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3:マモルモノ

 そして特殊過程の育成が始まった。

 

 アルファの歌声は世界へと響く。

 すべての物体の分子構造に影響を及ぼし活性化させる。

 汚染を除去し、

 遺伝子の誤りを正し、

 生物の輪廻をあるべき姿へと戻していく、

 

 それはあらたな始まりをもたらす歌声だったのである。

 

 小規模な実験はすべて成功した。

 動物実験、志願者を募っての臨床実験――

 いずれも回復が認められた。

 

 そしてついにその日は来た。

 地下都市の外に出ての〝屋外実験〟である。

 だが、地下都市の外には危険が満ちていた。

 とてもアルファ単独では危険すぎた。だからこそ――

 

――護る者――


――が必要だったのだ。


 

 ~     ~     ~

 

 

――カシン、カシン――


 それは聞き慣れない足音だった。

 

「オメガ、到着しました」


 それがアルファを〝護る者〟だった。

 

「ご苦労さま。思ったより早く完成したのね」

「はい、再利用可能なパーツが充実してましたので」

「良かった。オメガが揃わないと屋外教育が承認されないから」

「星の自然を回復させるための浄化実験ですね」

「えぇ、屋内での小規模実験はすべて成功してるから」


 そして、人々がオメガを見つめる。その女性は問いかける。

 

「ようこそ、オメガ。あなたは自分の役目を知っている?」


 オメガは青い体。水色の目をしていた。だが表情は浮かべられない。

 頭脳は人間相当のアンドロイドだが、体は旧式な警備ロボットからの再利用だからだ。オメガは動かない唇で声を発した。


「はい、理解しています。惑星再生プログラム実行体〝アルファ〟の人心保護です」

「そうね。そして今日あなたは初めてアルファに出会うことになるわ。準備はいい?」

「はい、いつでもどうぞ」


 その声には期待が満ちていた。

 

「アルファをここに招いて」

「わかりました」


 女性の助手がアルファを招く。隣室で待機していたアルファは恐る恐るにその部屋へとはいってくる。

 

「さ、こっちだよ」


 その声と同時にアルファが現れる。その視線は怯えるようにオメガの存在を求めている。そして、その女性がアルファに説明する。

 

「アルファ、彼が〝オメガ〟よ」


 それは運命の出会い。始まりの者のアルファと、終わりの者のオメガとの邂逅。

 

「よろしくおねがいします。私があなたの警護と保護を担当する。オメガです」


 オメガの固有性格なのだろう。丁寧すぎる語り口、落ち着き払いすぎた口調、それは〝生真面目〟と言うにふさわしいものだった。だが――

 

「――――」


――アルファは呆然としてみていた。


「アルファ?」


 オメガが不審がって問いかける。だがアルファは見る見る間にその顔を赤くしていく。

 口元から息を吐き出さないようにこらえているのが見て取れる。そして――

 

「ごめん! もうだめ!」


――そう叫ぶと――


「あははは――!」


 今までに無いくらいの笑顔で笑い始めたのだ。それこそ周りが取り乱すくらいに。

 

「ごめん! でも我慢できない!」


 そして笑い声は響き続けた。

 アルファの声は空間を振動させてどこまでも響く。そしてそれは地下都市全体へと響き渡った。

 笑いが溢れた。

 笑いは笑顔をもたらした。

 明日の見えない地下都市の生活で人々の顔には笑顔はなかった。

 だが、アルファの声が人々に笑顔をもたらしたのだ。

 

「ちょっとアルファ!」


 その女性が慌てて静止しようとする。でも、アルファは止まらない。自分でも止められないのだろう。

 

「ごめんね。オメガ――」


 オメガが気分を害する。場合によっては二人のコンビネーションに影響を与えるかもしれない。それを案じたのだが――

 

「ユニークな方ですね」


 オメガの声には喜びがあった。そして――

 

「私を恐れていません。望むべき状況です」


――オメガにとってこれもまた望ましい状況だったのだ。


 そして、オメガは自らアルファのところへと歩み寄る。

 

「アルファ、大丈夫ですか?」


 そっとアルファの肩に触れる。だがアルファは拒絶しない。

 

「うん、大丈夫。顔を動かさずに話す人って初めてだったから――」

「それは仕方ありません。私の果たす機能のためには必要な事です」

「そうなの?」

「はい、私はあなたを〝護る者〟――あらゆる障害を排除する。そのためにはあなたを守れるほどに丈夫でなければならない」

「――丈夫――」


 その言葉がアルファに新たな思いを与えた。

 

「わたしのために?」

「はい」


 オメガは力強く告げた。それが彼のアイデンティティだから。

 そして、アルファの瞳に涙があふれる。

 アルファが右手を差し出す。そしてオメガも右手を差し出し、その手をそっと握りしめた。

 人間らしいやわらかなアルファの右手と、

 擦り切れ使い古された機械そのもののオメガの右手、

 全く違う2つだったがそれは確かに握手を交わした。


「――ありがとう。これからもよろしくね」

「はい。お任せください」


 そして二人はかけがえのないパートナーとなったのである。


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