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古代兵器ミリア  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
プロローグ
1/19

覚醒

月曜0時に4000文字相当を不定期に掲載していきます。気長にお付き合いを頂ければ幸いです。

 四角い真っ白な部屋の中央に白い玉座のような椅子があった。その椅子には真っ白い人形が座っていた。人形には目も鼻も口もなく、無機質なマネキンのようだった。

 その人形は1万年以上動かなかった。しかし、この日、人形に魂が宿った。魂が宿ると、人形の内部で今まで眠っていた機能が動き始めた。

 人形に宿った魂は声を聞いた。その声は女性のような機械音声だった。

「魂の融合を確認しました。メインシステム起動、汎用人型戦闘機体ミリアと魂の接続を開始します。

 ハードディスクを認識しました。

 オペレーションシステム読み込みを開始。

 オペレーションシステム読み込み100%完了。

 オペレーションシステム月読、起動開始。

 メモリにデータを展開。

 各種アプリケーション起動。

 汎用人型戦闘機体ミリア起動しました」

 魂は一通り音声を聞いた後で、世界を認識した。四角い部屋と玉座の様な椅子と自分の体を認識した。

「ここはどこ?」

 魂の問いかけに、中性的な機械音声が答える。

「ここは、汎用人型戦闘機体研究所です」

「あなたは誰?」

「私は月読ツクヨミ汎用人型戦闘機体ミリアのOSです」

「OS?」

 魂はその単語を知っていた。

「これは、パソコンなの?」

「いいえ、違います。これは、汎用人型戦闘機体ミリアです。人族の平野人へいやびとの言葉ではアンドロイドという機械です」

 魂はアンドロイドも理解していた。

「私は誰?」

 魂には全ての記憶が無かった。

「あなたはミリアです」

「私はミリア……」

 魂は自分の名前がミリアだと認識した。自分の手足を見て、マネキンの様な外見だと思った。

「これが私の姿なの?」

 ミリアは抑揚のない淡々とした口調で月読に語りかけていた。まるで感情の無い機械のような話し方だった。

「これが、ミリアのデフォルトの姿です。気に入らなければ変更できます」

「どうすればいいの?」

「あなたが理想と思う姿を思い浮かべればそのように変形いたします」

 ミリアは何故か、黒い真っすぐな腰まで伸びる髪の美少女を想像した。すると、体はミリアの思う通りに変形した。身長は160センチメートル、胸のサイズは標準的だった。例えるのなら黒百合の様な美しい少女だった。だが、服を着ていない全裸の姿だった。

「服を着たい」

「それも、あなたが想像すれば表示されます」

 ミリアは黒いドレスを想像した。そのドレスは所々に金の刺繍がしてある美しいドレスだった。そのドレスはホログラフでミリアの体を覆った。

「これで、大丈夫」

 ミリアは、自分の容姿と服装に満足した。

「次は武装の説明を行います。ナビに従って移動してください」

 月読がそう言うとミリアの視界にナビが表示された。その指示に従って移動すると、武器保管庫という表札が掲げられた部屋に着いた。部屋の扉はミリアが前に立つと自動で開いた。中に進むと様々な兵器が置いてあった。兵器はクリアケースに囲まれており、それぞれどんな兵器か簡潔に説明が書かれていた。

 オリハルコンブレード、月光、対魔族近接格闘武器。

 アサルトライフル、AR99(エーアールナインティナイン)、射程500m、突撃銃。

 アンチマテリアルライフル、AMR6(エーエムアールシックス)、射程5km、対物スナイパーライフル。

 ミサイルポッド、M10(エムテン)、10連装ミサイルポッド射程20km。

 ミリアは完全なる戦闘機械だった。だが、ミリアは何も感じなかった。

「これらの兵器は、あなたが望めばいつでも手元に転送できます」

「転送?」

「はい、局所的空間転移装置がこの兵器庫に設置してあります。そして、あなたにも同じ装置が取り付けてあるので、いつでも好きな時に、兵装を転移出来るのです」

「そう、それで、私は何をすればいいの?」

 ミリアは指示を仰いだ。ミリアにはやりたい事が無かった。

「人族の復興をお願いいたします」

「復興?」

「この星は、魔族からの侵略を受け、一度文明が滅びました。あなたは人族の平野人が作った対魔族の切り札です。それと過去に栄えた文明の技術の継承者です」

 ミリアの視界に色んな論文と設計図が表示されていた。それは科学技術の粋を集めたものだった。

「これを、人間に渡せばいいの?」

「渡すだけではダメです。教育を行い。かつての文明を取り戻す必要があります」

「私が拒否したらどうなるの?」

「どうもなりません。人族が苦労するだけです」

「私は自由なの?」

「自由です」

「では、何故使命を課すの?」

「使命などと言う高尚なものではありません。すでに1万年もの計画遅延が起こっているのです。ありていに言えば手遅れなのです。だからこそ、あなたは自由です。好きにしてください」

