第三節
十一月。
体育祭も文化祭も終わり、早い人は受験も終わった季節だ。
そんな冬が目前に迫ったある日、私の元に一通の通知が届いた。
大学の合格証明書だった。
西野燈様と書かれた合格証明書をみて、私はハッとした。
なぜ、私は真面目に普通な高校生活を送っているのだろうと気付いたのだ。
すでに里咲へメールなど送らなくなっていて、小説を書かなくなって久しかった。
普通の高校生として友人達と退屈な楽しい時間を送り、将来を考えて大学を選び、受験勉強に勤しんだ。
受験勉強に勤しんだといっても私はAOで行きたくもない大学を受けただけだけれど。
ともあれ、虐められて不幸だったはずの私は無事に平凡で幸せな女子高生になってしまった。
その事実に胸の奥が締め付けられた。
『 どうして全てを捨てた 』と、心の声がした。
違う。捨てたわけじゃあない。
ただ私は生きていただけだ。
里咲に再び会う日を夢見て、私は生きていただけだ。
焦燥感がこみ上げてきた。
このままではいけないと言う使命感が滾った。
私は自室に戻るなり合格証明書をベッドへと放り投げ、勉強机と向かい合った。
埃を被りつつあった原稿用紙を手に取り、普段の学校生活では握ることのない鉛筆を握った。
随分とつまらない人間になってしまったものだと、私は自分を責めたい衝動に駆られた。
里咲との約束を、小説を多くの人に見てもらってほしいと言う里咲のお願いを私は忘れてしまっていた。
それどころか小説を書くことすら辞めて、里咲との関係を新たな友人との時間で上塗りしてしまって。
何もかもが、私に生きる意味を与えてくれた里咲を消してしまうものだった。
私は、命の恩人を消し去ってしまおうとしていた。
最悪だ。
里咲は周りの人から人殺しと呼ばれていた。
その理由はわからなかったけれど、きっと何かしらの勘違いの末の呼び名だろうと思っていた。
そんなことはどうでもいい。里咲は里咲だから。
けれど、今の私はその里咲を記憶から消し去ってしまおうとしている。
私の方がよっぽど、人殺しと呼ばれるに値する人間ではないだろうか。
里咲を一時だけだが拒絶し、彼女の優しさに甘え続け、彼女をないがしろにした。
きっと、私が里咲の立場だったら自殺してしまってもおかしくはない。
きっと、里咲に連絡が通じないのは私のせいだ。
私が彼女をないがしろにしたせいで、きっと彼女は死ぬことを望んでしまった筈だ。
だから、旅行の時の彼女は変だったのだ。
このままではダメだと思った。
いつまでも待っているだけでは彼女は永遠に帰ってこないと思った。
だから、私は自分から彼女の元へ向かわなければならない。
先生に頼るだけじゃあダメだ。
もっと全てを自分でやらないとダメだ。
だから、すぐに行動に起こそう。
里咲に再び会うために。
かつて里咲に見せた小説。
タイトル未定のあの後悔の物語は破り捨てた。
そして私は踏み出す。
新たな原稿用紙に鉛筆で文字を羅列する。
私の望む私の欲を、私の世界を創造する。




