滅する。最初からそういう手はずだった。

 それを見てミリアは神兵2体を村に転送し、蛇人の迎撃に向かわせた。そして、ミリア自身は5人の蛇人を倒すことにした。アサルトライフル、AR99(エーアールナインティナイン)を転送し、蛇人の1人に照準を合わせて射撃する。

 火薬の炸裂音と共に銃弾が射出され、蛇人の1人が撃ち殺された。それを見た瞬間、他の蛇人の兵士たちは樹に身を隠し魔法を使った。

「グラント、アンチマテリアル、アブソリュート、バリア」

 それは物理攻撃を無効化する魔法だった。ミリアは魔王バグスが使った魔法だと理解し、即座に対応した。武装をオリハルコンブレード『月光』に変更した。神龍ラグナロクと戦った時には使わなかった戦法だ。あの時はメアリたちが居た。そして、一緒に戦うという約束があったから戦法をメアリたちに合わせていた。

 だが、今回はその必要がないために、効率よく敵を倒すことが出来る。ミリアは抜き身のオリハルコンブレードを両手で持ち上段に構え、いつでも剣を振り下ろせる体制で森を駆け抜け、蛇人の兵士の1人に肉薄する。

 蛇人の兵士は身体強化魔法と対物理障壁が自分の身を守ると信じていた。だから、向かって来ているミリアを捕まえて絞め殺すつもりだった。だが、対物理障壁はミリアのオリハルコンブレードが当たった瞬間、消失した。そして、蛇人の兵士は一刀の元にミリアに倒された。

 他の蛇人の兵士は驚きつつもミリアの実力を領主エスヌに伝える為に、1人逃がす者を即座に決め、残り2人がミリアを足止めするためにミリアに立ち向かっていった。

 ミリアは、それを確認すると全速力で蛇人の兵士2人に向かった。蛇人の兵士2人はミリアにむやみに接近せずに槍の間合いを保ちつつ槍でミリアを牽制しながら退却していた。

 ミリアは2人が殿だという事は理解していた。逃げるのなら、追撃するのを止めようと思った。だから、退くことにした。しかし、ミリアが退こうとすれば蛇人の兵士は追ってくるのだ。彼らは仲間が完全に逃げ切れると確信するまでミリアを自由にさせる訳にはいかなかった。

「逃げるのなら、追わない。無駄な戦闘は止めない?」

 ミリアはいつもの無表情で淡々と話しかけた。

「シンヨウ、デキナイ」

 蛇人は片言の人族の言葉で答えた。

「分かった。あなたたちが納得するまで私はここを動かないし、攻撃もしない」

 ミリアの言葉を聞いて蛇人の兵士はひとまず距離を置き、ミリアを監視した。ミリアは言葉通り、動くことも攻撃することも無く立っていた。

 蛇人の兵士2人は先に逃した兵士が安全だと思う時間まで、その場に留まり十分時間が経ったと思った時にミリアに話しかけた。

「ドウイウツモリダ」

「私の村に手出しをしないのなら、私は何もしない。危害を加えるのなら容赦はしない」

「ワカッタ、ツタエヨウ」

 そう言って蛇人の兵士は去っていった。


 村に向かった5人の蛇人の兵士は、白いマネキン『神兵』2体と戦っていた。神兵の武装はアサルトライフル、AR99(エーアールナインティナイン)だった。ミリアと同様に

初撃で蛇人2人を射殺すると、対物理障壁を展開した。

 それを確認した神兵はAR99を左手に持ち、右手は拳を握り蛇人の兵士に肉薄した。蛇人の兵士は神兵を絞め殺すつもりでいた。しかし、神兵が右手で蛇人の兵士を殴ると、対物理障壁は霧散した。神兵の体は神の白金で出来ていた。触れたものの魔法を解除できるのだ。

 対物理障壁が無くなった蛇人の兵士に神兵はゼロ距離からAR99を撃ち込んだ。こうして、蛇人の兵士は1人になった。蛇人の兵士は鉄製の槍を構え、刺し違えてでも神兵を1体倒そうという覚悟で神兵に挑んだが、あっさりと槍の一撃を避けられ、対物理障壁をなくして射殺された。


 こうして、蛇人の兵士たちは7人死亡し、3人が領主エスヌの元に帰還した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