豊穣王フレイ
ホワイトガーデンを去った後でミリアは魔女メアリの国シャドーフォレストの首都ブラックガーデンを目指した。ミリアは他の国でもそうしたように歩いて国の様子を見ていた。
シャドーフォレストは黒樹人の国で、白樹人の国と同様に森に包まれた国だった。家も樹の上に作られていた。唯一違うのは、彼らは好戦的だった。ミリアが森を歩いていると、警告を受けた。
「止まれ!この先に何の用だ?」
樹の上から銀髪赤眼褐色の肌の美青年が弓を構えてミリアをにらんでいた。服装は黒いシャツと黒いズボンだった。
「魔女メアリに会いに来た」
「メアリ様に?何者だ?」
「ミリア」
「知らん名だ。この国は初めてか?」
「初めて」
「なら、警告だ。俺たちの許可なく狩りをするな木の実を取るな樹を傷つけるな、もし違反した場合は命の保証は無い」
「分かった」
「食い物が欲しい場合は、村で買っていけ、この森の物は全て黒樹人の所有物だという事を忘れるな」
そう言って、彼らはミリアが違反をしないか監視し続けた。監視役は一定の領域を出ると担当が変わっていた。それは、黒樹人の取り決めだった。それぞれ縄張りを持ち、その縄張りを監視し守る。それが、彼らの生き方だった。
ブラックガーデンはホワイトガーデン同様特別な森だった。森に生えている樹は『魔宝樹』と呼ばれる特殊な樹で、魔法を使う為の触媒の1つだった。この樹は黒樹人しか育てる事が出来ないため、シャドーフォーレストの特産品の一つだった。樹の幹は黒く、葉は銀色に輝いていた。その姿は黒樹人を連想させた。
「止まれ!ここは聖地だぞ、部外者は去れ!」
警告と共に10人の黒樹人が弓と杖を構えて現れた。服装は全員が黒い服を着ていた。
「私はミリア、メアリに会いに来た」
ミリアは無表情で抑揚の無い声で言った。黒樹人たちは、顔を見合わせてリーダーに指示を仰いだ。
「そこで待て、確認して来る。動くなよ?」
「分かった」
それほど待たされずにメアリが姿を現した。服は黒のワンピースを着ていた。そして、ミリアに駆け寄り抱き付いた。居合わせた黒樹人たちは驚いていた。それはメアリが普段彼らに見せている態度とは全く別のものだったからだ。
「ミリア、来てくれてありがとう」
「メアリ、歓迎してくれてありがとう」
ミリアもハグを返した。その姿は10年来の友人のようだった。いつもの無表情で抑揚の無い声で淡々と話しているミリアだが嬉しさが僅かに表情に現れていた。ミリアは記憶を無くしているが、メアリの様な友達が居たような気がしていた。
「この者はあたしの友人だ。以後、見知っておけ」
メアリが、ミリアに対する態度とは正反対に冷たい声と態度で命令した。居合わせた黒樹人は跪いて「御意」と言った。
メアリは黒樹人の中で『女帝』とあだ名されていた。理由は相手が王であろうと間違いがあれば当然のように批判し、しかもその言い方が辛辣だったからだ。部下に対しても間違いは間違いとはっきりと言うが、戦場では味方を見捨てる事をしなかったので部下からの信頼は厚かった。
また、メアリは黒樹人の中で最強だった。ただの最強ではなく唯一無二、肩を並べられるライバルすらいない最強だった。ゆえに黒樹人の中に友人となれるものは居なかった。だから、黒樹人たちはメアリを『女帝』とあだ名し恐れ敬っていた。
メアリの案内でミリアは、ブラックガーデンの中央にたどり着いた。そこには森の中にポツンと玉座が置かれていた。漆黒の木材で作られた玉座に、銀髪赤眼褐色の肌の美青年が座っていた。髪は腰のあたりまで伸ばし額には銀色に輝く宝石『銀月』が中央にはめられた漆黒のサークレットを着用していた。その漆黒のサークレット『銀月の黒冠』は黒樹人の王の証だった。
「豊穣王フレイ、魔王バグスを共に倒した戦友のミリアをお連れしました。一度、話を聞いて頂いてもよろしでしょうか?」
メアリは、言葉は丁寧だがフレイに跪くことなく対等の者として接していた。この態度も『女帝』とあだ名される由来だった。彼女は自分よりも弱い者に膝を屈しなかった。それは、他国の王に対しても同様だった。だが、誰もメアリを咎める事が出来なかった。なぜなら、彼女よりも強いものがいないのだ。
