第五節
あかねさんからの連絡を待つ間、私は里咲のかつてのクラスメイトに話を聞いて回った。
里咲の場所を聞くためではない。
彼女が以前のクラスでも腫れものとして扱われていたことを私は知っていたから、居場所を聞いてわかる人間などいないと理解していた。
私が彼女の以前のクラスメイトに話を聞いて回ったのは、彼女が私のクラスに移動となった理由と、彼女が人殺しと呼ばれる理由を知る為だった。
そして、何でもいいからと、知りたい情報とは関係なしに里咲の情報を集めて回った。
私は里咲を知らなさすぎる。
彼女のこれまでを何も知らない。
だから、私は彼女のことを理解できなくて彼女を探すことにも苦戦している。
何でもいいから彼女を理解するための種が欲しかった。
そうすればきっと、私ならば彼女を見つけることができる。
彼女の痕跡をかき集める行動の理由は、自分を洗脳するように何度も自分に言い聞かせた。
里咲を救うためだ。
里咲を助けるためだ。
里咲を抱きしめるためだ。
里咲に生きてもらうためだ。
そうやって自分を洗脳し、彼女のクラスメイト一人一人に話を聞いて回った。
けれど、誰に聞いても彼女のかつてのクラスメイトは「わからない」「何も知らない」「聞かされていない」「彼女は人殺しだからいじめられていた」と答えるばかり。
恐ろしい事に、彼女が虐げられた理由など誰も知らなかった。
彼女に関する些細な話を知る人間などいなかった。
些細な話を知っていたのだとしても、これまで流れていた噂程度のものだった。
「江口里咲は人殺し」
そんな程度の話ばかりだった。
中には「江口里咲は人殺し」ではなく、「江口里咲の家族は人殺し一家」と語る人もいたが、そう呼ばれる所以など誰も知りはしなかった。
ただ、一人を除いて。
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里咲のかつてのクラスメイトに話を聞き始め、最後のその一人にたどり着いたのは一週間後のことだった。
一日に十人以上のペースで話を聞いていったのだからすぐに終わるのだろうと思っていたが、最後の一人は普段からあまり学校にこない生徒で、だからこそ巡り会うのに苦戦した。
「ねぇ! ちょっと待ってよ。話、聞かせてよ」
二限目の終了後、帰ろうとしていたその少女を私は見つけ、遠ざかる背に慌てて声をかけた。
私に声をかけられた少女は、私よりも少し長い校則ギリギリの明るい茶髪を翻し、「あ?」と言いながら私の方を振り向いた。
少女は耳にイヤカフをつけていた。
ピアスではなくイヤカフを付けているあたり、少女も不真面目に見えてまだ人間なのかもしれない。
「あなた、里咲を虐めていた緋奈ちゃんで間違いない?」
私の確認を鼻で笑い飛ばし、軒傍緋奈は「だったら?」と言った。
「あなたに聞きたいことがあるの。里咲について、知っていることを全部、私に教えて欲しい」