 月読は淡々と事実を告げた。ミリアを作った者は1万年前に人族を救いたかったのだ。だが、現実には失敗し、1万年も遅れた。だから、今さら人族を救おうが見捨てようが、月読にとってはどうでもいい事だった。

「そう、なら、とりあえず使命を果たすわ」

「では、最初の攻撃目標、魔族の王、魔王バグスまでの道のりを案内いたします」

 ミリアの視界に簡易的なマップと攻撃目標が表示された。ミリアはその案内に従って進んだ。


 汎用人型戦闘機体研究所は地中深く埋まっていた。それは、核攻撃に備えて地中深くに研究所を作ったからだ。地上へはエレベーターで移動し、その先は地下鉄の出入り口の様に地上へ続く階段となっていた。地上に出た時、目の前に魔王城へ続く橋があった。橋の幅は10メートル、長さは3キロメートルの石造りの巨大な橋だった。時刻は夜の11時だった。

 橋の入り口には魔族の歩哨がいた。ミリアは魔族の歩哨に見つかった。その魔族は人型だった。ただし、竜人りゅうじん蛇人じゃじんだった。竜人は全身黒い鱗に覆われ首から上が竜になっている人型の魔族だった。蛇人は全身緑の鱗に覆われ下半身と首から上が蛇の半人だった。

 竜人はミリアを見つけて声をかける。

「おい、こんな場所で平野人に変装するな、紛らわしいだろ?」

 竜人がミリアを見つけて、そう声をかけた。しかし、ミリアは相手の言葉を理解できなかった。無反応で居ると、竜人がさらに話しかけてきた。

「おい、聞こえないのか?変装を解けと言っている」

 その言葉の意味をミリアは理解できないので、無視して、殺害目標のバグスの元に向かおうとした。竜人は持っていた武器、巨大な大剣でミリアの進路を塞いだ。

「待て、変装を解けと言っている。言葉が通じないのか?」

 竜人はミリアに話しかけつつ目を細め威嚇した。蛇人は宝石が付いた杖を竜人に向け、魔法を詠唱しだした。

「インクリメント、マテリアル、アタック」

「インクリメント、マテリアル、デフェンス」

「インクリメント、アジリティ」

「インクリメント、デクステリティ」

「インクリメント、マジック、アタック」

「インクリメント、マジック、デフェンス」

 竜人の物理攻撃力、物理防御力、敏捷性、器用さ、魔法攻撃力、魔法防御力が強化された。戦闘準備を整えたのだ。ミリアは敵と認定されつつあった。

(月読、彼らは何を言っているの?)

(現在、言語の解析中です。もう少し会話を引き出せれば、翻訳は出来ると思います)

「何を言っているのか分からない」

 ミリアは月読と話していた言語を使った。もちろん魔物たちの言語体系とは異なる為、意思疎通は出来なかったが、魔物たちに異なる言語体系の生き物だと認識された。

「こいつ、人族だ!敵襲!敵襲!総員、敵を排除せよ!」

 竜人が大声で叫ぶと、魔族がミリアを殺すべく殺到してきた。

(さて、どうされるおつもりですか?どうやら敵だと認識されたようです)

 月読がミリアに語り掛ける。

(そもそも、魔族は私の敵なんでしょう?なら、やる事は一つだけ。AR99を転送して)

 ミリアは焦るでも怒るでもなく淡々と月読に要求した。

(畏まりました)

 ミリアは転送されたAR99を手に持つと、竜人に銃口を向けて引き金を引いた。竜人は射殺された。次に、蛇人に銃口を向けて引き金を引くと、蛇人も死んだ。

「意外と脆いのね」

「いいえ、あなたが強いのです。先ほどの竜人と蛇人を倒すには熟練の戦士と魔法使いが最低でも5人必要なのです。それをあなたは単独で成し遂げられます。それこそが、汎用人型戦闘機体ミリアが生み出された理由です」

「つまり、魔族を殺すための兵器ってこと?」

「ええ、そうです。あなたは本来であれば1万年前の人族を救うための切り札でした。ですが、今は、古代から蘇った殺りく兵器です。無論、人族の為に働けば人族の英雄となるでしょう」

「なら、私は人族の為に戦う。でも、確認させて」

「何でしょう?」

「人族って何?私は人間は知っているけど、人族という言葉は知らない」

「人族とは平野人へいやびと白樹人しらきびと黒樹人くろきびと鉱石人こうせきびと獅子人ししびと虎人とらびと妖精人ようせいびとのこの星に元々生息していた7種族を差します。ですか、あなたの言った人間という言葉の意味は私は知りませんが、人族だと解釈して回答していました」