「分かった。聞こう」
フレイはメアリの態度に不快感を現す事なく答えた。それは、メアリが強くなってから偉そうにしていた訳では無かったからだ。フレイはメアリより年上だった。メアリが小さい頃から知っている。彼女は最初から誰にも膝を屈しなかった。
負けるたびに強くなり、知識を学び最強の魔女となった。強いから驕ったのではなく、強かったから誰にも膝を屈しない事を知っていた。だから、フレイはメアリが自分を格下ではなく対等の者と扱ってくれている事を喜んでいた。
「科学技術と民主共和制の復活を行いたい。その為に協力をお願いしたい」
「魔族と停戦したばかりで、余力が無い。それに、また魔王バグスのような者が現れるかもしれない。こんな状況で政治体制を変えて、土地を与える事などできない」
フレイは冷静に状況を分析して、そう決断を下した。この100年戦争で多くの者が死んだ。黒樹人は簡単には増えない。元々長寿で子供を産めるのは20歳から30歳までの10年間で、しかも女性一人当たりの出産数は1人が普通だった。それでも、人口は維持されてきた。それは病気や怪我で命を落とさない限り死なないからだった。
いま、各村は最低の人数で維持されている。新しく何かを始める事など出来ないと判断した。
「なら、あたしがミリアに協力する。あたしが管理する村でなら何をしても問題ないでしょ?」
メアリは最初からこうするつもりだった。黒樹人に余裕はない。だが、自分の村だけならミリアに協力する事が出来る。それを王に認めさせることが目的だった。だから、ミリアに挨拶に来るように言ったのだ。
「それは、許されない。君の村もまた国の一部だ。そこからの税収も、その村の人員もこれからの復興に必要なのだ。もし、どうしてもというのであれば、君が王になれば良い。そうすれば誰も文句を言わない」
フレイは自分の判断が間違っていないと思っていた。メアリがミリアに、この国で何かをやらせたいのなら、メアリが王となるのが筋だ。
「なら、次の『豊穣祭』であたしが王になる」
メアリはミリアの為に、王になる決意をした。黒樹人の王は豊穣祭で『魔法樹』の苗木を一番成長させた者が王に選ばれるのだ。『魔法樹』を成長させるためには、『魔法樹』を誰よりも理解する必要があった。必要なのは林業の知識だった。メアリは戦闘のセンスと知識は黒樹人随一だが、林業に関してはフレイに遠く及ばなかった。
今年の豊穣祭は既に終わっている。これから、苗木を植えて、フレイよりも成長させる必要があった。メアリはミリアの為に、苦手なものに挑戦しようと決意したのだった。
「待って、メアリ。あなたは黒樹人の為に魔王を倒したのでしょう?」
「そうよ」
「私の提案は、私の使命を果たす為に言っている。黒樹人の事を考慮していない。メアリが魔王を倒した理由と私の使命は目的が一致しない。友達と思ってくれるのは嬉しいけど、あなたが本来助けたかった人たちを踏みにじるかもしれないのなら、協力は要らない」
ミリアはメアリが友情を優先するあまり、本来大切にしなければならない者たちの事を考えていないように見えた。だから、友人として忠告した。
「ごめん。あたし、目的を見誤ってた。フレイ、ごめんなさい。あたし、私的な理由でわがまま言った」
「良い友達を持ったなメアリ。ミリア殿、我が国への配慮、誠にありがたい。今すぐ貴殿の要望を受け入れる事は出来ないが、人が増え、余力が出来たのなら、協力は出来ると思うが、待つことは出来るか?」
「譲歩頂き、感謝します。ですが、私は最善を尽くしたい。出来るだけ早く使命を果たしたいと思います。なので、別の国に助力を請う事にします」
「そうか、残念だ。我が国の使命は『魔法樹』を決して絶やさない事だ。その使命に反しないのならいくらでも協力はする」
「分かった。覚えておきます」
こうして、ミリアは黒樹人の国を後にした。
選択肢:メアリが王になるのを手助けしますか?
1.いいえ
2.はい
2を選んだ場合は、シナリオ5『女帝メアリ』
魔女メアリと共に科学技術を発展させていくシナリオに進みます。