ひとみしり
「あ、ええと、なにも、付いてないよ」
1号さんは怪訝そうにこちらを見ている。何か話さないと。
「ええと、1号さん、名前は?」
「叶・・・・・・紅華です」
1号さん改め叶さんは目線で玲子の名前を聞いている。
「私は、鹿島玲子。よ、よろしく、お願い、します」
ダメだ。どもってしまった。男子ならともかく、女子と会話するのにここまで緊張するなんて。
会話が止まり、2人の間に沈黙が訪れる。玲子は時間稼ぎのように、今更自分の前に置かれたPCを起動した。
(なんというか、むずむずする)
玲子は心の中で呟いた。
先程叶さんの顔を見た時に感じたあの高鳴りというか、昂りというか、アレはなんだったのか。
一目惚れ?それはないだろう。だって、ええと、叶さん女の子だし?
世の中にはそういう人もいるらしいけど、私はそうじゃない。はず。
小学生の時好きな男子いたもん。
沈黙に耐えきれずに玲子は紅華に尋ねた。
「叶さんは、パソコン部、入るの?」
「えっと、はい、そのつもりです」
「そうなんだ」
「はい」
再び沈黙。やばい。なまじ1度話振ってただけに、超気まずい。
どうしようと考えても、どうしようとしか答えが出ない。
無限ループって怖いね。無限といえば円周率って今何桁まで出てるんだろう。
そんな現実逃避的な思考と沈黙を破ったのは叶さんだった。
「鹿島さんは、パソコン部、入部するんですか?」
「ええと、まだ考え中かな・・・・・・?」
「そうなんですか」
「うん」
三度、沈黙。
人見知りって大変ですよね!よくわかります!
私もリアルタイムで痛感してます!
ああ、もうダメだ。これこのままずっと喋れないやつだ。
hahaha、終わった。オワタオワオワオワリンコだ。
なんだそれ。知らん。今思いついた。
脳内で1人会話を垂れ流しながら玲子は沈黙を噛み締めていた。このまま新しい性癖とかに目覚めそう。
「あ、ごめん、パスワードとか教えてなかったね」
幸いというかなんというか、新たな性癖に目覚める前に佐久間先輩がやってきた。優しい。
「なんか紅華ちゃんと玲子ちゃんお見合い中のカップルみたいだね。仲良いの?」
仲良くなりたいです。
「お見合いの時点ではまだカップルじゃないだろ」
ツッコミが聞こえた。そちらを見ると男子の先輩がこちらを見ている。名前は、ええと、
「え?上島君、お見合いってカップルがするものなんじゃないの?」
上島先輩か。
「なわけなかろう」
お見合いについて佐久間先輩に教える上島先輩。これが高校生の会話か。なんかシュールだ。
「・・・・・・あの、鹿島さん」
隣から叶さんの声が聞こえた。不意打ちだったのでちょっとドキっとしてしまう。
「何?叶さん」
「鹿島さんは、その・・・・・・私の事、知ってるんですか?」
・・・・・・ん?どういう意味だろうか。
「知らないなら、いいんです。気にしないで」
そんなこと言われたら尚更気になってしまう。
けれどそれからも沈黙が続いて、結局聞くことはできなかった。
どうしても気になってしまう。『私の事』とはなんなのか。考えても分からないので、玲子は昨日作った玲子と由那と縁と紗奈のLINEに早速疑問を投げかけた。
玲子「叶くれはさんと同じ中学だった人いない?」
由那「誰それ(`・ω・´)」
縁「私と紗奈はそうだけど、どした?( ˘ω˘ )クソネミ」
玲子「実はさ」
「今日の部活体験で叶さんに『私のこと
知ってるんですか』って聞かれて」
縁「あ~あれかな多分」
縁「叶さんにはさ、ちょっとした噂があってね。
私もよく知らないんだけど、金貰えばどんな男とでも付き合うんだとか」
由那「まじかΣ(・ω・;|||」
紗奈「あくまで噂だよ。確証はない」
「どんな男とでも、付き合う・・・・・・」
玲子は思わず口に出していた。
それはつまり、金を貰えば『そういう事』もすると言うことなのか。
事実だったらショックだ。確かに、叶さんはウルトラ可愛い。こんな子と、その、付き合えるなら、多少お金くらい払ってもいいや、と男子なら考えそうだ。
でも自分が言うのもなんだが、叶さんは人見知りだ。
こういう事ができるとは思えない。いや逆にそれが隠れ蓑になって?
実際はどうなのだろうか。
(本人に聞く訳にもいかないよね)
玲子考えるのをやめ、お礼を言ってから布団に潜り込み、眠りの妖精が訪れるのを待った。
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