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古代兵器ミリア  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
シナリオ1 孤独な支配者
13/19

領主クズド

 ミリアはカインたちを連れてニイガタ駅に着いた。村人たちはミリアの作った村を見て感動していた。

「すごい」「こんな立派な家をくれるの?」「畑も広いぞ」「しかも、よく手入れされている」「みて、水路もあるわ」

「カイン、家と田畑を誰がどの場所を使うのかは、みんなで話し合って決めて、私は体を洗ってくる」

「分かった」

 ミリアは、そのまま川に行き、ゴブリンの返り血を洗い流した。その間にカインたちは話し合い自分たちの住居と管理する田畑を決めた。


 ミリアがカインたちの元に戻るとカインがミリアに提案した。

「なあ、この村には集会場が無い。村の事を決める時に集まる場所が無いと不便だ」

「分かった。作る」

「それと、田畑に植える種が少ない。俺たちが持って来た分だと土地を余らせてしまう。どうにかならないか?」

(種なら研究所に備蓄があります。転送させますか?)

 月読がミリアに情報を伝えた。

(お願い)

「種はある。資材置き場に置いてあるから各自、必要な分を運んで」

「助かる」

「それと、勝手に部屋割りを決めたんだが、あんたの家はあるのか?俺たちは10世帯で家も丁度10軒だった。あんたの家が無いなら、どうにかして1軒空けるが?」

「必要ない。私は眠らないから」

「え?どういう意味だ?」

 ミリアの答えにカインは困惑した。

「そのままの意味、私は眠らないし疲れない。休憩する家を必要としない」

「いや、そんな訳ないだろう。人は、そういう風に出来ていない」

「私は人じゃない。機械だから平気」

「機械?」

「そう、だから大丈夫」

 カインはミリアの言っている事を理解できなかった。外見は平野人へいやびとなのだ。だが、ミリアは大丈夫が大丈夫と言っていたので、カインはそれ以上何も言わなかった。

 農業の知識に関して、カインたちはよく知っていた。ミリアが輪作の知識や追肥についての説明、稲作の手順等、説明をしたらカインはこう言った。

「それぐらいの知識はある。俺たちを信じて任せてくれ」

「分かった。任せる」


 ミリアは集会場の建設と外敵に備えて見張りの塔を建設した。整備用ロボットは、透明なままだと人族がぶつかって危険なので見えるようにした。そのロボットをみて、カインはミリアに問いかけた。

「なあ、あれはなんだ?」

「あれは、整備用のロボット。色々作ってくれる機械」

「注意する事はあるか?」

「むやみに近づかないで欲しい。彼らは常に仕事をしている」

「分かった。他のみんなにも伝えておく」

「後、この村の名前なんだが、何と呼べばいい?」

「ニイガタ村で」

「分かった」

 こうして、村の名前も決まった。


 5日程で集会場と見張りの塔が出来た。ミリアは見張りの塔から村の全体を見渡していた。村人たちは勤勉に働いていた。種を植え、雑草を抜き、水を巻いていた。

 静かだった村は音で満たされていた。村人の話し声と農作業の音で満たされていた。ミリアは見張りの塔で、その音を聞いていた。

「あんた、カマ持って来た?」

「いいや、おめぇが持ってきてたんじゃないのか?」

「あたしは、種を持つから、カマを持ってきてと言ったじゃない」

「そうだっけか、すまん。すぐに持ってくる」

「先に種を植えておくよ」

 こんな他愛のない会話を聞いて、ミリアは楽しいと感じていた。自分が作った村で村人が普通に会話をしている。こんなありふれた情景を愛しいと感じていた。だから、この村は自分が守るんだと決意を固めた。

 いまだに魔族にはバレていない。侵入者も無く平和な日々が続いていたが、この日は違った。村に一頭の熊が現れたのだ。その熊は冬眠から目覚めたばかりで腹を空かせていた。熊は畑で作業していた平野人の女性、カインの妻アワンに目をつけた。じりじりと間合いを詰めていく。アワンも熊に気が付いて悲鳴を上げる。

「きゃ~~~~~」

 アワンの悲鳴を聞いて熊は一気に間合いを詰めて襲い掛かった。だが、そこへミリアが割り込み蹴りで熊を吹き飛ばした。

 ミリアは見張り台から熊を発見し、即座に見張り台から飛び降りアワンの所まで一気に走って来たのだ。

「大丈夫?」

 ミリアは相変わらず無表情で抑揚の無い声で聞いた。

「大丈夫です」

 アワンはなんとか声を振り絞って応えた。

「動かないで、すぐに終わる」

 ミリアはそう言て、右手を肩から水平に伸ばした。伸ばした手の先に月の光の様に淡く金色に輝く白い刀身のオリハルコンブレード『月光』が出現した。

 ミリアは月光の柄を掴み、吹き飛ばした熊に追いすがる。熊は吹き飛ばされながらも体勢を整えてミリアに備えた。熊はミリアに大振りのパンチを放つが、ミリアは熊のパンチを体を沈み込ませて掻い潜り、熊の首を刎ねた。