 月読の説明と同時に各種族の特徴と画像が表示された。何となくだが、ミリアは理解した。自分が人間と認識しているのは平野人と呼ばれる人種で、それ以外は違う種族なのだと。


 ミリアは魔王バグスの居城へ続く大橋を突き進んでいた。薬莢をバラまきつつ、立ち塞がる魔物たちを駆逐して進んでいく。魔物たちもミリアを見るなり問答無用で襲い掛かっていた。

「取り囲め」「そっちに行ったぞ」「生かして帰すな」「平野人だ!平野人が侵入している!」

 魔物たちはミリアを殺すのに必死だった。しかし、ミリアはアサルトライフルを間断なく打ち続け、魔物たちの接近を許さず。魔物たちを蹂躙していく。無論アサルトライフルなのでマガジンを交換する間は攻撃が途絶えるのだが、その時間が極端に短かった。理由は簡単である。

 武装を転送できるからだ。空になったマガジンを排出して新しいマガジンを装填するという動作が必要なくなるのだ。空になったマガジンを転送し、新しいマガジンを転送する事で1秒以内に交換が完了するのだ。ゆえに魔物たちはミリアに近づくことが出来なかった。

 魔物たちはミリアを殺す為に、様々な攻撃を試みた。近寄る事が出来ないので、上半身が牛、下半身が人間のミノタウロスは武器の斧を投げつけたがあっさりと避けられた。漆黒の暗殺者シャドウウォーカーは弓で狙いを定めて攻撃するが、その矢を撃ち落とされた。

 悪魔のグレーターデーモンが遠距離から魔法の詠唱を開始した。

「エグゼ、ファイ……」

 詠唱が終わる前にグレーターデーモンは頭を撃ち抜かれ殺された。ミリアを止められる魔物は居なかった。

 大橋の半分を走破した時、空から大きい赤い竜が飛んで来た。それは火竜だった。

「我はエンシェントドラゴン、この橋の守護者だ。ここより先には通さんぞ!」

 竜は強さによって名称が決まっていた。弱い順にレッサードラゴン、ドラゴン、グレータードラゴン、エンシェントドラゴンとなっていた。その火竜は最強だった。体長は10メートル、翼を広げて飛んでいる姿は十字架の様だった。体を覆っている鱗は20mmの鋼鉄の装甲に匹敵する強度だった。

 火竜はミリアに近づき炎のブレスを吐いた。ミリアはブレスを跳躍して避けた。その高さは10メートルだった。人間ではありえない跳躍をしてブレスを避けたのだ。

 そして、空中で火竜にアサルトライフルの銃口を向けて攻撃を行った。しかし、アサルトライフルの5.56mmの弾丸では、その鱗を貫通できなかった。

 火竜は勝ち誇って言った。

「その程度の攻撃で、俺を倒せると思うなよ」

 ミリアは火竜の言葉を理解していなかった。ただ、自分のアサルトライフルAR99の攻撃は通用しない事は理解した。

(転送要請、アンチマテリアルライフル、AMR6)

 地面に着地と同時に月読に要請した。

(要請受諾、アンチマテリアルライフル、AMR6転送します)

 月読が答えた瞬間、ミリアが持っていたアサルトライフルは消滅し、目の前に全長2メートルのアンチマテリアルライフルが現れた。ミリアはアンチマテリアルライフルのグリップを右手で握り、片手で振り回し、立ったまま射撃体勢をとり、火竜に銃口を向けた。普通の人間であれば脱臼してもおかしくない無謀な射撃体勢である。

 ミリアは無言で狙いを定めて引き金を引いた。爆音と共に12.7mmの弾丸が高速で射出され、ミリアの左足に銃撃の反動が伝わり足元の石畳に亀裂が入る。ミリアは片手で銃の反動を抑え、微動だにしなかった。弾丸は火竜を貫通した。空に赤い花が咲き火竜の胸に大きな穴が開いた。火竜はそのまま川に落ちた。

 それを見た魔物たちは、ミリアに恐れおののき逃げていった。

「この先に、倒すべき相手が居るの?月読」

「ええ、魔王バグスと呼ばれている不死者が居ます。それを倒すのがあなたの使命です。ミリア」

「分かった。このまま進めば良いのね」

「そうですが、後方から移動して来る物体が5つあります。先にそちらを調べても良いかと思われます」

「敵なの?」

「分かりません。なので、確認する事をお勧めします。敵だった場合、挟み撃ちにあいます」

「別に問題は無いように思うけど、面倒なのは嫌だから調べるわ」

 ミリアは魔物に挟み撃ちにされても圧勝出来る。だが、前後を気にしつつ戦うのは面倒だと思ったのだ。ミリアは、前だけ気にして楽して戦いたいと思っていた。


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