1日目-06 昼の休憩02
ローザ「じゃあ、行こうか」
リアン「どこに?」
ローザ「身体測定」
リアン「その前にもっとやるべきことがいくらでもあるだろう」
ローザ「ない」
リアン「ある!」
…。
このままでは不毛な言い争いになってしまう。
ここは一つ、方向を変えるべく、相手の目の前に素敵な甘い蜜を垂らして関心をそちらに向けさせるのがポイントだ。
ローザ「どうしたの?」
リアン「……いや、突然で悪いが、
あの葉っぱさあ、見てたらおいしそうに思えてきたんだ」
ローザ「…へ?」
リアン「…ほら、意外に甘いかもしれないぞ?そんな想像が広がってこない?」
ローザ「…こない」
リアン「マジで?センスねえなあ…」
ローザ「…」
まず一発ジャブが入った。
ここからがどんどん押していくべきチャンスなのだ。
リアン「葉っぱは虫だって草食動物だってみんな食べてるんだよ。なんでそんなに人気があるか分かるか?おいしいからだよ」
ローザ「…ふーん。
そんなに言うならそっちが食べてみてよ」
リアン「よし」
葉っぱを一枚ちぎって、食べた。
ローザ「………!!」
勝った。
強烈なストレートが入った。もう相手は虫の息だ。
リアン「おいしーい!!」
ローザ「…ほ、ほんとに食べちゃった…」
リアン「…さあ、おまえも食うんだ」
ローザ「え、遠慮しとく」
リアン「…そうか、そうか!はっはっはっはっは!!」
勝った。
間違いなく、勝った。
引かれただけだが、まあ、勝った。
ローザ「…で、測定行かないの?」
話が戻ってきた。
リアン「葉っぱ食べてくれたら考えてもいいかな」
ローザ「なんでそうなるかな」
リアン「いや、おいしいから食べてみなって、マジで」
この方向で流す。
絶対に、流す。
ローザ「…行かないなら、いいけどさあ」
そしたら、ローザ(だったっけ)は、そう言った。
リアン「いいならほっとけ」
ローザ「…でも、そんなことしてたら兵隊クビになっちゃうかもしれないよ」
リアン「どうでもいい」
ローザ「そんなの、試験に受かった人のいうことじゃないよ」
リアン「なぜ」
ローザ「試験に落ちた人たちに失礼だよ」
リアン「そうかもな。でもそう思うんだから仕方ないじゃん」
めんどくさいので適当に答える。
ローザ「なんで兵士になんかなったの?」
リアン「なんとなく」
ローザ「…」
これまで無表情だった彼女が突然動揺を示した。
…驚くようなところか?
リアン「どうかしたのか?」
ローザ「なんとなくで兵士にはなれないよ」
リアン「実際なれてる」
ローザ「だったら……
い…いや…その…なんでもない」
リアン「なんでもない……ねぇ」
一テンポ間を挟む。
リアン「なんなんだあ?」
ローザ「…」
考え込む仕草。
そして、ようやく意を決したのか、こちらを向く。
ローザ「それはいいとして」
リアン「よくない」
ローザ「兵隊になったのは確かなんだから、
だったら一応頑張ったほうがいいんじゃないかな」
うまくごまかそうとでもしているのか?
動揺してただろ?
リアン「大きなお世話だ。それよりさっきはどうしたんだ?」
ローザ「さっきって?」
リアン「なんかよくわかんないところでびっくりしてた」
ローザ「あ、あれね。
あの枝がなんだが人間の手みたいに見えちゃってびっくり、みたいな」
リアン「見えない」
ローザ「わたしには見える」
リアン「おまえは嘘をついているッ!」
ローザ「つっ、ついてないっ」
リアン「……」
リアン「本当は…俺なんかよりもっと兵士になりたい奴がいるんだろうな」
ローザ「うん。いるね」
リアン「そういうやつが兵士になったほうがいいよな」
ローザ「うん。いいね」
リアン「おれもそう言う奴に兵隊の権利を譲ってやりたいぐらいだよ…」
ローザ「…」
呆れたような表情になる。
ローザ「譲れば?」
リアン「しかし成り行き上こうなってしまったんだ。
例えるならばこれは変えることの出来ない運命だったんだよ」
ローザ「…また運命?」
ローザ「ものすごく、
変な人」
…いよっしゃあ!
何故だか誇らしくなった僕は心の中で叫んだ。
リアン「お・ま・え・も・な」
敬意を表しつつ思っていた事を返してやる。