6:コンサート
「正直驚いたわ」
「まったくです。二人がここまで自発的な行動を取るようになるとは」
「この勢いで外部活動も始めてくれるといいんだけど」
「それはこのコンサート次第でしょう」
アルファによるコンサート。それをプロデュースして運営するのはオメガ――
それは二人を生み出した人々からみれば驚くべき成長だったのだ。
そして、地下都市の中で最大の空間である、中央シャフト空間がアルファのコンサート会場となった。
必要な設備とセッティング、観客の導入ルート、コンサートを開催するのに必要な物資とエネルギーの調達、そして都市機能への影響への配慮など、それらを取り仕切り実作業を行ったのはオメガだった。
音楽を楽しむ――
そんな当たり前のことすら失われた世界だ。
人々はいぶかしがった。反対する声もあった。
エネルギーの浪費だと。
だが、それを説得したのもまたオメガであった。
自分自身の持てる情報処理能力の全てを駆使して長期計画を試算し、都市の存続に問題の無いレベルで開催が可能であると、そして、アルファのやる気を引き出し彼女に求められている星の再生のためには必要な事であると説明し説得したのだ。
都市の最終的な意思決定を握っている人々はこれを承諾した。
必要な行動だと認めたのだ
そして、その日――
――運命の瞬間が訪れたのだ。
~ ~ ~
それは夢の時間だった。
時間にしてわずかに40分位だろう。
曲数も6曲程度。
豪華な衣装も、華麗なステージもない。ごく質素なコンサートだった。
だが、都市の人々は沸き立った。
若い世代や、子どもたちの中には音楽を楽しむと言う事すらしらない者たちも多い。
まだ体験したことのない出来事に戸惑うばかりの人たちもいる。
コンサートの場へとたどり着けない人には構内放送でその歌声が届けられた。
オメガの誘導と説明により準備を終える。
中央シャフトの空間にアルファが現れ、たった一つだけのスポットライトが浴びせられる。
人々の視線は彼女へと注がれる。
そして、アルファはつげる。
「私の歌を聞いてください、いずれ来るだろう希望を信じて――」
演奏が始まる。
オメガが地下都市の文明資産保存のデータベースから見つけだした音楽の中から、アルファの声に見合ったものを選んだのだ。
コンピューターによる合成演奏であったが、それはオメガがアルファのために奏でる最高の演奏だったのである。
夢の時間は流れる。
一曲、一曲と流れ去る中で人々の顔に笑顔が浮かんでいた。
そして、都市の中は〝喜び〟に満たされる。
歓声が溢れる。
歓声はうねりとなる。
誰もがアルファの歌声を後を追い、口ずさんでいる。
そしてそこそが――
「そうよ、これよ」
――アルファたちの創造者が求めたものなのだから。
そして5曲目が終りを迎える。その都市の中に笑顔に満ちていない場所は存在しなかった。
唯一、一握りの者たちを除いて。