 ミリアが熊を難なく仕留めると、村人たちは歓声を上げてミリアに近づいた。カインが代表してミリアに話しかける。

「強いとは聞いていたが本当に凄いな」

「うん」

「それで、この熊はどうするつもりだ?」

「分からない」

 ミリアは熊を処分したが、死体をどうするべきか分からなかった。

「じゃあ、俺たちにくれないか?食料にしたい」

「いいよ」

 こうして、村に侵入した動物たちはミリアが仕留め、村人たちが食料にするというのが暗黙の了解となった。 

「それと、もし可能なら、野菜が動物に荒らされないように柵も作りたい」

「分かった。作る」

 柵は作業用ロボットたちが村と田畑全体を囲む形で作った。


 村の農作業も軌道に乗り、環境も整ってきた時に月読から提案があった。

「村は、このまま順調に拡張していけば問題ないでしょう。次は来年に備えて、川の下流に港町を建設しましょう」

「分かった」

 ミリアは月読の指示に従って川を下り海に出た。そこは切り立った断崖だった。高さは1メートルほどだが、港にするには大規模な工事が必要だった。

「整備用のロボットは潮風大丈夫?」

「問題ありません」

 ミリアは、断崖を削り港を作るように指示を出した。

「同時進行で船の建造も行うと良いでしょう。お勧めはキャラック船です」

「数は?」

「2隻あれば十分かと」

「分かった」

「後は、ニイガタ村とこの港町を繋ぐ道と川の堤防、それに荷物を運ぶための川船を2隻と船を上流へ牽引するためのロープウェイを作ると良いでしょう」

「分かった」

 ミリアは言われた通りに建物と設備を整えるように指示を出した。それは、来年に他国と交易を行うための準備だった。


 ミリアが港町を作成している時に、平野人の国ダイヤモンドキングダムの領地の1つ、カスターの領主クズドの元に一報が入った。ソーン村がゴブリンの襲撃にあって壊滅したというものだった。クズドは報告を自分の執務室で斥候の男から聞いていた。

 クズドは、平野人の男性で金髪碧眼の45歳の中年だった。服装こそ高価なものを身につけていたが、その中身は脂肪で出来ていた。しわの無い丸顔で、威厳を出す為に口髭と顎髭を伸ばしていたが、少ししか生えていないので、威厳を出す事に失敗していた。

「それで、生き残りは?」

 クズドがソーン村を見てきた斥候に質問を投げかけた。

「いません」

「遺体は残っていたか?」

「いいえ、何も残っていませんでした」

「食料は?」

「それも無くなっていました」

「塩もか?」

「はい」

「農具は?」

「残っていませんでした」

 ここまで聞いてクズドは村人が逃げた可能性を考えた。ゴブリンが塩や農具を持ち帰るとは考えにくいからだ。だが、農具は武器にも使えるため持ち帰った可能性もあるが、全て無くなったというのが解せなかった。例えばクワは武器として使えるのは分かるが草刈り鎌は武器としては貧弱だ。持ち帰るとは思えなかった。

「なぜ、ゴブリンの仕業だと思った?」

「ゴブリンの死体があったんです」

「なるほど」

 クズドは村人が逃げ出した可能性が高いと判断した。クズドは自己中で賢かった。ゴブリンの死体が2体だけというのがありえなかった。ソーン村に居た男たちは戦争で兵士として戦場に居た者たちだった。

 戦争が無くなり、帰る場所も無く職を探していた者たちに魔族から取り返した領地を貸し出したのだ。武器が農具だけだとしても、10体は倒せるだけの実力はあるはずだった。だが、村人がどこに逃げたのかは分からなかった。

「荷車で移動した後は無かったか?」

「魔族の領域への後は残っていましたが、そちらに行くのは危険だと判断し、調査は行っておりません」

「村人が逃げた可能性がある。魔族の領域との境界まで調査を行え、むろん危険だと思ったら引き返しても良い」

「畏まりました」

 斥候はクズドの執務室を出てソーン村に向かった。

「それにしても魔族め、厄介なものを押し付けおって……」

 クズドは魔族から領地を返還される際に抗議を行っていた。領内に巣くう魔物が邪魔だから駆除しろと抗議した。他の領地も同じ状況だったので、他の領主からも声は上がっていた。だが、魔族からの回答は予想外のものだった。

「人族も家畜を飼うと聞いている。ニワトリ、豚、牛を飼っていると聞いている。我らも同じように家畜としてゴブリン、オーク、ミノタウルスを飼っている。そちらの家畜と食べ比べてみたが味も遜色ない。ゴブリンはニワトリ、オークは豚、ミノタウルスは牛として扱って問題ない。これらは、人族への贈り物だ。ぜひ、活用して欲しい」

 魔族であれば強大な身体能力と魔法で魔物を従えるのも容易いが、人族の平野人には無理であった。だが、贈り物と言っているものを迷惑だという事も出来なかった。もし、魔族の心証を損ねて再度、戦争になっては本末転倒だった。だから、クズドをはじめ他の領主も各自で対応する事になった。

 他の領主は兵士を派遣して領内の魔物を討伐しているがクズドはそれをしなかった。自分の身を守る為の兵士を何故、職にあぶれた平民に使わなければならないと思っていた。だが、勝手に逃げられるとクズドが困るのだ。なぜなら、税収が減るからだ。税収が減れば贅沢が出来なくなる。だから、クズドは逃げた村人を取り返す為に動いた。


 斥候は、ソーン村から西に村人たちの痕跡を探って移動していた。そして、グンマ駅を発見した。斥候はその建物が何なのか分からなかった。だが、線路の事は知っていた。これは荷物を運ぶための道だと理解した。

 その道が魔族の領域に伸びていた。斥候は、それ以上進むのを止め、領主のクズドに報告した。

 報告を聞いたクズドは村人が逃げた可能性が低くなったと感じていた。それよりも魔族に村人がさらわれた可能性が高まった。停戦を約束していたのに魔族がそんな事をする理由は無いが、偽装工作をしているあたり表立って対立する意思はないと考えるべきかクズドは悩んでいた。

 だが、すぐに解決方法を思いついた。コソコソ隠れて行動しているのだから、こちらは堂々と正式なルートで抗議すればいいと思った。早速、正式な書面で魔族の領主、蛇人じゃじんのエスヌに抗議を行った。

 エスヌからの回答はこうだった。

「私には身に覚えがない。調査したいのであれば、こちらの監視として兵士2名を送る。おかしなことをしなければ邪魔はしない」

 クズドはエスヌの兵士を迎え入れ、子飼いの兵士を動員して魔族の領域に行く事にした。エスヌが嘘をついていないのであれば、村人たちが勝手に魔族の領地に移り住んだことになる。ならば、見つけて連れ戻すだけだ。


 クズドは自分の息子でクズミゴを執務室に呼んだ。

「父上、お呼びでしょうか?」

 クズミゴは、25歳の青年だった。父親とは違い体格に恵まれ、体も鍛えていた。身長は180センチメートル顔は父親に似ず母親に似た為、金髪碧眼の美青年だった。ただし、性格は父親に似てクズだった。

「ソーン村の住人が逃げた。お前が行って捕縛してこい」

「畏まりました。父上。それで、そこのお二方は?」

 クズミゴは、クズドの両脇に立っている蛇人が何者なのか、何故居るのか聞いた。

「ソーン村の住人が、どうも魔族の蛇人の領土に勝手に踏み込み土地を占領しているようなのだ。そういう事情があって、お二人は我らが村人の一件にかこつけて領土を不法占拠しないか監視に来ておられるのだ。くれぐれも粗相の無いようにな」

 クズドの説明でクズミゴは父親に面倒ごとを押し付けられたことを知った。だが、クズミゴは父親に逆らえなかった。クズドには跡取りが5人居る。最有力はクズミゴだが、クズドの機嫌でいかようにも変えられるのだ。だから、従うしかなかった。

「分かりました」 

 クズミゴは、完全武装の100人の兵士と共にグンマ駅に向かった。そこには蛇人の兵士も2人居た。彼らは主のエスヌから、クズドが敵対行動を起こしたら全滅させていいと言われている。

 彼らは優秀な魔法使いだった。100人程度の平野人の部隊なら一瞬で全滅させる事が出来る。しかも、平野人の部隊には魔法使いが居ない。彼らにとっては簡単な仕事だった。エスヌの見解は無能な領主が村人に逃げられ追跡しているだった。だから、2人の兵士には人族同士の争いには手を出すなと言い含めてあった。


 クズミゴたちがグンマ駅に着いた時、グンマ駅には一人の少女が立っていた。漆黒の長い髪に漆黒のドレス、対照的に白い肌の美少女が刀を佩いて立っていた。それはミリアだった。ミリアを見つけてクズミゴはほくそ笑んだ。逃げた村人の一人を見つけたと……。


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